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【感想文No.3】学校の殺人 by ジェームズ・ヒルトン

(ネタバレなし…ストーリーには触れる。)
Murder at school / Was it murder?
James  Hilton, Glen Trevor,1931
「学校の殺人」滝口直太朗訳(1965)

 学校関係の仕事をしている私にとって、イギリスの寄宿舎学校(パブリックスクール)が舞台の推理小説となれば、もうそれだけでドキドキしてしまう。

 そういうことで期待が大きかっただけに、主人公があまりにも不甲斐なさすぎ、そして周りの人間があまりに優秀すぎて、何を目的に書かれた本なのかわからなくなってしまった。ラストでは見事に伏線回収がされ読後感は決して悪くなかったのだが、別の人物が主人公のほうがよかったんじゃないかと思うぐらい、主人公はヘボかった。

 ストーリー構成やトリックはとても良い。これだけで推理小説としてのこの作品は高く評価できる。特に、物的証拠がほとんどない状態で登場人物の証言を手がかりとして様々な推理を張り巡らしていく物語の運びは、読者の側でも色々な推察ができ、それはとても楽しかった。
 誰の発言が真実で、誰が嘘をついているのか。この人が犯人だった場合、というように1つずつ仮定をしながら物語を振り返ってみると新たな疑問が湧き上がってきたりと、非常に巧妙なストーリー構成は見事としか言いようがない。

 それにしても、である。話を進めていく主人公があまりにもヘボいために全体を台無しにしてしまっている作品なんて、初めて読んだ。
 これが発表された1931年は、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロなど、全世界に愛される探偵が大活躍していた時代だからこそ、奇を衒ったストーリー展開で読者の注目を集めようという作者の意図だったのだろうか。実際、作家業では生計を立てるのが難しかったジェームズ・ヒルトンは、生活のためにこの作品を書いたと言われている(発表当時はGlen Trevorという名で発表している。)その目論見が失敗に終わってしまったことは、彼の長編推理小説がこの一本のみに終わっていることから自明であるのだが。

 それでも後半になれば主人公が謎をかっこよく解いてくれるだろうと僅かな期待をしながら読み進めたのだが、残念ながら後半からのストーリーの失速ぶりは目も当てられなかった。いや、ストーリーが失速したのではない。主人公が最後まで読者の期待を裏切り続けたのだ。
 そのただ一点が、この作品が後世に受け継がれるシャーロック・ホームズなどの名探偵と肩を並べることのできなかった要因ではないかと思うのだ。

ジェームズ・ヒルトンは他の作品も読んでおかなければならないと思った、闇の深い夜。


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