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Paul McCartney『Tug Of War』 (1982)

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ビートルズ解散以来、初めてプロデューサーにジョージ・マーティンを迎えたアルバム。ビートルズ的でもあり、それでいて80sポップの要素もしっかりと兼ね備えた、マジックのようなアルバムだと思います。スティーヴィー・ワンダーやカール・パーキンスといった大物シンガーとのデュオの他、ここに収録された一曲一曲が素晴らしくて、メロディー・メイカーとしてのポールの魅力が本当によく出ています。ビートルズにハマっていた中学時代に、“元ビートルズのメンバー” を意識して聴いた初めてのアルバムなので、個人的にも思い入れが強いんですよね。

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SIDE 1
1. Tug Of War
人生を“綱引き”に例えたタイトル曲でアルバムはスタートします。♪pushing,  pushing,  pulling, pulling ・・・ というポール&リンダらのコーラスも印象的な、アルバムのオープニングを飾るのにふさわしい、なかなか壮大なナンバーですね。 

2. Take It Away
シングル・カットもされた軽快でキャッチ―なポップ・ロック・ナンバー。リズム・セクションやホーン・セクションがめちゃめちゃ華やか。それもそのはず、クレジットを見ると、ポール自身のベースはもちろんですが、スティーヴ・ガッドとリンゴ・スターがツイン・ドラム!曲が進むにつれて、気分もどんどん高揚していきます。

3. Somebody Who Cares
ぐっと静かな雰囲気になって3曲目。アコースティックなイントロで始まる、メロディアスなポールらしいミディアム・バラード。マイナー調のヒラと、メジャーでちょっと空気が変わるサビとのさりげないコントラストが素敵な楽曲です。間奏のスパニッシュ・ギター風のソロもポール自身が弾いています。

4. What's That You're Doing?
このアルバムのハイライト、スティーヴィー・ワンダーとのデュオの2曲のうちの1曲がここに登場。楽曲のクレジットは共作となっていますが、もう1曲の「Ebony And Ivory」と比べて、こちらはスティーヴィーのカラーが強いナンバーになっていると思います。スティーヴィーのシンセ・サウンドがポールのアルバムとしてはかなり異彩を放っていて印象的。二人のボーカルの絡みはもちろん素晴らしいですが、最後のほうでちょっと「She Loves You」っぽいフレーズが出てきて、思わずニンマリしてしまいます。

5. Here Today
このアルバムのもう一つのハイライトがこの「Here Today」。ここにはポールの想いが込められています。1980年の暮れに亡くなったジョン・レノンへの想い。そしてそのジョン達とともに作り、ともに駆け抜けてきたビートルズへの想い。それらの想いを自身のビートルズ時代の名曲「Yesterday」へのオマージュという形でポールはこの曲を仕上げました。アコースティック・ギターで弾き語る美しいメロディーに、ジョージ・マーティン編曲のストリングスが絡む。この曲に関しては他に何もいらないですね。

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SIDE 2
1. Ballroom Dancing
このアルバムの凄いところは、A面に負けず劣らずこのB面も素晴らしいところですね。トップを飾るのはロック調のダンス・ナンバーで、これもキャッチ―な名曲だと思います。ホーンも絡む間奏の展開も面白いし、後半は♪Ballroom dancing~ のポールのボーカルも1ボルテージ上がる感じで、盛り上がりますね。

2. The Pound Is Sinking
いきなり「ポンドは暴落している、ペソは下落している」と、経済情勢を嘆く内容の曲。ですが、この曲はポールの作曲能力がいかんなく発揮されたナンバーで、色々なメロディーが登場する(それでいて決して目まぐるしくはならない)、さすがの曲展開で聴く者の心を揺さぶってくれます。

3. Wanderlust
これもポールらしいメロディアスな名バラードですね。B面の頭からここまでの3曲、それぞれ全然タイプの違う楽曲なのに、どれも「ポールらしい」としか形容しようがないのが本当にすごいです。この印象的な“ワンダーラスト”という言葉は「旅への熱い思い」という意味のようです。曲の後半に、前半に登場した2つの歌パターンが同時に出てくる展開があるのですが、ビートルズ時代の「I've Got A Feeling」を彷彿とさせて、思わずグッときてしまいますねぇ。

4. Get It
このアルバムを初めて聞いたのは中学生の頃で、当時カール・パーキンスなどというビッグ・ネイムを知っているわけもなく、このゲラゲラ笑っているオッサンは誰だ?なんてことを思ったりしていたものでした(なんて失礼な!)
いわゆる小曲の部類に入りそうな短い楽曲ですが、B面の流れの中でこれがなかなか良いアクセントになっていてるし、このセッションを楽しんでいるポールの姿も目に浮かぶようで、好きなんですよね、このナンバー。

5. Be What You See (Link)
これはビートルズの『ホワイト・アルバム』あたりにありそうな、ちょっとした繋ぎのような曲(というかフレーズ)。

6. Dress Me Up As A Robber
で、その“繋ぎ”の後は、これがまたクールでかっこいいナンバー。B面ラス前というこの位置に、まだまだこんな曲を忍ばせるなんて、このアルバムはホントすごいや。切れのあるアレンジも最高です。

7. Ebony And Ivory
そしてラストに満を持して登場するおなじみのイントロ。ポールとスティーヴィー・ワンダーのデュオによる大ヒット・ナンバーです。A面に登場した「What's That You're Doing?」と違って、こちらはポールのカラーがよく出た美しい旋律を持った楽曲に仕上がっていますね。人種を超えた融合、調和みたいなものがテーマとなっていて、それをエボニーとアイボリーになぞらえた歌詞が本当に素晴らしいですね。

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最初のところにも書きましたが、ビートルズ解散後のポールのキャリアの中で、個人的にはこのアルバムへの思い入れがやはり一番強いと思います。でも、それを差し引いてもこのアルバムは、ポールのソロ作品の中でも屈指の名盤だと思うのですが、いかがでしょうか。
ジョージ・マーティンのプロデュースで、(我が家のものは国内盤ですが)本国イギリスではあのParlophoneからリリースされているのも、かなりグッとくるポイントですね。

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