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図書館司書が「オモコロみたいな本ってあるの?」と尋ねられたら?

こんばんは、古河なつみです。
先日、オモコロというWebメディアですごく面白い記事を見つけました。

うろ覚えに次ぐうろ覚えの書名たち……そして終盤まで謎だった全く出版情報の出てこない絵本の正体を知った時は、私も同じような絵本を探した経験があったので思わず笑ってしまいました。

今年は所属ライターの雨穴さんの『変な家』『変な絵』が驚異的なベストセラーになったこともあり、インターネット文化に詳しくなくてもオモコロさんを知っている方が増えた印象です。そのせいか友達から「オモコロみたいな笑える「やってみた」系の本ってあるの?」とふざけ半分に訊かれた事があったので、その時に話した「トンデモやってみた本」を紹介したいと思います。

『ゼロからトースターを作ってみた』トーマス・トウェイツ著/村井理子訳 /飛鳥新社

イグノーベル賞受賞者のトーマス・トウェイツがタイトルそのままに鉄鉱石の入手からトースターを作り出すまでを書いたドキュメンタリー本です。ジャンプ漫画の『Dr.STONE』がお好きな方にもおすすめの一冊ですね。文明の有難さに笑いながら気づけるはずです。

『罪と罰を読まない』岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美著/文藝春秋

ドストエフスキーの名著『罪と罰』でミリしら(一ミリも知らないけど内容を想像して勝手に語ってみた)をするというトンデモ企画本です。座談会の会話形式で綴られているパートとそれぞれの参加者の感想が綴られたパートで構成されています。最終的には実際に読んでみた後日談もあるので、作家さん達の読書会を覗くような雰囲気もあって楽しい一冊です。三浦しをんさんの妄想力に何度も笑わされました。追加されているコンテンツがあるので文庫版をおすすめします。

『読書で離婚を考えた』円城塔、田辺青蛙著/幻冬舎

作家夫婦が交換日記のようにお互いにオススメ本を紹介しあって感想文を書いていく企画を一冊にまとめた本です。まるで夫婦漫才のように理系思考の円城さんと感情豊かでお茶目な田辺さんの凸凹なやり取りが続いていき、「相手が理解できない」「わかりあえない」等々の文言がたくさん出てくるのですが、読めば読むほど読者的には「奥さんが(旦那さんが)大好きなんですね~」とにやにやしてしまって、ある種のラブコメを感じられる笑える一冊です。

『これが見納め 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く』D.アダムス、M.カーワディン著/安原和見訳/河出書房新社

『銀河ヒッチハイク・ガイド』という様々なメディアミックスを果たしたギャグSF小説の著者ダグラス・アダムス動物学者のマーク・カーワディン絶滅寸前の動物達へ会いに行く紀行ルポルタージュです。
稀少な動物達の置かれている境遇など、真剣なルポも含まれるのですが、会おうとする動物達が辺境に住んでいることが多く、生息地に辿り着くまでの珍道中が笑えます。序盤から勝手に飛行機のチケットを無効にされたり(その地域のお偉いさんが乗るからという理由でした)まともな宿もなかったり……そんなトホホな旅の中でも世界から失われようとしている動物達への眼差しが温かいところもオススメです。

『聖書男(バイブルマン)  現代NYで「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記』A.J.ジェイコブズ著/阪田由美子訳/阪急コミュニケーションズ

聖書に書かれた700以上の掟をリストアップして、それらを忠実に守る生活を一年間してみた男性の体験日記です。フランクな語り口で、アメリカではなじみの深いお店などの固有名詞がぽんぽん出てくるので注釈を見ながらニューヨークの生活感も分かる一冊になっています。聖書をコメディ本のネタに使う、というと不謹慎になってしまいますが、大昔に書かれた教えを原理主義的に読み解く馬鹿馬鹿しさ、そしてその教えの中には確かに現代に通ずる大切なものも存在していた、という相反する気づきを著者が得ていく姿が見えてきます。笑ってしまうような日常描写を読みながら、宗教批判と宗教理解がどちらもできるオススメ本です。

その他にもサハラ砂漠のマラソンに出場した体験記が収録されている『世にも奇妙なマラソン大会』(高野秀行著/本の雑誌社)や自分の身の回りの品物を全部ネットオークションにかけて売り払い、その品を買ってくれた人に会いに行った男性の体験記僕の人生全て売ります』(ジョン・フレイヤー著、ブルースインターアクションズ)など「やってみた系本」はまさしく面白い本の宝庫なので、また新しく出会えた本があったら紹介してみたいと思います。

ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。

古河なつみ



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