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だれかの自由律

15
noterさんの句の鑑賞。自由律俳句以外もやるかも。
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記事一覧

だれかの自由律 15

だれかの自由律 15

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

シャワーのなか遠い景色に置かれる/東子

昔、水泳部に所属していた。練習はキツかったが、練習後のシャワーが堪らなく心地良かったのを覚えている。今日も頑張ったという充実感に浸っていたのだ。そんなことを、掲句を初めて読んだ時に思い出した。他人の句と自分の人生がリンクする。あの日、あの場所。今となっては、遠い景色。

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だれかの自由律 14

だれかの自由律 14

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

鎌買ってつよく風の吹いた日/玉虫

「つよく風の吹いた日」に何やら決意めいたものを感じた。草刈りの句だとは思うが、それでもなお狂気的な想像をしてしまう。日常に潜む非日常性を、垣間見た気がした。

それでは今回はこの辺にて。

風呂山洋三

出典
玉虫さん
「じゆうりつはいく 20160507あたりの

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だれかの自由律 13

だれかの自由律 13

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

くすぐる相手のいないふるさと/雪兎

読み手によって「くすぐる相手」の解釈は変わるだろう。想像の余地を残しつつも、伝えたい実感は明確にしている。そのことにより、より共感の幅が増えるのだ。句が自分の人生とリンクする瞬間である。

それでは今回はこの辺にて。

出典
自由律俳句誌「脱兎」さん
「藤井雪兎

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だれかの自由律 12

だれかの自由律 12

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

うちのインターホンと同じ音/パスカ

訪ねたのは自分なのに、逆に出迎えたくなる衝動に駆られる。ちょっとした違和感。こうした眼差しのユニークな句に惹かれてしまう。

それでは今回はこの辺にて。

風呂山洋三

出典
パスカさん
「フリー句164」
#自由律俳句 #コラム

だれかの自由律 11

だれかの自由律 11

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

空色だけではかないっこない空だ/虫のいい話

何とも清々しい句。恐らく「かないっこない」が効いているのだろう。これを書いているのが初夏ということもあり、夏空を思い起こした。だが、季節が限定されていないので、この限りではない。秋でも冬でも春でもいいだろう。読み手それぞれに思い描くのも面白い。

それでは今回はこの

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だれかの自由律 10

だれかの自由律 10

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

春めく道で拾ったナイフだ/風呂山洋三

今回は、何を隠そう私の句である。以前、句友の玉虫さんが自分の句の紹介をしていたのを読んでいいなと思い真似ることとした。さて、私の好きな俳人に河東碧梧桐という人がいる。詳細は省くが、正岡子規の高弟であり、自由律俳句の基盤を作った一人である。そんな彼の句風はおおらかで、身辺雑

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だれかの自由律 9

だれかの自由律 9

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

正午みたいに広いひらめ/とつき

作者とは以前、同じネット句会に参加していたのだが、掲句はその頃のものである。当時、さっぱり意味が分からなかったのをよく覚えている。いや、正直に白状する。あれから月日がだいぶ経つにも関わらず、未だによく分からない。ただ、あれ以来、時おり正午になるとこの句が脳裏に浮かんでくる。まる

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だれかの自由律 8

だれかの自由律 8

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

人びとの壁ざらついている西日/ヨシカワ

尾崎豊に「Teenage Blue」という曲があるのだが、夏の夕暮れ時になるとこの曲を思い出す。友人から借りたカセットテープを、夏休み中聴いていた記憶とリンクするのだろう。今これを書いている最中も久しぶりに聴いているのだが、お陰でまともな鑑賞文が書けないで困っている。そ

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だれかの自由律 7

だれかの自由律 7

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

溢れるのはかき捨てた空虚さがあるからだろ東京/Access All Areas

吐き捨てるような口調。こういう句、実は成立が難しい。ややもすると単なる雄叫びとなり、他人の心には響かない。掲句の場合、結句の「東京」が効いているのだろう。人それぞれ「東京」という単語に抱くイメージは違うかもしれない。だが、少なくと

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だれかの自由律 6

だれかの自由律 6

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

星食べて歯が欠ける/yoyo

一見、奇妙な感覚に襲われる。ただ、よくよく考えてみれば、恐らくは星形のキャンディか何かなのであろう。表現の妙。こういう句が好きだ。

それでは今回はこの辺にて。

風呂山洋三

出典
yoyoさん
「偽自由律――熱の夜」
#自由律俳句 #コラム

だれかの自由律 5

だれかの自由律 5

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

謝らせたい綺麗な顔だ/玉虫

私の職場には色白で目鼻立ちのはっきりした女性がいる。彼女は難しい仕事を頼まれると、眉をへの字に曲げては、ちょっと困った顔をしてから「はい、わかりました」と笑顔に戻るのだ。その表情の変化が堪らなく魅力的で、思わず見惚れてしまうのである。掲句の場合、この話とは少し意味合いが違うかもしれ

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だれかの自由律 4

だれかの自由律 4

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

隣の家に目玉がふたつ増えた/雪兎

一見、奇妙な感覚に陥る句。だが、恐らくは隣家の夫婦に子供ができたなどの意味であろう。日常に潜む非日常性。切り取り方一つでこんなにも奇妙で愉快なものになるのだ。ああ、私も、こんな句が詠んでみたい。

それでは今回はこの辺にて。

風呂山洋三

出典
自由律俳句誌「脱

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だれかの自由律 3

だれかの自由律 3

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

作者のあとがきだけ読ませてくれないか/パスカ

面白い。初読で思わずニンマリした。これは決して「あるある」ではない。だが、もしこんな風に言われたらと思うと、可笑しくて堪らなくなるのだ。これは「だけ」が効いているのに違いない。読み手の想像を促す。こういう句が好きだ。

それでは今回はこの辺にて。

風呂山洋三

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だれかの自由律 2

だれかの自由律 2

毎回一句ずつnoterさんの句の鑑賞を行なっていこうと思う。では、さっそく。

とてもうまそうに飲む小指だった/虫のいい話

小指を立ててコーヒーカップなどを持つ女性の姿を思い起こした。実際にそういう人を何人か見たことがある。無意識なのか、はたまた突っ込み待ちなのか。結局、私は彼女たちに対して一度も指摘したことは無い。面倒臭いという気持ちもあったし、その小指の折りたたまれるのが惜しい気もしたから

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