有吉弘行の毒舌を真似できない4つの理由
※この記事は数年前にブログに書いた記事を加筆修正したモノです
いまやテレビで見ない日はないほど活躍している言わずと知れた売れっ子の有吉さん。
僕も大好きな芸人の一人で、彼の番組は視聴習慣がついている。
有吉弘行の現在地までをギュッとするとこんな感じだろうか。
再ブレイクを果たした時の勢いは凄まじかった。
特に毒舌のキレ味。
浴びせられた人が返す言葉もない鋭さと、爆笑をかっさらう決定力。
もはや今の有吉さんには「毒舌キャラ」なんて安っぽいイメージはない。本人も「毒舌といえばで名前を出されるのはもう古い見方」といった発言をしている。
しかし、今でも当時を彷彿とさせるスパイスの効いたコメントや、キレッキレの切り返しは健在だ。
かつての切れ味を再現するのは別に難しいことじゃないと思う。
ただ、芸人としての地位が芸能界でもトップクラスとなった現在、以前のようにやっても当時ほどのリターンは望めない。
立場が変われば求められる役割も当然変わる。そこを理解して柔軟に戦える人が生き残れる世界。
つまり、当時のようにやろうと思えばいつでも簡単に容赦のないスイッチは入れられるけど、あえてやっていない。
それなのに「丸くなった」とか「牙が抜かれた」とか安易な批判をするのは見当違いである。
この記事で取り上げたいのは再ブレイク当時の有吉さんの毒舌についてだ。
あの破壊力抜群の毒舌は、なぜ他人では真似できなかったのか。なぜ言われたほうは言葉に詰まるしかなかったのか。
その理由を僕なりに考えてみた。
言い換えればそれは、有吉弘行が毒を吐いても許される理由であり、尖った芸風をするうえで必要不可欠な要素でもある。
有吉の毒舌を真似できない理由その1
「核心を突く精度がとにかく高い」
毒には、言われた方も返す言葉がない、本人にもどこか心当たりがあるような精度が命だ。
共演者や視聴者が何となく感じていたモヤモヤを言語化してくれる痛快さ。
「あー たしかに」「わかるわかる」と、共感して納得できる精度を有吉さんは外さない。
大沢あかねを評した「ブス界一の美女」というあだ名、ベッキーを「元気の押し売り」とこき下ろしたのなんてその最たるもの。
ブレイクすることを「バカに見つかる」とも表現した。キャッチーなのも彼の言い回しの魅力だ。
有吉の毒舌を真似できない理由その2
「不快を超える笑いを確実に取る」
素人含め、下手な人が毒を吐いて周囲を引かせてしまうのは、ここが欠けているからだと思う。
このさじ加減は相当難しい。
対象との関係性、対象のキャラクターにもよるからだ。
中途半端に手加減が見えても笑えないのだが、有吉さんの場合は容赦がないことがしっかりプラスに働いている。核心を突きつつ、その場に求められた期待にもちゃんと応えたユーモアも込めているため笑うしかない。
バラエティでよく見られた光景は、有吉さんが毒を吐いて周囲が「やめろw」「失礼だぞ!笑」「ひどい…笑」などの反応をしながらも、大爆笑してるというもの。
毒を吐かれた被害者も周りが爆笑しているため、「むしろおいしいか…」と苦笑いでおさまる。何より有吉さん自身が一番楽しそうに笑っている。
これは本人も意識的にやっているようなことを語っていた。
毒づいた後は笑顔を見せることで空気を悪くしない。敵意がないことを示す。童顔でかわいらしい顔立ちも効いている。
「不快にさせる以上の笑いを確実に取る。そしてそれこそが目的」であることを、対象にも視聴者にも一瞬で分からせる技術。
そこが他の毒舌的な芸風を持つタレントとの決定的な違いだ。
有吉の毒舌を真似できない理由その3
「¨怒ったほうが野暮¨という構図を作る天才」
誰もが腑に落ちる核心を突き、爆笑をさらう。
するとバラエティにおいては、それに対してマジ切れするほど野暮なことはない。
「マジな感じで怒る」のは笑いになる。梅沢富美男のように。
対して、「マジで怒る」のはシラけさせるだけで、そんなことしたら「なにマジに捉えてんの。大人げないなこの人」で一番痛い印象になる。
有吉さんは現場がシリアスにならない絶妙なラインを見極める能力が高い。
ここまでなら言っても大丈夫、ここまでなら笑いで終わるといった選球眼に優れている。
それをふまえたうえで、自分に有利なシチュエーションを完成させる。
有吉の毒舌を真似できない理由その4
「天国と地獄を見た特異なキャリア」
最近はもうかつての毒舌が鳴りを潜めているとか、丸くなったとかいう声も聞かれる有吉だが、意識的に調整したのだと思う。
もう再ブレイクした時と立場が違うからだ。
当時、死んだ目を隠そうともせず傍若無人に共演者に噛み付いて毒を撒き散らした有吉さんには失うものがなかった。
過去に一度は栄光を掴むも、地獄を見てまた這い上がってきた男が噛み付くのは痛快だった。
有吉さんの毒舌にインパクトと説得力があり、なおかつ許されやすかったのは、先述した3つの要素に加え、この特異なキャリアが大きい。
爆発的に売れた景色も、正反対のドン底も、両方を経験している。
だから、説得力がある。
ぽっと出の怖いもの知らずの若手芸人が毒を吐いていたのではない。怖いもの知らずだから強いのではなく、むしろ光も闇も知っているからこその強さだ。ただの若手が同じ悪態をついていたら一瞬で潰されていただろう。
有吉さんほど売れた経験もドン底を見た経験もない毒舌の被害者は、その説得力を前に安易に刀を返せない。それでいて的を射てユーモアもあるのだから認めざるを得ない。
地獄を見た経験から、本番以外での礼儀やフォロー、立ち振る舞いも下手は打たないだろうから許されるに決まっている。
今は番組の中心となるMCの立場がほとんど。芸歴も演者の中で上に位置することが多い。だから「守りに入って丸くなった」のではない。
今の立場で当時と同じことをやっても、単なるパワハラやイジメのように映る可能性がある。なんせ自分が一番売れているか、もしくは共演者がみんな後輩だからだ。
体育会系のパワハラ芸が認知・許容されていたとんねるずのような例もあるが、有吉さんのキャラクターかつ今の時代にやるのはまたちょっと違う。
それでもキツい物言いは健在だが、かつてが真剣で見境なく斬り刻んでいたとしたら、現在は逆刃刀でカウンターのみといったところだろう。
芯を喰った毒づきは、立場が上になればなるほど不快にとられる可能性も高まる。例えば島田紳助はその点で一部の視聴者から毛嫌いされていたように思う。
有吉さんはそこを戦略的に調整してやっているはずだ。だから再ブレイクから随分と経ったいまだに第一線で活躍している。
恐ろしいほど客観性を持っていて、賢い人だと思う。
サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います