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魔性の魅力を放つ傑作!Netflixシリーズ『地面師たち』全話感想

筆者の視聴前の予備知識について

・あらすじ、相関図を確認していない
・原作未読
・本作のモデルとなった不動産詐欺事件は知ってはいたものの、「積水ハウス」「巨額詐欺」「地面師による犯行」というキーワードが頭の片隅にあった程度
・不動産業の経験があり、業界や司法書士の仕事内容の基礎知識は備えている(不動産決済の様子、司法書士による本人確認の方法など)



いやあ、すこぶる面白かった!!!

前評判以上。期待や想像よりずっと良かった。

エピソード1~7の全7話構成だったが、視聴し始めると止まらなくなった。
Xに投稿した内容も含め肉付けして、1話ずつの感想をこのnoteにまとめてみた。視聴しながらすぐにメモのように記した部分もあるので読み苦しい点もあるかもしれない。

以下、ネタバレ回避したい人は読まないことを推奨します。


#1 綾野剛と豊川悦司の妖しい調和

すぐに心を鷲掴みにされる。冒頭からNetflixらしいスケール。予備知識のない視聴者にも物語の輪郭を理解させ、そして軌道を予感させるに充分な初回。犯行グループの手口と人物造形をストレスなく見せており、地面師が絡む不動産取引現場の緊張感を体感できる。

豊川悦司と綾野剛の妖しさの調和は素晴らしい。


本作のキャスティング、配役はおよそ完璧に近いと思われるが、ストーリーの柱となる犯行の主犯格をこの二人にあてがった時点で勝ち戦だったのかもしれない。それほど主演二人の存在感だけでドラマに引き込む力がある。凶悪が滲み出るピエール瀧、地上波よりよほど野戦味のある小池栄子、ガリレオと相棒刑事だった雰囲気など微塵も感じさせない厭な北村一輝…くせ者揃いの犯行グループは中毒性を秘める。役者が正しい使われ方をし、確実な芝居でそれに応える理想形。

主軸となる100億円規模の事件が展開する前段階に仕掛けられた約10億の詐欺事件。餌食となった新進の不動産会社社長を演じた駿河太郎のリアリティも抜群。業界にゴロゴロいそうなワンルームマンション投資の社長感。

「今回の獲物は小物ですが、小物は小物なりに殺される直前になると、急にあがいたりしますからね」(ハリソン山中)

1話終盤、最大の標的となる土地(光庵寺)を廃墟のようなビルから見下ろす集団は危険な匂いに満ちていた。まるで幻影旅団。なりすましに利用された老人がトラックに轢かれて始末される動画を確認するトヨエツは狂気の片鱗をちらつかせる。

ちなみに相関図を確認せずに見たので、初めにリリー・フランキーが現場を確認するシーンを見たとき、絶対この刑事も犯人側のスパイじゃんと思った。ピエール瀧も揃っているし、もう終わった怖すぎると思った。

#2 完璧な配役

10億を地面師に騙されたマイクホームズ社長・真木(駿河太郎)の絶望から始まる。リリーフランキー演じる辰さんの言葉から、地面師がいかに狡猾で高等な犯罪テクニックを持った集団詐欺グループか語られる。不動産のプロでも騙されるこんなヤカラが時代の変遷ごとに跋扈する世の中は恐ろしい。

2話から徐々に山本耕史のいる石洋ハウスにも動きが出る。同時に綾野剛演じる拓海の過去に何があったのか紐解かれる。石洋ハウスで社長派の青柳(山本耕史)と派閥争いを繰り広げる会長派の須永(松尾諭)が良い。松尾諭は岡田准一主演の『SP』に代表される、同僚に嫌味を言いながら無骨な人間味を出すことに長けている役者だ。

またリリーフランキーとバディを組むことになる倉持(池田エライザ)、北村一輝の下っ端として稼働するオロチことアントニー、地上げ屋のマキタスポーツなど、脇を固める配役も鉄壁。

特にアントニーは「まだ捕まってないだけの芸人」と言われるだけある。それぐらいナチュラルな役どころ。反社反グレの下っ端らしい空気の読めない脳筋演技が最高。高級ホテルでやらかしてるのにそれを責めない拓海は優しく冷静だった。染谷将太演じるニンベン師兼ハッカーも登場。染谷将太は奇抜な天才役が似合うなあ。

#3 ケロイドホスト

石洋ハウスが100億円相当の土地・光庵寺の取得に向けて動き出す。実際の事件同様、内部クーデターの模様もほころびる。

ホストとの集団プレイを思い出す煩悩の塊のような尼の読経シーンが面白い。ハリソンと揉めるシャブ中の竹下。それを止める後藤(ピエール瀧)が「誰が止めてんだよ」でもっと面白い。

特殊マスクを被ってホストに潜入した綾野剛だが、ケロイドを付けたのはどこまでどのような意味を想定してのことだったのだろう。
自罰的に父親と同じ火傷跡を体感すること、ホスト連中の同情や興味を引くこと、一般に慈悲深いイメージのある尼さんの懐に入るこむため、変装で確実に別人だというインパクトを与えられる等のメリットはあったと思うが、さすがに上手くいきすぎな潜入にも映った。元ドライバーという設定はホスト潜入や尼追いでも生きていてその点は良かった。

綾野剛の父を騙した地面師役には赤堀雅秋。これまた適役。映画化もされた『葛城事件』『その夜の侍』などでも知られる劇作家で、血生臭い作風は知られたところ。本作の空気にもぴったりである。

トー横キッズなんて言葉が世間で認知される前の、歌舞伎町の闇の兆しも描かれており、ホストや売春、反社を含むアンダーグラウンドなカネの流れが構造的に分かる。綾野剛のセックス力、アントニーの汚名返上、さよならマキタスポーツ…毎回見どころが尽きない。

#4 スリーカウント

ホストの楓が屋上から突き落とされそうになる脅迫からスタート。「追い詰められたときの人間の表情は素晴らしいですね」と語るハリソン。
だが、この4話のラストにもっと恐ろしい未遂で終わらない脅迫、いや強要の突き落としが待っているとは…映画『ダイ・ハード』の撮影エピソードも布石に使われたこの第4話はシリーズで最も興奮した。

このドラマが傑作たりえているのは薄汚い正義の主人公(辰さん)とハリソン、両者の功績ですよ。

池田エライザとリリーフランキーの会話シーンが尊いが、私は能天気に見ていたので死亡フラグだとは思っていなかった。というか、このドラマは全員に死亡フラグが出ているようなものだから、そんなアンテナは無意識に麻痺してしまう。

辰さんが妻を旅行にを誘った際の「最悪お前と二人でもいいし」「いやいや最悪ってことはないけどさ」の言い直しと言い回しが自然。笑ってしまったけど拍子で軽率な発言しちゃうのが長年連れ添った夫婦だなあって。

喫茶店背中合わせのスリルから二度目の電話は悪魔の声。動揺と緊張を抱えながらも話を盗み聞き、メモを取るリリーフランキーの表情や所作は惚れ惚れする。ただ白昼堂々、車や人通りもある喫茶店の前で、防犯カメラも多い都心であのさらい方は大胆すぎないか。

石洋ハウスとの契約取引現場シーンと交互に差し込まれる辰さんVSハリソンの対峙は圧巻。「狭いながらも楽しい我が家というやつですか?」と言いながら家族を間接的に人質にとったハリソンには「どこまで腐ってんだお前は!!!」という漫画のような陳腐なセリフが自分からも飛び出そうだった。ハリソンの手を掴んで道連れにしてくれと思っていたら「道連れにしようなんて考えないでくださいね」と即座にハリソンがこっちの思考まで読んだみたいなセリフをかましてきて戦慄…!ハリソンのヤバさと辰さんの魅力が最高潮に達した矢先の結末には泣きそうになった。結果的にあの落ち方(落とされ方)なら不自然にならないものかねと思ったが…にしても落ちる直前の苦悶の表情はすごかった。リリーフランキーは名優である。

#5 受け継がれる遺志

石洋ハウス内部では松尾諭が山本耕史に地面師詐欺を疑って忠告。
実際の積水ハウスでも内部からそのような声は幾度となく上がっていたり、野村不動産などが手を引いて注意喚起をしていたとか「あの土地は売りに出されていない」といった内容証明が何度も送られていたのは事実のようだ。それでも強引に推し進められる形となった展開は、普通に考えれば大手不動産ならありえないようなスピードと杜撰さ。それだけに実際の事件もやはり相当闇が深い。

辰さんの遺志を継いだ池田エライザ演じる倉持、情報屋の久保田が心強い。池田エライザはスタイルの良さばかり先行して注目されがちだけど、身長もあって正義感の強い筋の通った今回のキャラクターはとても合っていた。バイク、武術、綾野剛との対峙、どれも単純にかっこよかった。

#6 踏みつぶ死

尼さんのなりすまし役が直前でポシャった。
麗子(小池栄子)の髪を鷲掴みにして凄むハリソンが怖すぎる。有無を言わせぬ迫力。回を追ってもその狂気に翳りが見えないどころか、更新していくハリソントヨエツにドン引き。頼むから愛していると言ってくれ。

北村一輝演じる竹下の裏切り。からのウエスタンブーツの踏みつぶ死。空港から本物の地主が戻ることになった緊急事態。痺れる場面が矢継ぎ早に注がれる。アジトの駐車場に潜入しているエライザ相手にセキュリティが行き届いていないのはこれまでのハリソンの警戒感を考えれば不自然だが、視聴者としてはもう生き残ってくれとただただ願うばかりだった。

#7 セブン

100億が動く取引、事件のクライマックス。怪奇溌剌な山本耕史に魅せられる。112億の取引を成功させた(と思い込む)男のバック夜景ピストンには笑った。勝ち顔も負け顔も、味方も宿敵も、どちらにも立ち回れる器用さを持つ山本耕史。
もはや山本耕史やリリーフランキーが出演する作品は一定のクオリティが担保されるような信頼感がある。『日曜日の初耳学 インタビュアー林修』で堺雅人は山本耕史を「稀有な俳優」と評していたな。

拓海を貶めた事件の真相も明らかに。
拓海よ、完璧な準備として長井くんや倉持に協力を仰いでいたのは賢明だが、それを上回る周到さと残忍性をハリソンが持っているのは君が誰よりも分かっていたはずだ。だから単騎で乗り込むな。エライザ、お前もだ。それぞれ、父親、辰さんの弔い合戦だったかもしれないが、もっと味方を集めて集団で乗り込んでくれ。まあでもハリソンに銃口を向けつつも撃ちきれないのが二人の人間性を物語っていて良い。「あの刑事さんなら撃ってましたよ」と煽られながらも葛藤するエライザの表情、ああいったシーンの最高峰は『セブン』のブラピだけど、正義と恨みがせめぎ合う「追い詰められたときの人間の表情は素晴らしいですね」。

にしても死人がゴロゴロの7話(セブン)。4567って語呂合わせが頭に浮かんでは消えた。ハリソンが生き延びているのが悔しいが、人を直接殺めることには道義心を持っていた拓海に対して、手を染めていた犯罪行為は決して許されることではないと言い切っていたエライザには胸がすく。「あれ、これで終わり?」といった物足りなさもラスト無くはないが、おおむね最後まで不穏でドキドキできる緊迫感あるドラマだった。

#総括

1話を見た時点で超面白いと思ったが、あんなのまだアクセル踏んでいなかったのだ。エンジンをふかしたに過ぎなかった。どんどん引き込まれ、7話までほぼ勢いが衰えない没入感が続いた。おそらく『冷たい熱帯魚』などもそうであるように、実際の事件がモデルになっているという生々しさも大きな要因ではないか。積水ハウスの事件はまだ2017年の出来事でそう昔ではない。不動産詐欺は身近に起こりうる犯罪だ。

リアリティともまた異なるニュアンスだが「緊張感」というのは地上波のドラマにもっと必要な要素かもしれない。

石野卓球が手がけた劇伴も中毒性が高く心地よい。Netflixはイントロがスキップできるが、地面師について説明するあのナレーションも不思議と癖になり、スキップせずに見ることが多かった。ナレーターが山田孝之だったのも後から知って驚いた。

原作に惚れ込んだという大根監督筆頭に、ものすごい数と質のスタッフが携わっていて、良いものを作るんだという真摯なスタンスがヒシヒシと伝わる傑作だった。

主演で牽引した綾野剛と豊川悦司の魔性の魅力はXでもポストした通り。

特に綾野剛は悲哀の瞳をぶら下げて宿り木のない雰囲気を終始漂わせて引き込まれた。どこに振れるか分からない危うさがあるのに底には純粋さが残っていて、それがすごく拓海らしく感じた。ある種残酷で非道な映画の中で真ん中にいながら、あの柔らかさを保っているところに視聴者としては不思議な安堵感を覚えた。

綾野剛と豊川悦司、果たしてあの役柄を他に誰が務まるのか。想像の余地を一切許さないベストな配役、怪演に脱帽だった。







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