写真多め!フランク・ロイド・ライトの傑作「落水荘」に行ってみた 〜過去に起きた崩壊の危機〜
落水荘の2階へ
室内から行く場合、リビングルームにあるカウフマン・シニアの肖像画脇の階段を上がっていく。東西2つのテラスからもアクセスできるが、それはいずれ紹介するとしよう。
階段を上がって右側にあるのが来客用の寝室。メインハウスには寝室が4つあるが、来客用は1つしかない。その理由もいずれ。
なお、部屋の場所がわかりにくいので、以下の記事で使用している間取り図はアメリカ議会図書館のアーカイブから引用させてもらった。
さて、この部屋をよーく見ると、やや違和感がある。ベッドはシングルサイズだが、ヘッドボードの横幅と明らかにマッチしていない。そう、この部屋にはもともとダブルベッドがあった、あるいはダブルにする予定だったのだ。なぜシングルに変えたかの説明がガイドさんからあったはずだが、完全に忘れてしまった。ごめんなさい(汗)
落水荘の各寝室には専用のテラスとバスルームが付いている。この部屋のテラスは唯一の屋根付きなのだが、部屋からダイレクトにアクセスできない。いったん廊下に出る必要があるのだが、部屋よりも広い心地いい空間が広がっている。
部屋から出てすぐ左手にあるのが、専用のバスルーム。
バスルームの壁や床をよーく見てほしい。
一見タイルか石かと思うが、実はこれ、コルク。落水荘のバスルームは、すべての壁と床がコルクで覆われているのだ。
冷たくて硬い石より、こっちの方がいいだろ!
というカウフマン・ジュニアの提案らしい。肌触りはコルクの方がソフトでいいとは思うが、耐久性はどうなのだろう。交換しやすいのだろうか。
落水荘、崩壊の危機!
主寝室は階段を上がって真後ろの左手にある。自分が出遅れて、部屋に他の人が大勢入り込んでしまったため、全体の写真を撮ることができなかった。なので、部分的に切り取って紹介したい。
狭い廊下から部屋に入ると、とても広々した空間に感じる。ライトの得意技の1つだ。
入って右手にあるのが石造りの暖炉と造り付けのデスク。正直言って、ベッドよりこちらの方が存在感がある。
すぐ目に入るのが暖炉の上の聖母子像だ。これはカウフマン・シニアの妻リリアンのお気に入り。この像を置くために、ライトはわざわざニッチ(くぼみ)をつくった。ライトにしてみれば、ラッキーな申し出だったかもしれない。像を置いている台座の棚は、片持ち梁になっている。つまり落水荘のモチーフを、思わぬところでリピートできたというわけだ。
デパート経営をしていたカウフマン夫妻は仕事柄、アートにも造詣が深かった。その影響で落水荘にはさまざまな国のアート作品が飾られている。訪れた際には芸術品鑑賞の視点で見学するのもおもしろいかもしれない。
入口脇には、こんなアート作品が。ライトからカウフマンへのクリスマスプレゼントだ。
ベッドサイドにある照明もライトのデザイン。シェードが回転するので、手元を直接照らしても良し。あるいは壁を照らして間接光にしても良し。目的や気分に応じてマルチに使える。
ちなみに、ベッドサイドの照明は短くて垂直。デスク用は長くて水平になっている。先ほどのゲストルームにもあるので見てみてほしい。
写真の右側にはテラスがある。というわけで、窓の前にプランターを置いて、ゆるやかな目隠しにしている。日が良く当たって、植物が早く成長しそうだ。
主寝室の目の前には開放感あふれるテラスが広がっている。視線の先には美しく生い茂った緑の木々があり、なんとも心地いい。実はここ、落水荘で一番広いテラス。
テラスに出ると、小川のせせらぎや鳥の鳴き声、風で木々が揺れる音などが聞こえ、本当に心が休まる。まさにこれが別荘の意義であり、醍醐味だろう。
ここからが本題。
1995年、夏のある日の静けさをかき消す大騒動が起きる。
落水荘のスタッフに1本の電話が。
「私はジョン・ハグリーという工学部の学生です。実は卒論で落水荘の構造システムをテーマにしようと思って、コンピューターモデルをつくったんですよ。そしたら、とんでもないことがわかっちゃいましてね。落水荘、そのうち崩れますよ」
「ウソでしょ!?(冷や汗)」
(※会話の内容はすべて空想。でも流れはこんな感じ)
焦った落水荘スタッフは保護コンサルタントに速攻連絡。
でも返答は…
「ゾウがあのテラスで踊っても大丈夫だよーん。パオーン」
ここでこの言葉を鵜呑みにしなかった落水荘スタッフは偉い。
主寝室のテラスを調べてみると、なんとコンクリート製の欄干に亀裂が見つかるのだ。しかも、補修しても同じ場所で再び亀裂が発生する。これはどういうことを意味するのか。
“こりゃ片持ち梁がたわみ続けてるな”
普通なら、「こりゃやべー!早く直さなきゃ!」となるが、そこは偉大な歴史的建造物。安易な補修には走れない。というわけで、ほんの小さな動きも記録できるシステムを導入して、なんと1年5か月にもわたってたわみ具合を監視する。
で、結果は…
片持ち梁の端が十数センチもたわんでいたのだ。
というわけで、2001年11月から修復作業が始まり、翌年4月に終わる。冬の閉鎖期間にすべての作業を終えたので、ビジターシーズンに影響することはなかった。
ジョンと落水荘スタッフに拍手!
カウフマンが悩まされたものとは?
話はクライマックスを迎えてしまったが、2階にはまだ部屋がある。階段を上がって真後ろの突き当たりにあるのが、カウフマン・シニアの試着室兼書斎だ。これまた部屋全体がわかる写真がなくて申し訳ない。
試着室って何だ?という話になるが、ガイドさんの説明を忘れてしまった。こちらも申し訳ない。でも、書斎という使い方しかほぼしていないのではないだろうか。広さは来客用の寝室と同じぐらい。
さて、この部屋の窓にはいくつか特徴がある。
1つ目。
コーナーは片開き窓になっていて、すべて開けると垂直(縦)方向のフレームがなくなる。たったこれだけで開放感が5割増しになるから不思議なものだ。わかりやすい写真がなくて本当に申し訳ない。
2つ目。
上記の片開き窓の手前に黒いフレームの窓が見えるだろうか。まさにガイドさんが動かしているモノなのだが。これ、実は網戸。竣工当時はなかったらしい。でも、実際に暮らしてみたら虫が多くて、「はて、どうしたものか」と悩んだ末につけたのが、この網戸。いつ取り付けたかの説明を聞いたが忘れてしまった。ごめんなさい。
3つ目。
ガラスと壁が接する部分にフレームがない。ガラスが壁に直接埋め込まれているのだ。こうすることで室内から屋外への連続性が生まれる。つまり窓の外側も部屋の一部のような感覚になるため、狭い空間でも広く感じるというわけだ。しかも、内と外が同じ石積みの壁になっているため、その効果はマックスになる。
これ、職人さんが大変だったんじゃないかな。
実際に施工したガラス屋さんに聞いてみたい。
4つ目。
直接、窓の特徴というわけではないが、窓を開けるためにデスクの一部が、その動きに合わせて扇形に切り取られている。
凡人 → 天板に穴が開いてると使いにくいから、窓は天板の上までにして、その下は壁でふさいじゃおう。
天才 → 室内と屋外の連続性を実現するには、窓は床までにしないとダメでしょ。 天板なんて切っちゃえばいいじゃん。
というライトの思考がくみ取れる重要なデスク。でも、ただ穴を開けただけで終わらないのがライトのすごさ。その理由は最後に。
さて、この部屋の間取りがわかる写真を撮れなかったのが非常に悔やまれるところだが、実は部屋のほぼ中央にシングルサイズのベッドがある。間取り図と合わせて見てほしい。
左側にはバスルーム。
右側の通路を奥に進むと階段がある。
壁に掛けられているのは、歌川広重の「江戸名所猿若町繁昌の図」。
落水荘を見学していると、しばしば木版画を目にする。ライトは北斎と広重の作品を6枚、カウフマンにプレゼントしているのだ。ライトの日本への愛情が感じられるとともに、異国の地で出会う日本美術になんとも誇らしい気分になる。
ベッドサイドにある木製棚を見てほしい。わかりづらいが、どこかで見た形ではないだろうか。そう、デスクの天板の穴。扇形が同じ部屋の中でリピートされているのだ。こういうセンスは、さすが!と思わざるを得ない。
さて、次回は3階へ行ってみよう。
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