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映画館での出来事を思い出していたら、不意にやってきたある答えについて。


あることを考えてる最中に、全く別の問題の答えが「ああ、こういうことだったのか!」ってやって来ることがある。
答えまで至らなくても、いつか答えに辿り着けるかも知れない解決策のようなものがやってくることがある。

今週、そういう、やって来ることがあった。

先週の土曜日の深夜に、医師の中村哲さんのドキュメンタリー番組の再放送を観た。
2時間程の番組だったので、眠気に負けるかも知れないと心配したけど、気がつけば番組が終わっていたという程熱中して観ていた。眠気が入る隙なんてなかった。
多くの方がご存知の通り、中村さんは、医療が行き届かない外国の地に自ら出向き医師として活躍された方。また、アフガニスタンに大規模な用水路を作られた方だ。
2019年、中村さんは、アフガニスタンで車での移動中に、何者かの銃撃によって亡くなられた。
番組では、中村さんの生まれから、医師を目指そうとした学生時代のこと、日本で医師として活躍された後に、活動拠点を海外に移すに至った経緯などが丁寧に紹介されていた。
さらに、人の生活に欠かせない用水路を作ろうと決意し、自ら用水路を作るための資格を取り、用水路を作った時のエピソードなどが、当時現地で一緒に働いていた建築士の方や看護師の方によって紹介されていた。

看護師の方が語るエピソードで、どうしたらそうなれるんだろうと強く心に残ったものがあった。
海外での活動の中で、現地の人に騙されたり、車を盗まれたりすることが何度かあったそうだ。
そんな時、中村さんは騙したり、盗みを働いた人のことを責めなかったというのだ。
看護師の方はどうして責めずにいられるのかと尋ねた。
すると中村さんは「その人にはそうしなくてはいけなかった理由があるはずだ。私は責めるのではなく、その理由を知りたい。」と言ったそうだ。
看護師の方は「驚いてしまった」と語った。その表情は笑顔だった。
そして「中村さんは、とにかく人のことを信用していた。」と語った。
それまで笑顔で、さっぱりさらりと中村さんについて語られていた看護師の方だったが、「なんでそんな事言えるんだろうって思いました」と言った瞬間に、こらえていたであろう涙がワッと溢れたのだ。
中村さんは自分の思うように、行動しただけ。
「普通ならこうだろう」という、誰が決めたのか知れない一般的な「普通」に自分を委ねず、共に生きる者として誠意を持って相手と関わっただけ。
中村さんにとっては自然な行動だったはず。
けれど、どうして、自分が信用していた人に裏切られた時にその行動を取れるだと思ったのだろう。
私も看護師の方と同じように思った。

土曜日の深夜に生まれた「どうして」は、ずっと引っかかっていて、でも自分の生活の中で答えのようなものは見つからず過ごしていた。

昨日、今週観た映画『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』の事をふと考えていた。
1935年に公開された映画で、この作品も時間を忘れる程非常に面白い映画だった。
「あぁ、あの映画を映画館で観てみたいなぁ。
古い映画が観れるのは、やっぱり名画座かなぁ。
前までは、名画座でたくさん映画を観たなぁ。
コロナが流行してからは、とんと映画館に行ってないなぁ。」
なんて思いながら、名画座で観た色々な映画の事を考えてた。
そして映画館の風景も思い出したりしているうちに、映画鑑賞中にあったある出来事を思い出した。
それはこんな出来事だ。

満員の映画館で映画を観ていると、左後方から、ビニール袋を取り出す音が聞こえてきた。

カシャカシャ、カシャカシャ。

「飴の袋の音だ」と思った。

左後方のその人は、周りの迷惑にならないように、そーーーーーーっと作業を進めている。
だけど、静かにやろうとすればする程、動作はゆっくりになり、カシャカシャの音は長くなる。音は長く周りに鳴り響いてしまう。

カシャカシャ、カシャカシャ。

「うーーーーーぬ!カシャカシャ長い…!』とむきむきしていると、やっと飴が口に入ったようで、ビニール音が止み静寂が訪れた。

私はその時、飴を我慢できない人のことを「身勝手だな」と蔑むという、非常に醜い気持ちを持ってしまった、という出来事だ。

今思えば「実際にあの音の原因が飴の袋だったかの証拠はない」のに、勝手に怒って、顔も確認していない人の事を蔑んでいたんだ。

嫌だな自分と思った。

「いろんな人と一緒に同じ映画を観れるのが映画館の楽しみの1つじゃない?」
「もしかしたら、その人は何かをお腹に入れないといけない病気だったのかも知れないよ」と思った。
そういう想像力を持たなきゃいけないなと思った。

その瞬間に「あっ」と気がついた。

人を思う時に「もしかしたら、その人は〇〇だったのかも知れない」と立ち止まることって、中村さんの「相手の置かれた立場に思いをはせる」とか「相手を責めない」ことに繋がるんじゃないかって。
そして、そういうことの積み重ねから「相手を信じること」に繋がっていくのかも知れないなと。

思いがけないところから、答えが見つからなかった問題の解決に繋がりそうなヒントがやって来た瞬間だった。
小さな小さなヒントだけど、それを繋いでいけば、どうしてなんだろうの答えにいつか繋がるはずだ。

自分だけの小さな物差しで物事を決めつけるのが、どれだけせせこましく情けないことか。
大切な決まりは守るべきだけど、もしその決まりに疑問を持ったら、そもそもその決まりは正解なのかなって考えられるくらいに、「決まり」を前にした時に思考停止したくないな。
と気付かせてもらえた、そういう今週でした。

今日の東京はずっと雨が降っています。
明日晴れたら、お散歩に行きたいなぁ。

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