ソフトウェア・エンジニアへの道(その3)- SI 編

さて、Mrs. シュナイダーから推薦を頂いたキャンパス内でのバイト(注:合法です)、ナントカ・プログラムだというから、完全にソフト開発の手伝いだと思っていました。。わかる方ならもうわかると思いますが、そのくらい自分の英語力はヤバいものでした(笑)。

その後連絡があり、ジェシカ・ミンツという人と面接するように言われました。そして言われた通りにチュータリング・センター内にある彼女のオフィスに会いに行きました。夏休みの直前だったと思います。

そこで衝撃の事実?を理解します。ソフトウェア開発なんかじゃありません。Supplemental Instruction Program、略してSI、と呼ばれる、チュータリング"プログラム"でございました。これは何かと申しますと、コミカレの一般教養のクラスの中で、特に成績の悪い人、落第の多い、高難易度と言われるクラスに、そのクラスを過去に成績優秀で終えた生徒一人を送り込みます。その人は通称"SI"と呼ばれます。SIは、セメスターの最初から最後まで、その先生のその特定のクラスに、他の生徒と同じように授業を受けます。つまりは既に自分は履修し終えたクラスを丸々やり直すようなものです。そして、毎週3回、授業以外の決まった曜日と時間に、そのクラスの生徒を集め、独自のSI セッション、つまり補習のようなものをするのです。このプログラムの利点は、SI本人が一緒に授業を受けているので、先生がどのような授業をしたか、どのような課題を出したか、生徒たちには何が難しいか、誰が躓いているのか、よく把握でき、彼らとそのクラスに合ったヘルプができる、というわけです。

校内にはそれとは別に、常にチューター達が待機する無料のチュータリング・サービスもありますが、突然ウォークインで来た生徒が、面識の無いチューターから1時間やそこら助けてもらったところで、なかなか実益にならないのが実情でです。大体そういった生徒がチューターを頼ってオフィスに来る場合は時既に遅しという事が多い。そして当然初回では余り実感を得られず、そこから継続が大事なのに、あきらめてもう来なくなる=>rakudai というのがよくある図式になります。

SIの試みは、そうやって手遅れになる前に、なんならもうセメスターの一番最初から、継続的にチューターに助けてもらいなさい、しかも今やっている事、宿題の内容、テストの傾向、良い成績を取る為に先生が重要視している事、上手く説明できなくても必要は無し、SIは全部わかってます、あなたの事も知ってます、あなたに何が必要かもわかってます、だからいつも頼りなさい、というコンセプトなのでありました。

しかし勿論、この週三回の授業外セッションに参加するのは任意です。SIのもう一つの需要な仕事は、なるべくSIプログラムの利を宣伝して、自分のセッションに人を集める事でした。

これを聞いて、自分は青ざめました。。ソフトウェア開発だと思ったら全然違う。。w 授業はまだ予習ができるから何とかなるものの、英語ではまだ人との会話でさえまともにやり取りできない自分が、そんな宣伝活動なんて無理、しかもこんなたどたどしい英語喋る奴に教えを請おう、なんて人いない!いたとしてもレア、沢山人を集めるなんて絶対無理!!

余りにも自分の適性と違う事なので、断ろうかと思ったのですが、、すいません、正直、なぜ引き受ける事になったのか覚えてないのですww ジェシカの押しに負けたのか、これを逃したらキャンパスで働くチャンスは無いと思ったのか、もしくはあの面接の感じでは多分落とされる、と思って不合格の通知を待ったのか、、何にしても、完全なる流れで、かなり自分の意に反してその仕事をするに至ったのでした。ですので引き受けたはいいものの、相当憂鬱、というか、かなりの恐怖でした。

後から知った事ですが、次のセメスターが初めての試みで、ジェシカはその新しい試みの発案者、実行者で、この取り組みの成功に野心を燃やしていたようです。週三回のセッションで、毎回どんなセッションをするのかの事前計画書と、誰が出席したかのリストを毎週ジェシカに提出します。それがないと給料が支払われません。そして毎週金曜日にSI達だけのトレーニングセッションもあります。もちろん自分自身の学業もあるわけど、それを考えるとかなり忙しいです。。

セメスター直前のトレーニングで、自分がどのクラスに配属されるかが通知されます。私は勿論CSの初級クラス(それしかまだ履修してない)。そして自分はMrs. シュナイダーのクラスであってくれと願っていたのに、彼女には別の男の子が付く事になりました。チャットという名のタイ人で、彼は初級も中級クラスも終わっている、ワンセメスター先輩?の生徒でした。自分はMrs. シュナイダーのクラスと同じレベルだけども別の先生、Mr. セフィアニという先生に配属となりました。もうそれだけでも憂鬱です。。どんな人かもわからない。。

最初のトレーニングでは、初日に何をすべきか、2回目の授業で何をすべきかが指示されました。まず初日は大体授業の登録云々でカオス、先生もテンパってる事が多いので、授業を最後まで静かに聞いて、終わった後に個人的に簡単な自己紹介の挨拶をしなさい、と言われました。そしてその時に、次の授業の最後に5分貰うようお願いしなさいと。そこでSIプログラムについて発表して、セッションの場所とスケジュール告知して、生徒が来たいと思うようなプレゼンをしなさい、という事でした。

いやいやいやいやいやいやいやwww 無理です無理です(笑)。あたくしまだコミュニケーションにも難ありなのに。。しかし、セッションはやるからお願いだから宣伝だけは誰か別の人がやってくれ、、などという甘い考えもできず。でも本当にプレゼン、スピーチなんて無理だから、もう原稿を書いて丸暗記するという、苦肉の策に出ました。書いたものを元クラスメイトに聞いてもらって、すごく優しい子で「うん、いいよ!感動した!」などと言ってくれたのを覚えていますがw、全く不安はなくなりませんでした。

まず先生を知らない。。顔もわからない。。で行った初めての授業。かなり気難しい顔をして現れたのは、イラン人の男の先生でした。普通は最初の授業は、生徒の登録の確認をして、シラバスの確認をして、さらっと終わらせるものなのだけど、セフィアニは開始30分後にはもうガッツリ授業を始めていたと思います。しかも終始ニコリともせず。。(汗

そして長かった最初の授業が終わり、このクラスについて質問のある生徒が先生の周りに群がり(自分も入れてくれと交渉したり、自分は取れるのか確認したり、色々です)、それをうんざり顔で全員さばいていき、そしてやっと教室に誰もいなくなりました。こ、この空気で挨拶に行くのか、、??と、もう自分は相当、かなりビビってまして、手も足も震えてました。。しかし意を決して「あの、、」と近づくと、やはり「あん??」と睨まれたw「あの、今度Supplemental Instructionでこのクラスに来る事になりまして。。」と言うと、「え?君が?」って、突然、満面の笑顔を見せてくれた(笑)。今までのしかめっ面はどこへやら、完全にリラックス・モードで話してくれました。「そうか~、SIの事は聞いていたよ、楽しみだな。これからのセメスター、よろしくね、何でも聞いてね。」とにこやかに握手。「え、次の授業の最後にアナウンス?勿論OKだよ~。」とその話も速かった。。とにかく初日の難関を乗り越えw、ほっと胸をなでおろしました。先生も緊張するし、忙しいし、初日はゴネる生徒も多いからうんざりだし、でもSIというのは生徒でなく、”こっち側”の人間なので歓迎、という印象を受けました。普通の学校ならTA(Teacher's Assistant)がいて、SIは先生の直接の手伝いはしないものの、それに近い感覚なのかもしれないですね。。何にしても、当初の怖いイメージを大分払拭できて、大大大安心しました。

ちなみにこの時代の授業の形式は、ラボはあるものの、授業の時間が半々に分かれていて、前半は教室でレクチャー、後半でコンピューター・ラボに移動してそこで実際に自分たちで動かしてみる、というカリキュラムが組まれていました。

実はラボは参加してもしなくてもよく、別にいい、という人は前半で帰ります。なので2回目の授業の日、レクチャーが終わる直前にセフィアニ氏が私に振ってくれる予定が、完全に忘れられ、私が立ち上がって手を振ると「あー!そうだった、ちょっとちょっと、皆まだ帰らないで!一度席に戻って!」と生徒を戻しました。そして大大緊張しながら丸暗記したSIのアナウンス。。セフィアニ氏はニコニコしながら聞いてて「みんなセッションに行ったらいいよ!」と一緒に宣伝をしてくれました。とりあえず、大仕事はこれで終わって(笑)、ホッ。。

さて、Mrs. シュナイダーは前半のレクチャーの時間もプロジェクターを使って、先生が実際にコードを書いて実行しながら授業を進めるスタイルでしたが、Mr. セフィアニは、手書きの板書。これは賛否あると思いますが、プログラミング初級クラスはプログラミングのコンセプトを学ぶ、論理的思考を身に着ける、というのがゴールなので、必ずしも書いたものが厳密にコンピューター上で動かなくても理屈がわかればよい、というのが彼のスタイル。全然間違ってないし、実際板書で説明したほうがわかりやすいこととかも多々ある。が、ラボの時間は実際にコードを自分で実行しなければならないので、セミコロンやらヘッダーやら、板書ではあまり関係ない事が、厳密に要求されてくるので、そのギャップに苦しむ生徒も少々いました。まあ最初だけですけどね。

それでその2回目の授業の日、セフィアニ氏はぶわ~~っとレクチャーをして、最初のラボの時間を迎えました。生徒にしてみたら、コードの話しかしていなかったのに、突然実際のコンピューターと向き合い、しかもVisual Studioだの、C++のコンパイルだなんだって、コードを書く前の環境作りという全く聞いていない作業を迫られ、ここで大勢の生徒が泡を吹きました。これはプロになっても、新たな言語やフレームワークを使う時にまずプログラムを実行させる環境作りが最初の面倒な作業ですので、こんな経験のない初心者の生徒たちが躓くのも致し方のない事です。そして実際コードを書くこと、論理的思考を育てること、その目的の為にはこの環境エラーを自力で解決させる事に余り意義はないので、セフィアニ氏と私は手分けして片っ端から問題にぶちあった生徒の環境を直してまわりました。

そんな中、ある生徒をヘルプしてコードがちゃんと動くようになった時、一人の男子生徒が"Thank you."と、尊敬にも近い顔で私を見て言いました。実はそれ、衝撃でした(笑)。なかなか理解されにくいかもしれません、というのも、言葉に難がある留学生活の始まりは辛いものです。。日本では割と良い成績も収め、普通に仕事もこなし、比較的有用だったと思っていた自分が、外国に来ると、右も左もわからず、常識もなく、全てにおいて人の助けが必要になり、いつもいつも人に親切と辛抱をお願いするばかり。自分で何もできず、言いたい事も伝わらず、言われる事も理解できず、正直、惨めな毎日でした。人にありがとう、という事は山ほどあっても、心から感謝されるような事など、ほぼありません。それが、アメリカに来て一年弱、初めて誰かの役に立った実感があった。その瞬間は自分の存在意義があったわけです。「こっちもヘルプ頼みます!」と次々に手が上がり、着実に一つ一つ直していき、セフィアニ氏からも「いや助かった、ありがとう」みたいに言ってもらえ、この上ない達成感がありました。そしてますます、自分はやっぱりこの道で行きたい、と思うようになりました。。

さて、、問題はSIセッションですが、果たして一人でも来てくれるのか、と心配でしたが、結果、最初のセッションには驚いたことに4人ほど現れました。こないだラボで助けて回ったのが、良い宣伝になったようです。一人は、あんた絶対SIセッションいらないでしょ、と思えるような優秀な男の子。。でもよくいる、自分は優秀だと確認いしたい、認めてもらいたいという願望が強いので参加している感じでした(笑)。なので私にも他の人よりできる事を色々アピールしてくる。。まあそれでも大切なお客様なので(笑)、はいはい、って聞いてました。もう一人は教室でたまたま隣の席に座るようになったパキスタン人の女の子。素直で真面目なのを絵に書いたような子です。あと二人は、、昔過ぎて思い出せない(笑)、スイマセン。Bクラスの生徒だったと思います。

自分は1からレクチャーなんて無理なので、事前にポイントがわかるような簡単な課題を何個か作り、プリントアウトして配る事にしました。簡単に授業のポイントを復習し、問題をやってもらう。大体は、最初は穴埋めから始まって、次は何行か埋める作業、最後はプログラム全部書く、という感じで。(全部といってもこのレベルでは10行もありません)。

セフィアニ氏の授業は風のように速く、段々わかってきましたが、あの先生は頭の良い子は大好き。でも付いて来れない子はあんまり好きじゃない。クラスの半分以上が理解できなくても、1人頭のいい子が分かったと言えば笑顔で先に進んでしまうし、変な質問をしてわかってない感じを出すと、かなり面倒くさそう。なのでなかなかアホな質問をできる雰囲気ではなく、完全にlostしている生徒も多数いました。幸か不幸か先生がそんななので、私のセッションに価値が出てきましたw 先生自身「これでわからなかったらKaoriのSIセッションに行って質問しなさい」とか言うようになって(笑)、私が生徒だったら怒ると思いますが、まあ今はそれでこっちに呼び込めるから良しとする、みたいな感じで。。

ところでセッションですが、同じレベルでMrs. シュナイダーにSIとして付いたチャット。この人はまた頭が良くフレンドリーでちょっとお調子者で、彼のセッションは人気、いつも7,8人かそれ以上集めてました。ちなみに自分はそんな土俵におらず、一人でも来ればありがたいと思っていたので、人気の彼を見ても張り合おうという気持ちには全くなりませんでした(笑)。ただただ、凄いなと。そんな彼がまたありがたいのは、私の事もちゃんとリスペクトしてくれて、同じ授業なのだからお互い自作の課題を交換し合おう、などと申し出て助けてくれる事でした。お互いのセッションを見学しあったり、セッションの中で助け船を出し合ったり、とても頼れる良きバディーになってくれました。実は彼との交友はその後も長く続き、卒業後も一緒の職場で働くことがあったり、今でもエンジニアとして付き合いがあるくらいです。本当に良い人、貴重な出会いでした。

チャットは私の事をリスペクトしてくれる、と言いましたが、実際はSIの全員がそんな感じです。勿論、Englishのクラスに付く人もいれば、Mathのクラスの人もいますが、少なくともその教科で優秀な人でなければSIにはなれない、という大前提があり、私が彼らをリスペクトすると同様に、彼らも私をリスペクトしているのがわかります。非常に新鮮でした。外国人だからとか、英語ができないとか関係なく、自分にはできる事があるのだから、堂々と自信を持ってよい、という事を教えてくれたグループでした。

ただ、いつもジェシカが参加人数を増やす事にプレッシャーをかけてくるので、それは本当に嫌でした。まあ彼女の評価がかかってるし、予算もかかってるし、目に見える成果を出さねばならないのはわかるのですが。。それ以外は彼女は何でも相談に乗ってくれる、良き上司、アドバイザーでした。

SIの仕事の事ばかり綴りましたが、自分にとっても2度目のセメスター、コンピューターのクラスもガッツリ取っています。初めてコンピューターのクラスで躓くか??という危機もありました。続きます。。

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