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いつも傘をさいていた私

私は人より目立たないようにと
気を使って生きてきた

背が小さいのは不便だけど
目立たないから気に入っている
顔も白くてパーツも小さくて
すごく控え目な作り

あんまり目立たない

ある日、知らない街に出かけた時に
小さな傘の専門店を見つけた
何となく入っただけなのに
晴雨兼用の黒い傘に一目惚れした
何の飾りもないシンプルな傘なのに

その日から出かける時は
天気に関係なく
いつもその傘をさして歩いていた
傘が邪魔にならないように
混んだ道を避けた

晴れている日でも
陽射しに責められている感覚を
回避できるし
人とすれ違う時は
顔を隠せる

不思議なくらい心地いい

そんな生活が半年ほど経った時
ふと疑問が浮かんだ
「どうしてそこまで
 目立たないようにしてるんだっけ」

突然、小学生の頃の記憶が蘇る
縄跳び大会や体力測定の懸垂の時
失敗したりリタイアした子は
その場に座り回数が多い人は
いつまでも皆んなの前でやり続ける
嫌なシステム
近くで座ってる気の強い女子に
「目立とうとするな。早く終わらせろ」
と毎回睨みつけられる

学級会の話し合いで
誰も発言しないから
勇気を出して発言してみても
「それは違う!」と
若い女の担任に怒鳴られる

帰りにクラスの数人に
私の発言の何処が違うのか聞いてみた
皆んな同じ事を言う
「間違えてなんかないよ。
 ただ先生が求めていた答えじゃ
 なかったんだよ」と


大人になってからもそうだ

何かの集まりで発言すると
皆んなとは発想が違うらしくて
目立ってしまう
優しい人たちの集まりだと
私のアイデアを採用してくれるけど
トゲトゲした人たちの集まりだと
一部の人が賛成してくれても
「おまえごときが何言ってるの?」
と言わんばかりに否定され
グループ内の権力者の
アイデアが力ずくで採用される

そうやって段々と
自分は目立たないように
静かに生きていくしかないと
思うようになっていた

気がつくと小雨の中
誰も通らない道の端っこで
大きな水たまりを見つめながら
ぼんやり立ち止まっていた

「久しぶり!」
聞き覚えのある声
私が密かに心を寄せている人が
傘の横から覗き込んでいた

「こんにちは」
恥ずかしくて俯いたままの私

突然、彼の長い腕が傘の柄を掴んだ
私は驚いて柄を離す
見えていた世界が一気に明るくなった

彼は私の傘をたたみながら
自分たちの真上を指差す
空には大きなダブルレインボー

「もう傘はいらないんじゃない」
彼が優しく微笑んで
たたんだ傘をそっと渡してくれた

もう、この傘は
雨の日だけでいいかなって
何となく思えた




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