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書評;中山七里 「夜がどれほど暗くても」

こんにちは、匤成です。今日は中山七里(なかやま しちり)著「夜がどれほど暗くても」をご紹介します。中山は男性小説家です。

中山七里といえば岬洋介シリーズ

中山七里と聞けば「さよならドビュッシー」といったクラシック音楽家の名前がついた書名を思い出す方もいると思う。あれは“岬洋介シリーズ”と呼ばれていて、ピアノが弾けるイケメンが音楽に関係した謎を解いていくというお話らしい。私はまだ未読であるが、今回の作品が良かったのでいつか読んでみたい。


「週刊春潮」の元副編集長

主人公の志賀倫成は「週刊春潮」という雑誌の副編集長だった。そして、最初の1行目からフラグが立っているのだ。
取材対象の一人や二人、死のうが潰れようが関係あるか。それより雑誌が売れるかどうかだろ」

乗っけから主人公が部下を怒鳴りつける。そう、今度は志賀本人がカメラに追われる身になる。志賀には健輔という息子がいる。都内で比較的近くだが、仕事を盾に家庭を顧みなかった結果として家庭内の事に疎く、息子とも疎遠だった。

そんな時、警察から電話が入り、健輔が通う東都大学の教員夫妻が殺されたという。しかも、健輔が横恋慕した上で、心中を図ったとして健輔も死亡しており、被疑者死亡のまま書類送検された。

そんな事件が起きれば世間が黙っているはずがない。マスコミも雑誌も志賀の周りや自宅にまで群がり、「人殺しの父母」としての責任を問う落書きと嫌がらせが続き、妻は精神科的にも肉体的にも大きなダメージを受けてしまい、実家に逃げ帰った。

それでもマスコミの仕事がある

加害者家族になったとはいえ、自分達が食べていくためにも仕事はしなくてはならない。商売柄、自分の雑誌からも叩かれる。自社雑誌が社員を叩かない事は「身内擁護」になってしまうからだ。

だんだん社内での風当たりも強くなる。それで今度は「春潮48」という雑誌の部署に配置替えになった。現実にあった「LGBTに生産性がない」と言い放った議員の書いた記事を載せたところで、さらにその議員を擁護して炎上した『新潮45』そのものだ。

まず、アイドルの不倫相手から情報を引き出して来いと言われて相手宅に待ち伏せるも、イベント会社の社長にスマホを向けられ、正論ぶった物言いに怖じけつき言質が取れなかった。

次は、駅前でのアンケート調査だった。本来はバイトがやる仕事だそうだが、それさえも上手く出来ない。インタビューに成功しても、青くさい若者のサラリーマンに先の議員の事を貶され、周囲もスマホを向けたりして馬鹿にされた。

この聞き取り動画が拡散されて、大学教員殺害事件の父親と吊し上げられた。この貶し方、ツイッターの書き込みが現実っぽくてゾッとする。 

「あんなヘイト雑誌、存在する意義はねぇ!」
「クソな雑誌にはクソな人材しか集まらないという法則」
「人殺しの父親が春潮社にいるの隠そうとするのが必死すぎて草」
「親父も会社も早く潰れろ」
「毒は毒を持って制す」
「毒は二倍だけどなwwww」

これらは正面から発した悪意ではなく、善意、善行と思って行われている事が問題だ。

まさに「リア恋番組出演者叩き」事件と同じ構図である。自分の見方しか正当化しないので、側からみれば見苦しい事この上ないのだが、彼らは気付いていない。善意・善行をしていると思っているからだ。

ツイッターや2チャンネルはそうした輩の宝庫だ。私もよく直面した。
ー 自分は批判しているだけだ。批判の本来の意味は云々かんぬん ー
 
とはいえ、それが正しいかどうかなど彼らは気にしていない。同じツイッターユーザーやYouTube配信者がいじめ動画をアップしたり、ほぼ犯罪な事を平然としているのだ。正論と聞いてこちらが恥ずかしい。だから私はツイッターユーザーもYouTube配信者も信用していない。苦手である。

大学教員の一人娘

大学教員夫妻には14歳の娘がいた。父方と母方の双方の祖父母もなく、今回の事件で天涯孤独となった。
志賀は「加害者家族の心をケアする会」を見つけて足を運ぶが、そこには被害者家族も入会しており、かの事件の一人娘がいた。

同じ事件の関係者同士は入れられないので、志賀はやむなく入会を断られた。少女からは激しく罵倒され、スーパーに出れば敵討ちとナイフで斬りつけられるなどした。そこで志賀はマスコミ自体に培った取材技術で仕返しをしようとする。自宅にはいないまでも、保護されているならサーチして居場所を無くしてやろうとしたのだ。

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