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猫の足跡

空き地の木の下に茶色い猫がいる
晴れた日はいつもそこでお昼寝
薄茶色の柔らかそうな毛が
陽に照らされてる
両手を揃えて眩しそうに
通りがかる人たちを眺めている

散歩中の黒い大型犬が
古い家の柴犬に吠えかかる
吠えて吠えて
自分の強さを主張する

柴犬は少し離れた犬小屋の裏で
素知らぬ顔で
オモチャのボールを噛んでいる
諦めた黒い大型犬は
飼い主に引っ張られながら去ってゆく


幼稚園バスから降りてきた女の子が 
母親に抱っこをせがむ
抱っこされて安らいだ顔の女の子と
少し重そうにしながらも
優しい母親の笑顔

猫は目を細めながら
目の前に起こるありふれた日常を
ジッと見つめている

私はそっと猫に近づき
「君は幸せ?」と聞いてみた
「にゃーん」
猫は私の足元に頭を擦りつけている

私はしゃがんで猫の頭を撫でた
「私、幸せになってもいいのかなぁ」
「にゃーん」
猫は横たわり私の方へお腹を見せた
「もっと自分をさらけだしてみたら?」
そう言われているような気がした

郵便配達のバイクが近くに止まる
猫は慌てて木の下まで逃げて
私の方を振り返る
「バイバイ、またね!」
猫は何も言わずに家の奥へと消えて行った

「幸せになってもいいよ」
猫が答えた訳じゃないけど
肩に入っていた力がスッと消えた

水を含んだ土の上に
猫の足跡が残されている
私も人生に足跡残さなくちゃ
何となくそう思えた

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