アメリカで働く−ソフトウェア・エンジニアのススメ

海外で働いてみたい、と漠然とでも考える人は少なくないのではないでしょうか。とは言っても、言語の問題、ビザの問題、資金の問題、と、色々な意味で非常にハードルが高く、実行に移せる人は少ないでしょう。それでも本気で目指す人には、アメリカであれば主に次の3つの方法がメジャーかと思います。

A. 現地の会社に就職し、ビザ・サポートしてもらう。
B. 日本の企業から駐在として派遣される
C. アメリカ国籍を持つ人と結婚

BとCについては経験がありませんので、Aについてのみ取りあげますw この現地採用を狙う場合、エンジニアという職種がアメリカで働きたい外国人、特に日本人にもってこいな職種である理由をあげたいと思います。

1. 就労ビザのサポートをする企業が多い

多い、と言っても、あくまで他の職種に比べて、という事です。就労ビザ(H1-Bと仮定します)を取得するには、ビザをサポートしてくれる企業を見つけなければなりません。ですが普通の企業は、まずサポートはしてくれない、思って良いでしょう。会社にとっては一人を雇うのに、ビザを申請して(H1Bの場合、雇用主が"申請者"です)、弁護士雇って、結果を待って、、と、面倒ですしお金もかかるので、よほどの理由が無い限りサポートをするメリットが無いからです。外国人でも雇いたい、と思うのは、特別なスキルを持った人の場合です。

例えば日本語を話せる事は現地アメリカ人にはできない事ですので、現地日系企業の多くがビザ・サポートをして日本人を雇っています。しかし日系企業というのがイマイチ評判がよくありません(笑)。おそらく日本の給与の基準で支払いをしているのか、とてもそれでは生活できないのでは、という、米企業に比べて圧倒的に低い給料で、残業云々、日本基準の比較的過酷な労働を強いられる為、オススメできません。そもそもせっかく海外で働きたいと思ってはるばるやって来たのに、わざわざ日本人社員ばかりの、日本の環境と変わり映えのしない企業で働く事もないでしょう。

とはいえ、日系企業以外では、ビザ・サポートしてくれる会社すら見つけにくいと思います。そこへくると、IT業界というのは、外国人を最も積極的に採用している業界です。もちろん全てのIT企業がサポートをしているわけではないですが、H1Bビザの事など考えた事もない他業種に比べて、IT業界ではH1Bは(少なくとも経営者にとっては)常識問題です。H1B労働者がいなくなると、非常に困るIT企業も多い事でしょう。

というのも、アメリカでエンジニアというのはかなりの高給取りです。H1B申請時に雇用側は一定以上の給与を約束しなければならないとはいえ(自分の時は最低$80Kほどでしたが、今はもっと上がっていると思います)、新卒エンジニアででも平気で$100K以上するエンジニアの採用ですので、H1Bを利用すれば、例えばアメリカであれば$150K以上払わなければならないようなレベルのエンジニアを、H1Bを使えばインド人を$100Kで雇う事も可能です。よってIT企業に取っては非常に有用な採用ツールなのです。実際にはちきんと能力に応じて、ビザ・ステータスに関わりなく給料を払う企業も少なくありませんが、能力の高いエンジニアを安く雇う目的でH1Bを利用する企業は多いようです。

2. 留学生が職を探すのに有利

アメリカで勉強する留学生で、卒業後アメリカに残って就職したい、という学生は多いでしょう。基本、学生ビザ(F-1)は、学校に在籍する間有効で、何もしなければ卒業後はすぐ帰国しなければなりません。しかし卒業前にOPTという制度を利用すると、卒業後一年間、自分の専攻と直接関わりのある仕事に付くことができます。勿論就職先は自分で探します。2020年現在、90日以内に仕事を見つけられなければOPTは失効(=帰国)のようです。

OPTのステータスで採用をする企業の狙いは大きく2つに分かれます。
a. 短期(=使い捨て)労働力をインターン並みの給料で雇える。
b. OPTを試用期間として、使えそうならH1Bをサポートする。

つまり元々aとして採用された、もしくはbとして採用されたが使えなかったのでH1Bサポートされなかった、という人は、別の企業を探すか、帰国です。しかし別の企業を探すにしても、1年というOPTの制約の中でH1Bに辿り付くまでには厳しいものがあります。

そんな中、専攻がSTEM(科学・技術・工学・数学)の場合、OPTを2年延ばし、合計3年のOPTが可能となります。そうすると、最悪転職を考えなくてはならないとしても、時間に余裕があります。

OPTが3年になる事は、H1Bを申請する場合にも大変有利です。現在H1Bの申請は4月に始まりますが、毎年その時点でその年の発行枠を大幅に上回る申請数があります。その場合はどうなるかというと、完全なるくじ引きで申請をふるい分けます(実際はマスターを持っている人に優先権があったり色々ありますが)。つまりそのくじ引きに当たらないと、審査すらしてもらえずにその年の申請を終える事となります。OPTが1年の人が抽選に外れると、OPTが終わり次第帰国です。しかしSTEM専攻の場合はOPTが3年ですので、実質3回申請のチャンスがあります。3回申請すれば、まあ一回くらいは当たるだろうと、、という感じです。

3. ある程度の英語が使えれば何とか仕事できる(笑)

現地で普通に仕事をしようとすると、避けられない大きな壁が言語の問題です。標準的なアメリカ人のコミュニケーション能力、プレゼン能力は、日本人に比べて驚くほど高く、そしてそのコミュニケーション能力、プレゼン能力が非常に重要視される文化です。そんな中で、元々母国語ですらプレゼン力の弱い日本人が、苦手な英語で立ち回って信頼を得ていくのは輪をかけて困難です。

そんな中、エンジニアは喋る英語がまあまあでも、とりあえず読み書きさえなんとかなれば、仕事ができます(笑)。求められた事(大体文章)を正確にこなしていきさえすれば、信頼を勝ち得る事は可能でしょう。ただし勿論、最低限の英語力では、コラボしたり、チームをリードしたり、プロモーションしたり、というのは難しいですので、キャリアを進める為に英語力の向上は必須です。

4. 外国人に理解のある職場

仕事に必要な英語もそうですが、IT業界は周りからの理解もあり、英語が下手で相手にされない、という事は余りありません。技術者は基本世界中から集まるので、職場全体が、インド人、中国人、メキシカン、その他南アメリカ各国から来てる人、ヨーロッパ人少々、などで構成されます。私の今の職場では、十人以上いるプロジェクトに、英語ネイティブ話者はただ一人、なんて事も珍しくありませんでした。

よって多少下手な英語でも、周りは大体わかってくれます。英語以上に、技術へのリスペクトがあるので、胸張って大丈夫です。周りは多様慣れしているので、色々な文化的違いにも理解があり、大きな会社ならばコンプライアンスもしっかりしていて、差別的な扱いは断じて許されません。

5. どんな業種でも働ける

今やITの要らない業種はありません。フード業界、アパレル業界、エンタメ業界、保険業界、、何をするにもソフトウェアが必須です。エンジニアでいれば、勿論GoogleのようなIT企業で働くのもいいですが、自分の興味のあるある業界のエンジニアとして働く事も十分可能ですし、楽しいでしょう。

6. 給料がいい!

前述のようにアメリカ企業のエンジニアの給料は良いです。注意点としては、日系限らず、アジア系の企業では安月給の場合が多いので、ちゃんと相場を見て自分を売り込みましょう。また、都市部では住宅費、生活費が非常に高いので、例え$100K年収があっても、日本人が日本で1千万円稼いでいるようなイメージの生活は決してできません。おそらく普通の生活ができる程度でしょう。エンジニアより低い、平均的な賃金をもらっている人たちは、共働きしたり、ルームシェアしたりしないと、とても一人では生活していけない物価になっています。

他にもエンジニアで良い事はありますが(自宅勤務云々)、それは世界共通で、海外で働く事に特化した事ではない事も多いので、このあたりで止めておきます。

アメリカにいて18年以上となりましたが、元々渡米した時はITエンジニアの仕事を目指そうと思っていた訳でもありませんでした。滞在が長くなり、自分の興味のある事を勉強していった後、必然的にこの職種になっただけなのですが、エンジニアの仕事が外国人として恵まれすぎて、他でとてもやっていける自信がないほどです(笑)。エンジニアは引く手あまたで、技術さえあれば基本はどこも欲しがってくれます。頭はいいけどシャイで英語の下手なステレオタイプな日本人にはピッタリの職種ですので、海外で働く事を考えるのであれば、キャリアの候補に入れて損はありませんよ(^^)




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