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温かい雪の中で

少女はひとり踊っていた。
真っ白な雪に染まった小さな公園で。
妖精のかけらみたいなフワフワした雪が、空気の中を泳いでいる。
白の中で少女の着ているダッフルコートの青がヒラヒラと舞う。
僕は両手をポケットに入れたまま、見知らぬ少女をしばらく見つめていた。
少女のはずむ息が白く消えてゆく。
木から重そうに積もった雪が落ち、それと同時に少女は白の中へと倒れていった。
僕は慌てて少女のもとへ走る。
大の字のまま空を見つめる少女は淋しそうに笑った。
「このまま雪と一緒に溶けちゃいたい」
少女の顔の上で白が透明に変わってゆく。
僕は静かに少女の隣に腰を下ろした。
「今も過去も嫌なこと全部忘れたいから、雪と一緒に溶けて水になるの。そして土から花に吸収されて花の一部として生まれ変わるの」
見上げた空の灰色から、いくつもの白が僕の目の中に飛び込んできた。
「僕は……」
少女は起き上がり、僕をのぞき込んで真剣な目で見つめた。
「僕は雪と一緒に溶けて水になったら、川に流れ込んで海に行く。たどり着いたら、深い深い太陽なんて届かない海の底でゆらゆら揺れながら静かに穏やかに過ごしたい」
少女は優しく笑った。つられて僕も笑った。
なぜだか、とても懐かしい気持ちになった。
そして二人は雪を払い、手を振りながらそれぞれの道を歩き出した。
温かい雪の中で。


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