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太宰治『待つ』について

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太宰治『待つ』について
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2016年4月の記事一覧

罪の意識〜太宰治『待つ』について 第十回

罪の意識〜太宰治『待つ』について 第十回

 前回は太宰さん自身の“罪の意識”について少しだけ述べてみた。今回は本作『待つ』に立ち返り、少女が抱えた“罪の意識”について考察していきたい。
 “戦争がはじまったにも関わらず、自分だけ家でぼんやりしていることに対する罪悪感”
 これは私が第八回において、彼女が“誰か”を待つことに至った感情のひとつとして挙げたものである。これを前回に挙げた太宰さんが抱いた“罪の意識”と照らし合わせてみたい。
 太

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芸術の美は所詮、市民への奉仕である〜太宰治『待つ』について 第十一回

芸術の美は所詮、市民への奉仕である〜太宰治『待つ』について 第十一回

 太宰治の“使命”。それはもちろん小説を書く事であった。そうすることが自らの“罪の意識”に対する“償いの気持ち”ではなかったかと私は考える。それは“奉仕”という言葉に置き換えられるのではないだろうか。
 “奉仕”。言葉だけなら、何とも耳触りのよい言葉である。しかし、これを実践するとなると、かなり大変なことであろう。どうしても「やってやってる」という感情が芽生えはしないだろうか。
 しかし自ら“罪”

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使命と奉仕〜太宰治『待つ』について 第十二回

使命と奉仕〜太宰治『待つ』について 第十二回

 前回は太宰さんの“使命”について語ってきたが、今回は本作『待つ』における少女の“使命感”について考察していくこととする。
 少女の“使命”。それは“身を粉にして働いて、直接に、お役に立ちたい”というものであった。“奉仕”という言葉にも置き換えられるであろう、その“使命感”ゆえに彼女は、“省線のその小さい駅”に“誰とも、わからぬ人を迎えに”行くのである。
 それは心の安定を図る為に自ら背負った“罪

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