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香港映画は、死なない。

4月に行われた第37回香港電影金像奬の結果を受けて思うことと、かつて香港映画で活躍してきたジャッキー・チェンが言ったように、香港映画はすでに「中国映画」の一部分なのか?否、そうではない。ということについて。

ここしばらくは4月の中旬に開催され、各国の映画賞レースでも一番遅い開催となる香港電影金像奬。今年は4月15日に第37回の授賞式が開催され、アン・ホイ監督の《明月幾時有》が最優秀作品賞を始め、監督賞など5冠に輝きました(アジアンパラダイスより)
作品賞には、昨年の東京中国映画週間で上映されたアンディ・ラウ主演、ハーマン・ヤウ監督の『ショックウェイブ』(8月にシネマート新宿他で公開決定)や、東京フィルメックスで上映されたシルヴィア・チャン監督・主演の『相愛相親』(今年日本公開決定)がノミネートされ、主要賞には、大阪アジアン映画祭で上映された『29歳問題』や『空手道』もノミネートされました。
ここしばらくは昨年の『大樹は風を招く』一昨年の『十年』と、香港の単独資本で作られた実験的な映画が作品賞に選ばれ、特に後者は2014年の雨傘運動を受けての作品であるため、中国大陸のネットメディアには黙殺され、作品賞が報道されなかったこともあります。しかし今年の《明月》は製作に中国大陸の資本が入り、第二次大戦時の日本軍による香港占領を背景とした物語ということもあり(日本からは音楽で久石譲が参加して最優秀音楽賞を受賞、俳優では永瀬正敏と森田涼花が出演)、中国大陸でも報道されたようです。内容が内容なせいか、昨年製作にもかかわらず日本のどこの映画祭でも上映されていないようですが、一般公開でなくてもいつかは映画祭や特集上映等日本語字幕で観られる機会が今後あることを期待します。

さて、その金像奬の約1か月前、中国大陸でジャッキー・チェンがこんな発言をしておりました。

成龍現身兩會講合拍片-只有一種電影叫中國電影(香港01)

これは、現在彼が中国大陸で務めている政商委員の会議で出た発言で、「現在は中国映画だけがあり、香港映画はすでに中国映画である」といったもの。確かにここしばらくの彼は中国大陸寄りの発言をしては香港(時に台湾も)を批判し、それがしばしば炎上しては来たのだけど、これに関しては本当にがっかりさせられること限りなしでした。
どうしたのジャッキー、あなたは香港映画に育てられたんじゃないの?香港が中国に返還されたとはいえ、それでも香港映画は存在するのに、それを否定するの?それはあまりにもひどくない?

という怒りはさておき、ここで金像奬が指す香港映画とはどういうものかを示しておきます。金像奬の公式サイトによると、

1・監督は香港の永久居民の身分証を持っている香港市民
2・製作会社のうち最低1社は香港で合法的に登記している会社
3・製作・脚本・主演男優・主演女優・助演男優・助演女優・撮影・アクション指導・美術・衣装デザイン・編集・劇伴音楽・主題歌・音響効果・視覚効果のうち少なくとも全体のうち6部門で一人以上は香港永久居民の身分証を持っていること

となるようです。
この基準には比較的納得しやすいのではないかと思います。

近年は中国との合作がますます増加し、香港人の監督の新作が、毎年10月に行われる東京中国映画週間に「中国映画」として北京語版で上映される機会も増えました。製作主体が中国大陸だから中国映画、といえばそうなのでしょう。そのような考えに対しては、むやみに否定はしません。
でも、中国大陸のビッグマネーを使っても、香港映画の魂を捨てずに作品にメッセージを込めるクリエイターもいます。ジョニー・トーが初めて中国で作った『ドラッグ・ウォー』やデレク・クォックが『はじまりのはじまり』に続いて再び西遊記に挑戦した『悟空伝』。いずれも金像奬にノミネートされました。
最近では中国も香港も区別がつかないといわれるようにもなりましたが、公開規模がもう少し大きくなり、もう少し広く観られるようになれば、香港映画が決して中国映画と同じではないことを、ファン以外の映画好きの皆さんにも理解してもらえるのではないでしょうか。

以前から「ジャッキー・チェンだけが香港映画じゃない」と言い続けてきましたが、そのジャッキーも今や活動の軸を香港から移してしまいました。
でも彼一人が香港映画を支えてきたわけじゃないのです。そして、カンフーやアクションだけが香港映画じゃないのです。

最近、日本経済新聞にこんな記事が載りました。

香港映画に新たな「定番」?(全文は登録すれば読めます)

『29歳問題』を中心に、昨年日本公開の『十年』やこの夏公開のドキュメンタリー『乱世備忘』など、現在の香港人の心情を語った作品を「新たな定番」として紹介してくれています。
29歳に注目してくれるのは非常に嬉しいし、映画から社会を見るいいチャンスとなります。だけど、これだけが「新たな定番」ではないのです。心の傷や家族の介護をテーマにした『一念無明』(ヘッダ写真参照)、香港人カップルが繰り広げるおかしな恋物語から、この10年の香港人のメンタリティが読み取れる『恋の紫煙』シリーズなど、これまで大阪アジアン映画祭や東京国際映画祭で上映されて話題になった作品も、その「新たな定番」に入る価値はあるのに、一般公開もされていません。このような映画が日本で一般公開され、香港映画ファンだけでなく、もう少し広い幅の映画ファンに観てもらえることを願っているのです。

時代は大きく動き、社会は以前と大きく変化している。香港の返還から20年が過ぎ、中国大陸の影響も大きくなっている。そうであっても、香港で生まれ、香港で映画を撮る人がいる限り、香港映画は死なない。
映画製作者でもない、批評家でも評論家でもないただの映画好きな私ですが、このようなことは大きな声で言います。

だからみんな、旧作もいいけど新作も観よう。
その新作も、大都市だけじゃなく全国津々浦々の劇場で観られるようにしよう。

以上、田舎の香港映画ファンの心の叫びでした>こんな締めですみません。

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