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風間公親が教える「心得」 『教場0』の魅力と全話感想

イントロダクション

『教場』、『教場Ⅱ』はSPドラマとして放送され、舞台は神奈川県警の警察学校だった。
そこに最恐の教官として君臨していたのが木村拓哉演じる風間公親。
すべてを見透かす常人離れした観察眼で生徒たちの秘密や思惑を見抜き、警察官としての適性と資質のあるものを徹底的にあぶり出した。

風間の冷酷無比ともいうべき指導は、多様な個性と秘密を持った生徒たちにあらゆる変化を与え、成長を促す。それは時に生徒の心を折り、時には道を閉ざすような容赦のなさであるが、どこか厳しさの中にも思いやりを感じ、納得感のある導き方だった。

「誰が過ちを犯したか」以上に、「なぜ」「いつ」「きっかけは」など、動機や背景を見つめる人間ドラマ的魅力と、木村拓哉が過去演じてきた「爽快な正義」とは異なる「ダークヒーロー的な正義」が新境地として話題だった。

連続ドラマ化した『教場0』とは

『教場0』は、警察学校の教官時代「風間道場」に繋がる、風間の刑事時代を描いたいわゆる「エピソード0」である。

風間にとって新人刑事の教育にあたっていた「刑事指導官」時代で、指導にあたる新人は基本的に2話ずつ変わる。

前半1話で新人刑事のキャラクターを描きつつ、風間が彼ら彼女らの弱点を突きつける。



後半2話目でその新人が挽回して成長した姿を見せ、事件解決に繋がるというのが本作の基本フォーマットだった。


風間との捜査を通して若手刑事がいかに自身の弱みや過去のトラウマと向き合い、気付きを得ることで事件をどのように解決へと導くのか。

連続ドラマならではの醍醐味を上手に利用しながら最終話まで引っ張る仕掛けは過去の教場シリーズともまた異なる魅力に満ちていた。

『教場Ⅱ』の最後では、風間の右目が義眼となったいきさつが初めて判明。

しかし、風間が見舞われた事件の真相、襲った真犯人は謎に包まれていた。

そして風間がなぜ警察学校に赴任することになったのか。それらすべてがついに明かされたのが『教場0』であった。

基本的には誰が犯人か、トリックは何なのか。
そこに比重を置いたミステリーではなく、なぜその人物は犯行に至ったのか、過ちを犯したのか。

日本のドラマであれば『古畑任三郎』に代表されるような「倒叙形式」で、あらかじめ犯人も犯行の様子も描かれている。
つまり、捜査過程や真実の看破模様を楽しむドラマでもある。

木村拓哉が語っていた『教場0』


以下は『教場0』公式ホームページより引用の木村拓哉のコメント(一部抜粋)

「今回はなぜ風間公親が警察学校の教官になったのかというエピソードを作ります」

「あの"教場"という特別な空間である、警察学校の中だからこそ成り立っていた風間公親という存在が、皆さんが行き交う一般社会の中にいる」

「風間公親が、コンビニや繁華街など皆さんが生きている生活空間とつながる、生徒の前にいるのではなく、実際の事件の前にいる。
その点では、警察学校を描いた1作目と2作目とは、風間の後ろの背景が全く違ってきます」

「ちょっと大げさな言い方になってしまうかもしれませんが、"フジの月9"っていうあの空気は、今回全部入れ替わると思います」

この時代に連ドラを視聴することについて

Twitterでも反響が多かったので、『教場0』の各話ごとの感想、そしてメインの出演陣にまつわる印象をここにまとめたかった。

その前に「今の時代に連ドラを最初から最後まで見続けること」に対する想いを少し。

良ければお読みください(飛ばしても支障なし)

多彩な映像コンテンツやSNSが手軽に楽しめる今の時代、連続ドラマをリアルタイムで約10話分を追い続けるのは奇跡に近いような贅沢な時間の使い方だと思う。

僕もいよいよここ数年は1クールにつき、最後まで完走できるドラマは1~2本程度、よくても3本だ。
期待外れのギャップが生じたり、どうしても看過できない違和感を覚えたりしてしまうと、どんなに好きな役者が出ていようとドロップアウトする。

基本的にドラマは好きなので、毎クール始まる前は「どれも面白そうだな~」と5,6本は期待を寄せる作品が見つかるのだが、いざ蓋を開けてみると継続視聴は予定の半数もいかない。ゆとり世代ぐらいの自分がそうなので、今のZ世代なんて尚更だろう。

ましてドラマを真剣に見て、心底楽しむには可処分時間と精神的余裕が必要だ。なのに、それが難しくなってきている。「Tverもあるし、ドラマなんてもっと気軽に楽しめばいいのに」そんな声に共感しないわけではない。

ただ、気軽にドラマを見るような人たち、20代は特にもうYouTubeとNetflixとTikTokとInstagramに流れていますよ。そっち優先してますよきっと。

だからこそ最後まで見続けさせる引力のある連ドラはめちゃくちゃ価値があると思う。Twitterで、こんなふうにnoteで、感想を語りたくて仕方がない魅力を放つ作品は、ものすごいエネルギーを持っている。ほんのわずかなキッカケやタイミング次第で、他にもそんなドラマは今期も見つかっただろう。タイムランやトレンドを見ればそれは理解できる。

とりわけ『教場0』に関しては自分がTwitterプロフィールに載せているような特別好きな役者さんが出演しているわけでもない。なのでその辺もわりとフラットな感想で、他人にも「面白い」と薦められるドラマといっていい。

それでは以下、Twitterでもほぼ毎週呟いていた、各話の個人的な感想および見解のまとめ。

第1回 硝薬の裁き

ゲストの市原隼人がとっても良かった。胸板は気になるほど厚かったが。

ガッキー、染谷将太、北村匠海、白石麻衣らをまだ温存しながらこの面白さかよと。豪華作品の初回を引っ張る役どころを担った赤楚衛二も大貢献で見やすい。わずかな台詞だけでドラマに重みを与える木村拓哉の風間も渋くて引き込まれる。初回ゲストに市原隼人を持ってきた時点で勝ち確。

市原隼人が風間へと向けた「あんたが指導したのか」「警察学校の教官になれ。そうすりゃ出来の悪い警官が減る」
これは奇しくも最終話の北大路欣也の台詞にも繋がり、風間教場へと繋がる言葉となった。

第2回 ブロンズの墓穴

家族愛、親子愛、それを動機とした事件は今後も続いていくのだが、この回はトリックにもそれを隠す犯人の言動にも無理が目立った。
初回が良かっただけに、リアルタイムで視聴するほどではないかな…と正直揺れた回だった。

とはいえ、連続ドラマは映画と異なり、最後まで見届けて完成品だとするなら波があっても然り。ドラマには次でまた巻き返したり、ゆっくりと登場人物に感情移入できたりする魅力があるので、こんな視聴もナチュラルかなと。

第3回 毒のある骸
第4回 孤独の胎衣

ここにきて新人刑事にガッキー投入。

2話で揺れかけたドロップアウトに歯止めがかかった。マスカレードホテルでは長澤まさみとバディを組み、綾瀬はるかとも何度も組んだ木村拓哉が、今度は新垣結衣と組む。この世代のトップ女優に魅せられてきた身としてもそれだけで感無量。

そしてこの辺りから堀田真由が演じる幸葉の存在感が増してきていた。正直1〜2話までは無理やり入れたような役だなとか甘く見てた…

めるるの芝居は先日のトークィーンズでキムタクも褒めてたね。

第5回 妄信の果て


この作品の気になる点としては殺しまでの道程の粗さ、雑さで、もう少しどうにかならなかったのかなとは何話か思った。
でも野間口徹さんが素晴らしい役者さんなのは間違いないし、地図を巧妙に使った展開や盲信の果てというタイトルも嫌いじゃない。

ここから坂口憲二が登場して湧いた。

第6回 三枚の画廊の絵

この回はかなり好き。特に筒井道隆。本物の画家に見えたし、哀切な表情や丸い姿勢が事件の背景を背負ってる感じが出ていた。
月9『ミステリと言う勿れ』では全くキャラクターの違う厳しい表情を浮かべるクールな刑事を演じていたが、さすがキャリアの長い役者さん。まるで別人。

個人的に北村匠海は好きでも嫌いでもない役者だったけど、わずか2話分の登場で遠野という人物の輪郭を伝え、今回の結末に胸が痛むような感情移入させる芝居を魅せたのにはグッときた(もちろん演出や脚本、風間の存在もありきで)。
彼の出世作『君の膵臓をたべたい』を彷彿とさせる"原風景"も良かった

遠野(北村匠海)の行く末を知ってるからこそ、彼が言った「世の中には限られた時間しかない人がいるんです」が切なかったな。

そして風間の義眼の契機となった衝撃の事件が起こる。

ここは強烈。でも舞台設定、演出、角度、どれもが良かった。


第7回 第四の終章

女刑事vs知略の舞台女優とサブタイトルにあった通り、新人刑事として風間道場にやってきた白石麻衣と瀧本美織が激突。

見応えはありつつも、舞台女優の役柄は少しステレオタイプというか、いかにも感が強過ぎた。瀧本美織どうのこうのではなく、演出や脚本か、なんだか違和感や既視感はあった。

まあ一番底が知れないのは堀田真由なんですけどね。

白石麻衣は見た目の美しさだけに頼らない魅力的なキャラクターを体現していた。

そのまいやん演じる鐘羅路子が、思慮深い観察眼の優れた人物なのか、有能だけど空気の読めない強メンタルの人物なのか、あるいはその両方か、軽いのか重いのか。すべて演技か。その辺が良い意味で気になり見続けられた。

次回、彼女のその胸の内が決壊するような予告も期待を誘う。

第8回 闇中の白霧

小池徹平は個人的には久々に観たけど歳の重ね方がいい。童顔の名残りはありつつも良い皺の刻み方で、据わった感じの声も聴きやすく良かった。

それと役柄上マスク姿が多い鑑識課・阿部さんの貴重なシーンも。演じる中島亜梨沙さんは元宝塚だけあってさすがに隠しきれない華と聡明な雰囲気を放っている。


捜査の中で、
濱田崇裕「女の勘?」
白石麻衣「昭和くさいですけどね」
キムタク(風間)「そんなことはない。君は女優の嘘を見破った(7話の事件)」

褒められてガッツポーズまいやん

こんなやりとりも。
7話から8話への連結と成長が見られたのが良かった。風間も珍しく直球な褒め方をしていた。

基本は刑事として、時にアイドルや女友達のように、時にOLやガールフレンドのように、またある時は空気の読めないメンタルや、天然っぽい抜けた様子など、多面的に印象を見せたまいやんの鐘羅路子。彼女とは一体どんな本質を持った女性なのか…8話で明るみになった。

7話では内面が読み取れず蝶のように舞って本心が定まらなかった路子が、ここで胸のうちを決壊させた。

風間と路子のやりとりには魅せられた。

スピンオフがあっても見たなー。

この頃はよくUruの『心得』を聴いていた。
歌詞は新人たちの心情と重なり、風間からの教えにも取れる。まさに8話の白石麻衣を指すフレーズも。「心得」は普段の心の在り方や準備を意味する。刑事の仕事は咄嗟の判断と対応が結果を左右する。風間は日頃から隙のない心構えをしてる。だから見逃さない、動じない。

まあ8話は色々と真相が衝撃的だったから印象深いですよね。


第9回 橋上の残影


9話は事件そのものは陳腐すぎて微妙だった。
屋上のシーンはすべてこんないかにも台詞らしいセリフある?ってぐらい台本が存在する台詞にしか聞こえない語りで、あまりにも綺麗すぎる流れにやたらと違和感が募った。

「ここで修理?」
「出直してらっしゃい」
「ずっと暗闇の中を生きてきた」
「あなたも闇を抱えてるみたい」


さすがにチープで陳腐なセリフを与えすぎじゃない? せっかく早見あかりを使ったのに人形劇のように見せちゃうのはもったいない。

「推測ですよね?」「証拠を出してくださいよ」はもはや毎回出るセリフで、容疑者側の1発ギャグみたいになっていた。

染谷将太がいよいよ登場したのは嬉しかった。
素行不良の男と、その裏腹に抱える闇の兆しには次回への期待を呼び込んでいた。

第10回 指輪のレクイエム

ここにきて最高のエピソード。ピークはちゃんと終盤に持ってくるのね。大女優の芝居合戦に染谷将太の胸懐まですべてに痺れた。

また何よりも遠野の最期と風間や幸葉のリアクションね…

他の人のツイート見ても泣いたって感想はかなり見かけた。

最終回


ラストまで衝撃…十崎を怪演した森山未來も最高だった


この辺で力尽きたので、最終回の感想はまた加筆します…Twitter含めて。

堀田真由が演じた幸葉の魅力

このドラマを見て一番のポジティブなサプライズだったと言っても過言じゃない幸葉と、それを演じ切った堀田真由には拍手とお中元とお歳暮贈りたい。

木村拓哉に惚れ直した新境地

そんな風間でも、立場が上の人には敬意を持って体育会系の振る舞いを当然することを、しっかり描いていたのも良かった。ある意味警察らしい縦社会の象徴であり、威厳を発揮する小林薫を配置した意味。貴重な風間の人間味が出た瞬間のひとつだった。


雑な妄想コラム 『風間化現象』
蛙化現象ならぬ、風間化現象がにわかに増殖している。風間公親(木村拓哉)とは似ても似つかない教場のキムタクに影響を受けた無能上司が、自分で考えられないことを棚に上げ賢いふりして「君はどう思う?」「何に気付いた?」「おかしいと思わないか」を部下に連発してくる。
このコラムはあくまで妄想だが、実際この『風間化現象』はそこら中の会社であると思う。質問を質問で返し、それっぽい神妙な面持ちだけして結局「自分で考えろ」と丸投げしてくる上司。
風間公親が「明日までに持ってこい」と突き付ける転属願が、企画書や提案書かに変わるだけで…

木村拓哉の魅力についてはまた加筆するかもです。

とにかくドラマにも木村拓哉の風間公親にも魅了されました。

風間が部下や犯人に教えた気付き、自分の心の中との向き合い方や覚悟は、見習うべきところが多かった。

最終回のエンディングでも風間の新人刑事へ掛けた言葉の数々が一部抜粋で流れていたので、また見返したい。

自分なりの正義、覚悟、ポリシー。

それを殊勝な決意の言葉だけで終わらせず、また心の奥にしまいすぎて瞬発的に引き出せないこともないよう、常に心得として、携えていたい。


どうやら教場のエピソードはまだ終わりではなさそうだから…



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