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恋するシンドロームと中国アレルギー(1)

中華電影の日本公開についての疑問2題。
まずはなぜ日本で公開される恋愛系の中華映画って、「恋する」という邦題が多いのでしょうね?ってところから始まる話。

今月初旬から東京で『欲望の翼』のデジタルリマスター版の上映が始まりました。昨年公開されたドキュメンタリー『メットガラ』が王家衛を取り上げていたことから、『花様年華』や『ブエノスアイレス』そして『恋する惑星』が再上映されて王家衛が再評価されているのは、長年のファンにとっては非常に嬉しいことです。願わくば、地方にもこの波が…とか言っちゃうのは、単に件のドキュメンタリーが来てないからなのですが、はい、ソフトでいずれ観ます。

で、本題。王家衛という映画監督の名を一般の映画好きに知らしめたのは、何と言っても『恋する惑星』。村上春樹の小説っぽい《重慶森林》という原題からこんな可愛らしい邦題が生まれるとはまさか思いもよらなかったが、この題は当時王家衛をバックアップしていた今はなき配給会社プレノンアッシュの戦略で、アクション映画が多い香港映画というイメージに縛られることのないように、多くの人に観てもらいたいからという狙いがあったと昔雑誌で読んだ記憶があるのだが、その狙いは見事に成功しているのには今でも感心する。
しかし、である。その後に出てきた「恋する」とつく邦題の多さよ。
映画レビューサイトcocoのデータベースで調べたら51件もあったが、1995年以降のアジア映画だとこんなのがある。
(年号は日本公開年)

『恋する天使』(香港/1997年公開、レスリー主演の《大三元》)
『恋する神父』(韓国/2005年公開、クォン・サンウ主演)
『恋するブラジャー大作戦(仮)』(香港/2006年公開、ラウ・チンワン&ルイス・クー主演)
『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(インド/2013年公開、シャー・ルク・カーン主演)
『恋するミナミ』(日本/2013年公開、リム・カーワイ監督)
『恋する♡ヴァンパイア』(日本/2015年公開、主演は桐谷美玲だがイーキン・チェンがなぜか出演)
『恋するインターン』(韓国/2016年公開)
『恋する都市 5つの物語』(中国/2018年公開 スタンリー・クワン&ウェイ・ダーションプロデュース)
『恋するシェフの最強レシピ』(中国/2018年公開 金城武主演)

まあ、ブラジャーとかOSOとかにはそうは思わなかったのだが、「恋する○○」と短いタイトルがつくと、もうそれは明らかにパクリやん!と言ってしまうのは言うまでもない。『恋する天使』は直後だったこともあったし、まあこういう邦題もある意味潔くて香港映画らしいおおらかさも感じられたので許せたんだけどね。あまりにも多すぎると多少頭は抱えたくなる。
映画だけじゃない。台湾ドラマで「恋する○○」を調べたら、『恋する、おひとり様』『Love Around~恋するロミオとジュリエット』『恋する人魚~30女子の磨きかた』などがヒット。

そして極めつけは、昨年放映された日本ドラマ『恋する香港』
このblogによると、題名はもろに『恋する惑星』から取ったとはあるのだけど…。ちなみに地元でも放映されていたのですが、突然始まったので第1話から観られず、録画を忘れて最終回も観れず、肝心の話自体も面白くな…と本題からずれるので後は略します。

なんでみんなそんなに恋してんだ?
そりゃアタシも香港や台湾大好きだけど、「恋する」題名もここまで濫用されると、担当者のセンスのなさを疑っちまうぜ。やれやれ。
…いや、こうは言ってみるけど、決してそれを批判しているわけではないのですよ。なんかひっくり返すようで申し訳ありませんけど。

香港返還を機に起こった香港映画ブームから始まり、気がつけば中華電影好きも20年を越え、合わせて国内外の公開状況の変化や浮き沈みもいろいろ見てきました。未だに「香港映画=ジャッキー・チェン」という認識も強く(彼自身はもうずいぶん前に香港から中国に拠点を移してしまったけど)、普通の人と話が通じないこともあって苦しんだりもしたのだが(大げさな)、王家衛の登場で説明もしやすくなりました。でも、その登場があまりに衝撃過ぎたから、アジアの映像作品に「恋する」邦題が続々登場して、どこか似通って観られてしまうのかな?と考えています。
一般的な認知度が低いからこそ、邦題からもっと冒険してもいいと思いますよ。

また、以前に比べてドラマ系作品の一般公開作品が減少しているのも気になります。ドラマじゃないけど、東京国際映画祭で14年前に特集が組まれたパン・ホーチョン作品は未だに1作しか一般公開されず、毎年3月に開催されている大阪アジアン映画祭では良質なドラマ系作品も多く上映されているのに、なかなか一般上映に結びつかず(昨年上映された『29歳問題』がやっと5月に日本公開されるくらいか)、遠方の映画祭に行けない身としては歯がゆい思いもしております。

現在の日本の洋画の上映状況はハリウッド>ヨーロッパ>>>>アジアという感じですが、これって30年位前から変わらない気がします。邦画も含めて年間の上映本数が1000作品を超えても、まだまだアジア映画は無名です。もっと多くの人に観てもらいたいから、あれこれアピールはしていますが、それはやっぱり映画を持ってくる方にもお願いしたい。

でもそのアピールが間違うと…ということが最近の公開作にあるので、それはまた近いうちに改めて書きますね。
今回はここまで。

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