style of yasyoku

・「夜中にサンドイッチを食べるのは、おいしいもんだねえ」とムーミンパパは言っていた。これは全くその通りで、朝に食べるソレとは味わいが格別に違っていたりする。

・まず、夜食というのは「欲求を満たす為の食事」であるということだ。昼間の食事は活動する為のエネルギー源として消費されるが、夕食からその辺は怪しくなる。ディナーを優雅にするのは「その食事は本来必要なく、余裕を持って愉しむものだから」という意図が見える。そう。既に「夕食」の段階で、一日の食事は本来完結するのだ。ただ、夕食後にも関わらず「ああ、なんかお腹減った」というストレートな欲求が何故か我々には押し寄せてきてしまう。そして「これはいけないこと」と思ってしまう。夜食の醍醐味は背徳感にこそあるように思える。

・僕の家族はみんな、夜食が大好きだ。大抵、夕食が終わった後、主に入浴後に何かしら食べている。それはポテトチップスであったり、アイスであったり、下手すると母がパスタを茹でてくれたりする。堕落したムーミン一家のような様相だ。そんな中でも、母方の実家に行くと、ひときわ不思議な組み合わせの夜食が出てくることがあった。

・母方の祖母は調理師免許を持っていた。そんな祖母が夜食として出してくれたのが「味噌おにぎり+コーンスープ」という組み合わせだった。出汁味噌をお米に纏わせたおにぎりと、顆粒ではない生タイプのコーンポタージュの素を牛乳やらバターやらで伸ばしたコーンスープ。この、一見ミスマッチな組み合わせが、たまらなく美味しいのだ。おにぎりの中にはシャケが入っていることもあった。祖母の料理はなんでも美味しくて大好きだったが、この、不思議な組み合わせながらもなんてことのない夜食が一番好きだったりした。

・祖母は故人だ。もう二度とオリジナルの味噌おにぎりとコーンスープを食べることは出来ない。母が真似ても、同じものは作れない。おにぎりはシンプル故に近付けることはできても、コーンスープは難しい。ただ、このコーンスープにハマり過ぎた故に、弟が近しいものを作ることには成功した。決して祖母の作っていたソレとは微妙に違うのだが、「ああそうこの感じ」という雰囲気は出せるようになった。思い出の味であり、忘れられない大好きな味。やさしい祖母の記憶。

・「味噌おにぎり」という食べ物があたかもポピュラーかのように僕は話を進めてしまったが、皆さんはこの食べ物がピンときているのだろうか。一応拾い物の画像を載せておく。ちなみに画像のものは表面を焼いているが、祖母が作ってくれたのは焼かずに味噌を塗るだけのタイプのものだった。どちらも好き。

・ひとりで暮らすようになってからは、そもそも「夜食」の概念が崩れてしまった。寝る時間も起きる時間もバラバラになったせいで、19:00に友人と食べる焼肉が起床後2時間以内の食事になってしまったりする。ただ、味噌おにぎりは作ることは無くても「ご飯に味噌をつけて食べる」ということはしたりする。御行儀が悪い！とか、塩分濃度が！とか、そう言いたい人がいるのもわかる。ただ、僕は北の男なのだ。塩分を愛して止まない。沢山水は飲んでいるのできっと大丈夫。

・「酒の肴」には塩辛いものが多い。小さい頃からそういったものが好きだったので「たっちゃんは酒飲みになるぞ〜！」と親戚一同に見込まれていた。しかしながら、大人になった僕は、全くの下戸だった。何を飲んでも後味のアルコールで気持ち悪くなるし、身体は赤くなり、湿疹が出る。そのためコーラ大好きな大人として打ち上げには楽しく参加しているが、酒を楽しめないことが少し寂しくなったりもする。

・酒の失敗、というのはあまり無いはずだが「ドラムスタンドと会話していた」「水が甘い！を連呼していた」「植え込みの木とxxxしようとしていた」など、エキセントリックな行動の数々が報告されている。記憶はおぼろげなので、本当に自分がやっていたのかは定かではない。全て20代の頃の話なので、今となっては流石にここまでの奇行に走ることはないだろうが…いや、どうだろう。むしろノリノリでやるとかあるのかもしれない。

・夜中に誰かと飲みに行く時に食べる居酒屋メシが、最近では「夜食」となることが多いかもしれない。敢えていうならば。そこのメニューには、味噌おにぎりやコーンスープというのは中々無い。ただ、祖母の作ってくれた夜食を食べてすくすく育った自分が、今は誰かと楽しい夜を過ごせていると彼女が知ったら、少しは喜んでくれると思う。なんやかんや楽しくやれているから。居酒屋とか数ヶ月行けてない。早く落ち着いて欲しい。生きていると色々ある、って本当にそう。美味しいものを食べて、なるべくごまかしていたい。

fusetatsuaki