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【書評;】 渡部良三 歌集 『小さな抵抗-殺戮を拒んだ日本兵』

こんにちは、匤成です。歌集を何冊か読みました。

渡部 良三(わたべ りょうぞう)

1922年生まれ。中央大学に在学中に学徒出陣( 学徒動員 )によって中国は河北省に駐屯していた陸軍に加わる。

唯一残された記録の方法

歌人として活動したというより、文系として学業を修める前に出征してしまったから、自分には小説や詩に覚えがなかった。でも短歌なら多少はと、紙や筆記具が限られたなか、何とかこの惨さを伝うべく、短歌の型におさめたという。

この歌集は、帰還後、50年の節目に2011年に発表された。功績を挙げなかったのが幸いした。靴の中敷きや見つかりにくい場所に詠んだ歌を書いた紙を隠して持ち帰った。

いかがなる理にことよせて演習に罪明からぬ捕虜殺すとや

殺戮を拒んだ理由

「殺戮を拒んだ」理由はキリスト者だったことにある。聖書には人を殺めてはならないと書いてある。父親・弥一郎の丹念な教えを日本兵になった後も守ったようだ。

命は尊いと教えられていただろう。渡部のWikipediaもあった気がしたが、今は見当たらない。カソリックと書いてあった覚えがある。“殺してはいけない”という主の命令に従わなければ、こんな人生ではなかっただろうけど、本物の戦争のリアルを語る未来はこれがあったからこそ出来たことだ。

その後の信仰は語られていないので、終生キリスト者だったのかは知らないが、少なくとも渡部は当時の自己を恥じてはいない。非論を唱えて講演などを行なっていたようだ。

「捕虜殺す」を拒否する

出征を求められて学徒動員には応じたが、配属先を転々とする。初めから【人は殺めぬ】と言い切っていたから、どこからも入隊を拒まれ、あぶれ者だった。

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