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残暑 * チェンマイ俳句毎日

【チェンマイ俳句毎日】2024年8月18日

以前お世話になった下宿の大家の奥さんが亡くなった。病院の事務をしていたこともあり、健康には気をつけていたようだったが、癌を患って9年の闘病の後だったという。まだ63歳だった。
その下宿から今の家に引っ越したのは10年前。離れてからも、たまに夕方のウォーキングの時間に出会う事があり、必ず彼女が私を見つけてくれて、元気でいる?と声をかけてくれた。あの時はもう癌が分かっていたはずだ。

こちらのお葬式は、地域の人たちが協力して会場を整えたり、料理をして食事を振る舞ったり、火葬場まで柩を引いたり、明るく賑やかに故人の旅出を見送る。
柩はまるで大昔のお城のような形で、きらびやかな紙細工で覆われている。奥さんは病院で亡くなったので、家ではなくてお寺に柩が置かれ、今日、火葬場に運ばれて荼毘にふされた。

私も、お寺から火葬場まで、柩を引く行列に加わった。

雨季の晴れ間の澄んだ青空に、真っ白な雲が浮かんでいる。金色の仏塔のような柩の先端が電線に引っかからないよう、2、3人の男性が先回りをしながら長い竹竿で電線を持ち上げていた。
100人くらいの人が2本の綱を引いて火葬場までの1キロ弱の道を歩く。柩を乗せた台車にもエンジンがついているようだし、人数も多いので、手を添えているだけでも動いているが、ふいに綱が重くなる瞬間がある。

最初に会った時はまだ小学生だった2人のお子さんは立派に成長していて、一人は銀行員、もう一人は学校の先生になっていた。大勢の参列者に笑顔で挨拶をしている姿を見ていたら、いろんな思い出が蘇って胸がつまった。
柩の横に置かれた遺影は、私もよく知っているまだ少し若い頃の写真が使われていて、手を合わせていたら彼女の明るい声が聞こえてきそうな気がした。

仏教の儀式が終ると、参列者は柩の前に白い紙の花を供えた。その後、遺体の柩が火葬炉に移された。

最後になってようやくご主人に挨拶ができた。元警官で姿勢が良く、遠目には変わらず若々しかったが、近くで見ると随分おじいちゃんになっていた。彼女はもう行っちゃったよ。あんたらは元気にしてるかい? と優しい笑顔で聞いてくれた。あんなにお世話になったのに、引っ越してからはほとんど会いに行ってなかったことがとても悔やまれた。


残焔の柩の列の黒黒と

残暑なを道の影濃き野辺送り



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