見出し画像

すこしふしぎなデザインのための「政治」(Image Cast#133より 前編)

このテキストは、Image Clubあずまさん鉄塔さんが行っているポッドキャスト「Image Cast」#133に、ふしぎデザインの秋山がゲストとして出演したときの配信をベースにしたものです。テキストの書き起こしには、webサービス「Podex」を利用させていただきました。記事タイトルにもなっている素敵なタイトルはあずまさんによるものです。
テキストに書かれていない部分も音声ではお楽しみいただけますので、ぜひお聴きください!

〜あらすじ〜

風邪を引いてお休みのあずまさんの代わりにニセあずまとして出演する秋山。同じアトリエで仕事をする鉄塔さんと話すうちに、話題は「いかに良い制作をする環境を作れるか」に。企業に勤めたのちに独立した共通のバックグラウンドを持つ2人が話す「作ること」と「政治」とは?


サラリーマンがフリーランスになって気づいたこと

秋山:……それは結構サラリーマン時代の経験が大きいです。 デザインとか企画とかの人って、自分が考えているものをプレゼンテーションする機会が多いんです。 そこで非デザイン部署の人に考えを説明することになるので、「この色はなんでこうなってるの?」みたいな質問に対して、「これは今年の流行色だからそうなってるんです」とか、「既存製品からモデルチェンジした感を出すために全然違う色を使ってます」とか、「水に関わる製品なので青くしてます」とか、多少解像度を荒くしてでも言葉にして説明するってことは結構求められるんですよね。
例えば後輩が病欠のとき、プレゼン資料を代わりに説明しなきゃいけない時とかもあるんで、自然とそういう説明力はつきますね。

鉄塔:なんか政治みたいな話が結構入ってきますね。

秋山:でもすごく感じる時ないですか?政治。

鉄塔:そうですね。ものを作る時って、「いいでしょこれ」じゃすまないから。結局企画が通るかどうかって、「いいかどうか」だけでは決まらない。
秋山さんがプレゼン資料を作ってるときって、説得の流れが決まってるから資料の流れもきれいになっているときがあって、面白いですね。

秋山:デザインも、ほかのプロジェクトも政治というか……人と人の関わりがうまくいってれば成功に近づくし、うまくいってなければ遠ざかるっていう場合が多いような気がしていて、最近ちょっと興味のあるトピックではありますね。狭義だけではなくて広義の政治。
例えば、以前デザインの勉強会みたいなイベントに参加したことがありました。コンサル会社のビジネスデザイナーさんが講演してたので聞きに行ったんですけど、その人が学んでたアメリカ西海岸のかっこいいデザインコンサルティングでも似たようなことがあるらしいので驚きました。 最初はすごくスマートなデザインの解決策を提案してクライアントを説得するらしいんですが、どうもコミュニケーションがうまくいかない、どうしようもないという時には、 アメリカの飲み会マスターみたいなやつが出てくるみたいなんです。

鉄塔:海を越えても飲みニケーションなんだ。

秋山:そう、めちゃめちゃ飲みに行く、すごい勢いで接待するって言っていて。なんかそういう感じなんだ、サンフランシスコとかもとか思って。よくも悪くも、なんかそうなんだって思っちゃいました。

鉄塔:結局そうなんですかね。まあ、これは良いとか悪いとかって話ではなく、 現実っていう感じ。

秋山:作る人って、僕もそうだし、鉄塔さんも多分そうだと思うんですけど……自分の机の前に座ってコリコリやってるのが結構好きじゃないですか。

鉄塔:そうですね。

秋山:でも机の前と外の世界とを繋ぐ人っていうのが必要で、それを自分がやんなきゃいけないタイミングがたまにある。
必ずしも接待をしなきゃいけないってわけじゃなくて。例えばSlackとかでちょっと面白いコミュニケーションを取ったりとか……「クライアントさんに気に入られる」ではなくて、仲良くなることとかは、最近すごく考えることの一つではありますね。

鉄塔:一種の通訳をしているようなところはちょっとありますよね。

秋山:ありますね。 例えばあるクライアントさんにとっては、デザイナーが粘りたいからギリギリまで詰めたい、みたいな感覚って、あんまり理解できなかったりするかもしれない。

鉄塔:もうこれで行きましょうっていう空気なんだけど、作ってる側としてはまだ作り込みたいみたいな。

秋山:そうですそうです。そういう時に「もっと詰めたいんでもっと詰めます」だと理屈になってない。 だから「プロダクトの細かいRを調整すればユーザビリティがちょっと上がります」とか「文字のスペーシングを詰めることによって可読性が上がるので、それにもう少し時間をください」みたいな、ある種適当なことを言って調整させてもらうことがあったりします。

鉄塔:なるほど。

秋山:もちろん方便でないときもあるんですけど、それで時間を稼いで制作チームに作業をお願いしますみたいな。いちデザイナーとしては何やってんだろうみたいな時もありますね。

鉄塔:でも、作れる人も作ってほしい人もいるけど、それを繋ぐ人がいないからうまく回らないプロジェクトって、今まですごくたくさん見たなという気がするから……。

秋山:そう、だから制作サイドと話もできるし自分も制作できるけど、仕事を出す人と話ができるっていう感じになりたいなっていうのが最近の心持ちですね。全然デザイナーっぽい感じではないけれども。

鉄塔:いや〜、なんか大人ですね。

秋山:う〜ん、わかんないです。

鉄塔:僕もできたらかっこいいなと思う時期はあったんですけど、あんまりうまくいかなかったんですよね。どうしても作り手の枠から出られなくて。それをちゃんとやってるっていうか、仕事を生み出す立場として動いてるっていう立ち回りが、ふしぎデザインっていう「会社」になってるじゃないですか。

秋山:そうですね。

鉄塔:で、それで会社として社員をたくさん雇っているってわけではないかもしれないですけど、結構学生にいろいろ仕事を振って。

秋山:そうそうそう。

鉄塔:作業の難しさに応じて学生に振ることもあれば、プロのデザイナーに振ることもあれば。いろんな人に仕事を振るのが上手いというか、そういう動きに慣れてるっていう感じはしますよね。

秋山:ほめてもらっちゃった。(笑)
それも基本はサラリーマン時代のやり方を踏襲してるところがあります。サラリーマンデザイナーって、ディレクター的な役割にならざるを得ないことが多いんですよね。

鉄塔:はいはいはい。

秋山:社内のプレゼンがいくつかあります、というときに、時間的にも能力的にも全部自分でやることはできないから外部の人にお願いすることが多いんです。プロダクトで言えば、社内の自分は形だけ作って、柄は外部のグラフィック事務所さんに作ってもらう。その時の感じを参考にしてるっていうのはありますね。
独立してから思ったんですけど……メーカーの中にいると、相当守られてたんだなっていうのはすごくわかる。なんかないですか、そういうのは。

鉄塔:いや、それは間違いなくそうだなって思いますね。

秋山:メーカーの中にいた時は、試作屋さんとか外部のデザイナーさんみたいな人が「呼んだら来てくれる」みたいな存在だったんですよ。

鉄塔:そうですね、呼んでもないのに営業で来てくれたりとか。社内の自分は大事にされてる存在だった。

秋山:そう、大事にされてたのに気づいたタイミングがあったんです。メーカー時代にある会社さんの大阪本社にお世話になってたんですけど、独立後にそのつてで東京支社にお仕事をお願いした時に、じゃあ来てくださいって言われて、あ、人数少ない方が行くんだ、って初めて気づいて。

行ってみて分かったんですが、訪問して打合せすると半日終わっちゃうんですよね。それを今まで全部相手の負担にできていた。いかに座布団の上にいたかということですよね。
だから仕事を出す側の気持ちも、出される側の気持ちも何となくは分かってるから、それをある程度調整できるっていうのは長所の一つかなと思いますね。

鉄塔:なるほど。雇われ時代の経験を使って、一回フリーになって会社化しているけど、めちゃめちゃ活かしてるっていう感じがありますね。

秋山:そうですね。

鉄塔:だいぶ前に「フリーランスになった方がいいか」みたいな話をImage Castでしたことがあって、一回は会社員になっとくと良いって話したんです。 「会社員じゃないと得られない知見」を経験できるという面はありますよね。その時僕はあんまり言葉にできなかったんですけど、そういうことなんだなと。

秋山:なんか意思決定のお作法みたいなやつもあって。

鉄塔:そう、作法。結局会社員っぽさがフリーでも求められてしまう時があるから。

秋山:フリーランスで誰もが認めるほどの実力があって、個人のセンスで仕事が取れる、みたいな人はその限りではないと思うんですけど、僕も含めてそうではない人はある程度お作法があった方がウケるというか。

鉄塔:センスと作法、両方あるのが一番。(笑)

秋山:両方あるのが一番。大体すごい活躍してる人ってありますもんね、両方。


美しいものを作るために必要な「政治」?

鉄塔:iPhoneの角のRって、iPhone4の時は多分ただのRだったんですけど、5から複雑なぬるっとしたただのカーブじゃないRになったんですよね。で、僕がiPhoneケースを作った時にどうしてもぴったり合わなくて、すごい苦労したんです。 その時は何だろう、変なカーブだなと思ってたけど、曲率連続性とか言うじゃないですか。

秋山:言いますね、 G1(接線連続)、G2(曲率連続)とか。

鉄塔:そう、複雑なカーブにすると反射のツヤの動き方が良くなるみたいなことがネットで言われていて、確かに言われて気づいたみたいな。

秋山:量産するものだからそれだけ気合い入れてやるってことなのかなと思うけど、逆に言うとスマートフォンは基本もう四角い基板に四角いディスプレイがくっついてるだけだから、デザイナーは角ぐらいしかいじれないみたいな感じで大変だろうなって思う時もありますね。

鉄塔:自社の既存製品や他社製品と、似てしまうけど似せてはいけないみたいな、難しい縛りがありますよね。

秋山:そうそう。iPhoneとかもモデルチェンジの度に、側面が四角いタイプと丸いタイプが交互に出てたりとかするじゃないですか。

鉄塔:丸くなったなと思ったら角ばったのが出たなとか、黒くなったと思ったら白くなったり。

秋山:その度に新しくなりましたって言うけど、それって実はインダストリアルデザインの限界もあるなあって気がしますよね。もちろん仕上げだったり形は無限に可能性があるんだけど、コストであったり使いやすさみたいなことを考えていくと、「どうしてもそうならざるを得ない」みたいなところもおそらくあって。
だから多分Appleとかで今楽しそうなのって、イヤホンとか……は、まだデザイナーが形を作れそうな感じはしますよね。あとはディスプレイとかかな。

鉄塔:HomePodとかどうですかね。あれは結構何やっても良さそう。

秋山:HomePodはそうかもしれないです。何でもいいですよね。スピーカーと基板がうまく入ればいい。

鉄塔:あれは結構不思議な形してるっていうか、布の編み方から考えてるらしいですよね。

秋山:そんなにデザインにお金かける会社なかなかないから、本当にすごいなと思います。でもそれも本当、政治の話で。

鉄塔:また政治だ。

秋山:すみません、また政治の話。(笑)
「デザインがいい」と言われるような会社って社内でデザイナーの立場が上な会社のことが多いんです。例えばAppleとかだと上級副社長にインダストリアルデザイナーがいた時代があったり、有名なデザイン家電と言われるバルミューダとかも、社長さんがデザインもすごい好きだったりとか、いわゆる意匠とか体験に関わる人が上の立場にいる。

でっかいメーカーとかだと、営業系と開発系、大体その二大巨頭のどっちかが社長とか責任が重いところをやることが多いんです。でも役員とかにデザインの人が食い込んでいってると、社内でデザインがやりやすくなって……というかデザイナーの言うことが聞き入れられやすくなって、結果的にいいデザインと言われるものができやすくなる、っていう話がありますね。

鉄塔:(デザイナーが重役になると)反対側ではちょっと別の苦労があるところを、でもある程度デザイナーの声を政治でうまく通せるっていう雰囲気があるんですかね。

秋山:あるみたいです。

鉄塔:いやでも難しいですよね。理屈にしづらいとこですもんね。

秋山:そうですね。僕もある人と話したときにそんな雰囲気を感じたことがあります。初対面の印象はすごくセンスあふれるデザイナーさんだな、みたいな人が、「僕はまずマネージャーになってからやったのは、社内の下地作りです。企画の人や開発の人といかに仲良くなって、自分やチームの言うことをいかに採用してもらえるようにするか」みたいなことを言ってて、「めっちゃ政治じゃん」と思った。(笑)

鉄塔:僕は政治が苦手なんですけど……。(秋山注:そんなことない)

秋山:僕も苦手なんですけど……でもやんなきゃいけないなあって思うことが増えました。

(後編につづく)

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?