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井上陽水『スニーカーダンサー』 (1979)

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フォーライフ・レコード設立後の3作目のスタジオ・アルバム。いわゆる“陽水ブーム”の谷間で、かつては「低迷期」なんて言われ方をしたこともありますが、このアルバムだってオリコン・チャートで最高3位を獲得しているのです。今ならシティーポップ的な聞き方もできますし、どの時期もコンスタントに素晴らしい陽水の長いキャリアの中でも、しっかり再評価されている一枚だと思います。

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SIDE 1
1. スニーカーダンサー
歯切れのよいギターのイントロで軽快に始まるタイトル曲。このアルバムの半数の曲で編曲を担当し、ギタリストとしても参加している高中正義が、この曲に関しては作曲も担当しています。それにしても“スニーカーダンサー”って、深い意味があるようなないような、いかにも井上陽水らしい造語(?)ですよね。

2. Mellow touch
タイトルどおりメロウなタッチのミディアム・トロピカル・ポップ。というと何となくラブソングを期待してしまいそうですが、単純な恋の歌を陽水が書くはずもなく、ノッケから♪雨の夜中に恋が芽ばえたことにしようじゃない〜、とやはりなかなか一筋縄ではいかないようです(笑)。

3. 事件
♪たくさんのお客の手が力士の背中に触ろうとしてた、その中にカミソリも混じっていたのサ、って何かスゴいなぁ。作詞は陽水自身ですが、作曲はなんと小室等が担当しています。「事件」という不穏なタイトルながらも、レゲエ・ポップ調の明るいアレンジの曲になっています。

4. 今夜
陽水のアコースティックギターのイントロと哀愁を誘うストリングス・アレンジが印象的なマイナー調のメロディアスなナンバー。余韻を残す感じの歌詞とストリングスのみになるエンディングがいいですね。

5. ジェニー My Love
シャッフル・リズムのブルージーな演奏に乗せて歌われるラブソング。英語も混じえたサビは結構テンション高め。後半それに呼応して暴れ出す高中正義のギターも聞きどころです。

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SIDE 2
1. なぜか上海
イントロから高中正義のメロディアスなリード・ギターに導かれ、タイトなピアノに続いて陽水が♪星が見事な夜です〜と歌い出す。♪もそ、もそ、も、もそっとおいで〜という独特なBメロ。そこからサビへいく瞬間、演奏が一瞬消えてコーラスだけになるところ!めちゃクールでカッコいい。その他、ギターのバッキングやオブリ、ストリングスとの絡みなどアレンジは聞きどころ満載。「娘がねじれる時」をB面に先行シングルとしてもリリースされています(オリコン最高位87位)。

2. フェミニスト
シティーポップ的な爽快なサウンドが心地よいナンバー。間奏のソプラノ・サックスもいいですね。タイトルからして深いテーマを扱っていくのかと思いきや、フェミニスト、ピアニスト、エベレスト、エメラルドという風に言葉遊びを中心に展開していく感じですね。

3. 娘がねじれる時
タイトルからして強烈ですが、内容もかなりぶっ飛んでいて、陽水ワールド全開の曲と言えるでしょう。私個人としてもこのアルバムの中で最も好きなナンバーで、その後のライブでも重要なレパートリーとなっている一曲ですね。ファンキーなアレンジもめちゃめちゃカッコよくて、こういう曲をシングルのB面にさらりと入れてしまうのがまたいいんですよね。

4. 海へ来なさい
これは本当に根強い人気のある曲。陽水はまだ幼い我が子に向けてこの歌詞を書いたそうですが、そのことを知ってからまたあらためて聞くとより一層沁みますね。作曲は陽水初期の頃から共に良い仕事をしてきた星勝。アコースティック系、ボッサ系のこの曲のカバーが結構ありますが、面白いところでは、あの久保田利伸もカバーしていました。

5. 勝者としてのペガサス
筑紫哲也の番組でサングラスなしで弾き語ったことがあることで有名な(?)このナンバー。イントロ~ヒラの緊張感のあるクリシェ進行で始まり、アルバムのラストソングらしくなかなか盛り上がる展開を見せますが、内容はもの悲しく、この歌詞にさらに「勝者としての~」というタイトルを付けることによって、(難解なんだけど)より一層深みが増して、なんか揺さぶられる気持ちになります。ん~、どこまでも奥深い陽水の世界・・・。

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この後、1980年代前半には、“第2期陽水ブーム”前夜となる素晴らしいアルバムを連発します。陽水ワールドがさらに全開になっていく時期ですね。いずれまた陽水さんのアルバムを取り上げていきたいと思います。

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