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このまちで ほんをよんで つくること

いつからか、6月の岩手は、ブックイベントの季節になっている。

2016年から始まり、東北で唯一の開催となっている文学フリマ岩手
鉈屋町のもりおか町家物語館で開催されている浜藤の酒蔵ブックマーケット
そして、昨年から紫波町の日詰商店街で開催されるようになった「本と商店街」。
これらのイベントから、本について、そしてまちについてもあれこれと考えてみた。

本と商店街2024

昨年の「本と商店街」メインビジュアル

「本とローカリティ」をテーマに、紫波町在住のエッセイストあまのさくやさんやお馴染みのBOOKNERDが実行委員会を組織し、横浜の本屋・生活綴方や島田潤一郎さんがひとりで立ち上げた夏葉社紫波町図書館などが集まって、紫波中央駅から徒歩10分くらいのところにある日詰商店街のY.C.COFFEE STAND日詰平井邸等を会場に行われたブックイベント。
↓は昨年の初開催に臨んで、あまのさんが書かれていたnote記事。

かつて、我が街盛岡では、震災直後の2011年から15年まで、モリブロというブックイベントが開催されていた。参考までにかつてblogに書いた14年のイベントレポートのリンクを貼っておく。

今年のビジュアル

1日のみの開催、トークと東京を始めとした全国各地の小規模出版社やリトルプレスレーベルが集まったブックマーケットとケータリング出店、そして県内外の本に関わる人々のトークイベントを行ったのが去年のこと。
今年は開催も土日2日間、出店者数もイベントも昨年の倍になり、くどうれいんちゃんのトーク(後述の事情によりこれは行けなかった)も企画されるなど、2年目にして開催規模が一気に広がった。

かつての町家作りの商店をリノベートした日詰町屋館。当日は紫波町図書館が出張。
メイン会場の日詰平井邸。トークイベントは2階の大広間や裏の蔵で展開。
日詰商店街の文化拠点、Y.C.COFEE STANDでレモネードを。

紫波には図書館のあるオガールにはよく足を運ぶが、日詰商店街に足を踏み入れたのは昨年のこのイベントが初めてだった。
商店街と言えばシャッター通りと呼ばれるようなイメージがあるのだが、ここには昔ながらの個人商店や飲み屋の複合商業施設が古き町家や屋敷と共に軒を連ね、複数は閉店していても、昭和時代から続いているような残りのお店にはまだ活気を感じる。盛岡と北上の中間地点にあり、駅周辺がベッドタウンになっていることで利用がしやすいのだろうと思った。昨年のビジュアルに使われた旧大森書店は、現在1階がギャラリーになっている。

当日先行初売だったBOOKNERD早坂さんの新刊(後日購入)
dee's magazine BOOKSのZINEとステッカー

当日の出店者は、近年東京を始めとした各都市で開催されるブックマーケットにも参加する著名な小規模出版社が勢ぞろい。翌日の文学フリマを控えていたので散財ははばかられたのだが、Twitter(口が裂けてもXなどとは言ってやらない)のTLで見かけた「HONG KONG JUNKIE 我們眼中的香港」を購入。『週末香港、いいもの探し』の大原久美子さんと、早坂さんの『ぼくにはこれしかなかった。』の編集を担当した小梶嗣さんの合同エッセイ。dee's magazine BOOKSのブースには小梶さんがいらして、ZINEを作っていることを話すと、「もし原稿あったらうちで製本しますよ」と言われた。
これまで自力で作ってきたけど、編集者さんに原稿を観ていただくのもいいかな、なんて思ってしまったりして。

イベントはユニークな経歴を持つ装丁家矢萩多聞さんとあまのさん、島田さんと早坂さんのトークを堪能。本づくりの面白さや読書体験の尊さを改めて確認した。
商店街には若い人が多かった。来場者は隣市の花巻や秋田(!)が多く、東京から追っかけてきた方も。文学フリマと重なってしまったため行けなかったれいんちゃんのイベントも盛り上がったことだろう。
会場には時折、地元商店街店主さんらしきおじさまによる有線アナウンスが響き、来年も開催されることもお知らせしていた。今後このイベントがどう日詰に、そして紫波の未来に関わっていくのだろうか。

文学フリマ岩手9

翌日はいよいよ我が出番。というわけで文学フリマである。

当日の我がブースの様子

これまで友人の同人サークルや台カル研とのダブルネームで参加していたけど、今年は初めて単独の屋号で参加。
当初は新刊を2作予定、1作は印刷所に出してきちんと製本してもらう予定だったのだが、5月の連休明けからの寒暖差に体がついていかずになかなか製作に取り掛かれなかった。よって毎度ながらのコピーで新作ZINEを1冊製作。昨年製作して好評を博した(と勝手に思っている)『このまちで えいがをみること』の続編『このまちで えいがをみること ふたたび』。

昨年は台カル研メンバーとローテーションを組んで店番をしたが、今年は久しぶりに完全ワンオペ。ワンオペだと食事や他のブースを見ることが難しくなるので辛い。当日は同人サークルの相方だった友人Jちゃんが娘さんと共に来場し、店番もしてくれたので、なんとか会場を回ることができた。一昨年関東に拠点を移したカフェバグダッドさんと1年ぶりに再会してお話したり、11年前のモリブロのイベント以来でRe:Sの藤本智士さんにお会いできたりしたけど、何人かの親しい常連さんたちにもお会いできず。すみませぬ。

今年の出店者は最多の145サークル。地元はもちろん、全国の文学フリマ参加者が集結している趣であるが、そんな中面白い出会いがあった。
なんと台湾から出店された方がいるのだ。南投出身のKatyさんである。

Katyさんの作品

今年はノンフィクション・旅行記のカテゴリで出店したが、私を含めた台湾関係ブースが3つ並んだ。そのうちの一人がKatyさんだった。リソグラフで製作したかわいらしいZINEはどれも素敵。実家が茶農家とのことで、上のZINEを3種購入。
彼女とは中国語で話せたのだけど、雲林の珈琲店の笛吹きおじさんが表紙の台カルZINEを見てニコニコして「このおじさん、隣に住んでいた」というようなことを言ってて驚いた。世間は狭い。盛岡には初めて来たとのこと。
吉祥寺や札幌のZINEイベントに出店経験があるようなので、またどこかでお会いできるかな。
そしてすぐお隣は台湾旅行情報誌と写真集を扱う千屋通信所さん。岩手は初めてとのことで、開催中はずっと台湾旅行の情報交換。参加されている東京とは雰囲気が全然違うので面白いとのこと。

売上はいつもながらのまったり状態で、休もうとするとお客さんが来たりと言った具合であったが、今年もまた楽しく参加できたのは嬉しい。
来年はいよいよ10年目の開催。数年前は開催中止が続いたものの、初回からはなんとか参加できているので、来年も楽しみたいし、新刊の構想も今から練っておきたい。
しかし既に出店者数1000店を超え、この冬は有料入場で東京ビッグサイトで開催される文学フリマ東京に出店で参加するかどうかと言えば…今年は無理かな、うん。でもいつかは他の地域の文学フリマに参加したい。

浜藤の酒蔵ブックマーケット2024 Summer

文学フリマの翌週が浜藤の酒蔵ブックマーケット。
2018年にアマチュアも参加できる古本市としてスタートしたが、近年はZINEや読書周りのグッズ販売も可として出店対象を拡大。さらに今年1月にはZINEマーケットも開催。このイベントに合わせて作ったのが『21世紀香港電影新潮流』。

当日の様子

当初は屋外でも開催だったが、天候の関係で全26店(こちらも過去最大)が屋内出店。市内はもちろん、東北の一箱古本市にも出店する秋田や山形からも出店がある。一箱古本市との違いはスペース。長テーブル1卓のスペースが使えるので、持ち込まれる本の量が一箱より多くてもよい。車にコンテナを積んで参加する店主さんもいるけど、車がない私は自分が持ち運べる重さのキャリーで持っていく。
文学フリマに来た人も来場するだろうから、きっとZINEは売れないだろうと思ったし、この春は古めの本をたくさん読んだので、久々に手持ちの古本を見直して揃えたところ、それらがまず売れていった。また、昨年の台湾旅行で弟から預かった台東のアーティストの少数民族モチーフグッズや、台湾旅行の際によく買っていた微熱山丘のケーキについてくるバッグ(縦長サイズなので文庫本からタンブラー、ワインボトル等が入れられる)等の台湾グッズも売れた。
こちらもワンオペだったので見て回る時間と昼食時間を確保するのが大変だった。主催者側では休憩&軽食スペースを毎回用意してもらえるので有難いのだけど、今回はそこに立ち入れず、喫茶出店していた山田湾ベーカリーで買ったパンを、お客さんが来ない間にこっそり食べていた。

店主さんも開始当初からの常連さんからZINEで参加した若手まで様々。知り合いも増えたのでコミュニケーションもまた楽しい。次回は秋開催なので、合わせてささやかな新作ZINEを作りたい。

終わりに、というか蛇足的に「ほん」から「このまち」へ

これまでは今月参加したブックイベントについて書いてきたが、最後に「このまち」つながりで、今月ずっと考えてきた「このまち」に関するトピックについて、長くならないように書きたい。

「盛岡のこれからと 守りたいもの」

BOOKNERDのある紺屋町にかつてあった大きな酒蔵と、立ち飲みができる酒屋が相次いで取り壊され、跡地にはそれぞれマンションと賃貸アパートが建つことになっている。そのマンションの建設をめぐって、こんな事件が起こった。

事件のあらましはここでは重ねて書かないが、酒蔵を所蔵していたのは権利を買い取った地元の遊戯機器(パチンコ)企業。ギャンブルとはいえ地元には貢献している企業だから何らかの形で酒蔵は残してくれるのでは…と甘く考えていたのだが、酒蔵本体を郊外に移転させた後は土地を売り払い、現在のこの状態に至った。マンション建設については日照権や景観の点から問題になっていて、何度か住民説明会も行われていたそうだが、その内容はどうも納得しかねるものだったらしい。それに重ねてのこの事件だから、広告の山の取り違えだけに人々は怒っているわけではない。NYタイムズに昨年「行くべき52カ所」に選ばれた歴史的景観を残した紺屋町を始めとした市内に、次々に都内のディベロッパーが高層マンションを建設していくことが、街を脅かすことがこの事件で明らかになったのだ。

酒蔵の解体に危機を覚えた人々の中に、地元発の福祉実験ユニットにしてスタートアップを手掛ける企業のヘラルボニーがあり、6月1日にこのようなトークイベントが行われた。
私自身もこの街に住んで30年を迎えたが、今まさに転換点を迎えているという危機意識は同様に持っている。このことについてはしばらく考えていくし、何かあったらこのnoteでも書いていく。

ちょうどここしばらくのzineで「このまち」について考えた文章もまとめていたし、まちの未来についてをテーマにした本も少ないわけではない。それらを読んだり文章を書いていくことをしばらく続けていきたいが、それが街の望ましくない開発に追い越されないようになんとかついていきたい。

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