見出し画像

「軽トラ市 まちが活きる可動商店街」を読む

この4月から長距離通勤者になってしまいました。前向きに捉えると読書時間が確保できる。今回は論文ではなく本のご紹介。「軽トラ市」に関する本です。著者は愛知大学地域政策学部の戸田教授です。

軽トラ市をご存知でない方もいると思います。軽トラを売る中古車市場のことではなく(実際そういう勘違いはあるとか。)、「農家の皆さんがその日の朝に収穫した野菜などを、普段使っている軽トラックに積み込んで、商店街に乗り付けて、軽トラックの荷台をそのまま売り場にしてお客様に買っていただく。」(14ページ)というイベントです。

本書は、軽トラ市の全国の状況、3大軽トラ市の経緯、軽トラ市の内情、今後の展望、軽トラ市を始めたい人向けのHow toと、軽トラ市のことに関し、ほぼ網羅して書かれています。軽トラ市研究をする人の基本書みたいな感じです。どの程度軽トラ市研究する人がいるかは知りませんが…。

なぜ私がこの本に興味を抱いたのかといえば、著者の戸田先生から本を頂いたから提灯記事を書こうと思った…のではなく、ちょうど「賑わいはどうすると生まれるのか?」という今悩んでいた問いに示唆が得られそうだったからです。

軽トラが集まって店をひらけば、そこが市になる
これは賑わいを生み出したい場所にとって非常に有効な手段だな、と、思いつつも、イベントとして終了すれば終わり?といえば、そうでもない。軽トラ市開催日が休業日だった既存の店舗が開業日に変えて売り上げが伸びた、後継者が見つかったなど、開催地の商店街にも好影響を与えていることが書かれています。

田舎のイベント地獄は、近年ではよく知られており、田舎でイベントばかりやるけど、結果的に遠く離れた公園に自分のお店を休んで商工会として出店して、結局徒労感とゴミが残るというヤツです。

私も昔、イベント業務に従事し、一週間前から幟旗立てて、前日から机やら椅子やらテントやらを並べて、当日は会場運営して、翌日撤収作業して、クソ忙しい中、通常業務の手を止めて作業してました。で、何か生み出したのか?と、考えると、作業に従事しない偉いさん達だけが満足そうに座って社交しているだけで、結果、街に何か効果を生み出したとは思えなかったものです。
上司に疑問をぶつけても、昔からやっていた、俺の頃は…、と、人口減で人手不足になっている現状には目も向けず、ただ昔話を上から目線で語るだけ。挙句の果てには、商店の人たちから、あんな遠くでイベントやっても店に来ない、と、いう不満までもらってた訳です。私に権限が与えられた時に、イベントを既存の店を通るルート上に変更しました。その後皆さんの努力もあって、一晩で町の人口と同数の人を集めるイベントに成長しています。聞けば、人が来すぎて問題になっているとか。

本書の中でも、祭り会場が商店街からだいぶ離れた公園なので商店街の人が自分の店を閉めて対応することへの疑問があって(89ページ)軽トラ市の着想につながっていると書かれています。やっぱり、皆、イベントの効果というものに同じ疑問を持つのだな、と、思ったものです。

軽トラ市は、地元の業者だけでなく、概ね1時間圏内の地域から多くの事業者がやってくるようです。そのため、地元に不足する業種があってもカバーできる
また、来訪者はついでに観光地に寄るとのデータも示されており、観光との相乗効果が期待できることにも言及されています。
このあたり、人口減少で担い手不足に悩む地域にとって大きなヒントになると思います。

でも、結局イベントに過ぎないのでは?という当初の疑問に対して考えを巡らせていたところ、ふと歴史を振り返ると、そもそも市は常設じゃない四日市、八日市。これらの町は毎月4の付く日、8の付く日に各地から人がやってきて市が立ったことから、地名にまでなったことを思い出す。
常設型の店舗による商店街が、生まれた時から存在している自分の目からは、軽トラ市が単なるイベントにも見えてしまった訳ですが、市場の歴史的な成り立ちから考えれば、人口減少地域における技術革新を伴う市場の再構築過程なのかもしれない、と、思い至り、むしろ新たなまちづくりだと納得した訳です。

軽トラ保有率の高い自治体の多くが消滅可能性都市(2016年時点)であり、軽トラ市が地域を支える「可動商店街」となりうるのではないか、と、指摘してます。(26〜28ページ)

軽トラ市からさまざまな物の見方ができて楽しい内容です。
興味のある方はぜひ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?