changes

 有機的な思い出はすべて燃やして無機質な新しい街へ。それは湿っていて燻った灰になっただけだった。ターミナル駅の人混みに紛れ込んで新たな顔のよそ者へ。この街の乗客になる、チケットなら持ってる。変わり者になるか、市民権を得るか。滞在するのに大切なことは感覚を共有出来るか否か、景色が粉々に割れるほどの執着心で世界を見ながらガタガタに歪んだ道で目的地に向かう。前の街では、何が狂ってることの恐怖に怯えていたがそれはナンセンス。もはやカオスはすべて崩れて混ざり合ってる。ミキサーにかけたジュースのなかの野菜や果物の栄養素を分析するようなものだ。

 よく見てみるんだ。言ってることが前と全然違うことに気がつくだろ?毎日、鏡を見ても変化に気がつかないようするように、そいつはゆっくりと形を変えていく。社会は冷たい機械ではなく、むさ苦しい生き物。私たちは歯車ではなく細胞だ。君が相対的に見て悪性なら取り除かれるか、薬漬けの治療を受けるか。気をつけたほうがいい、隣のヤツの迷惑にならないように、隣のヤツが迷惑だったとしてもね。

 閉口したまま自分の脳に話しかけてる。その内容は常にお互いの目で監視し合いながら検閲してる。それは自然と危険思想を生まないためのシステムの上で成り立ってる。好き勝手自由に会話を交わしてごらん? 大抵、少しでも線をはみ出せばすぐに排除されるようになってるから、単語単位でね。交通ルールみたいに減点対象のポイントがあるんだ。事故が起こらないようにちゃんと整備されてるんだよ。俺たちはずっと昔から産まれたときから全部、監視するように育ってきたんだよ、だけどそのシステムも壊れて狂って来たんだけどね。

 例えばこんな例え話は、どうかな?

 誰とも分かり合えたことなんかない。会話なんか上手く続いた試しがない。いつもみんな引きつった記号みたいな笑みを口元に浮かべるけど、なにがおかしかったのか、さっぱりわからないんだ。ひとりで自分と話しすぎたせいで僕のアタマの中は気持ち悪いんだ。これはただの事実。あまりに単純で簡単な話さ。通じ合えたことなんかないけとど言葉だけでも合わせるしかないんだ。いつか気が狂ってメッセージを込めて自殺したって、なんでだろう? やっぱりおかしなひとね、で片付けられるんだから。

 テレビには科学者に宇宙服を着せられた猿が映っててさ、目をキョロキョロさせてた。これからなにか異常なことが起こることを感じたんだろう。テレビの向こう側では宇宙に旅行に行きたい人間が吠えてる。彼らには彼のこれからのこれまでの孤独も痛みもわからない。わからなくていいさ。これは旅行なんかじゃない。週末にソファーで昼寝をしながら書くつもりのない自伝を思い描き続けてるんだから。でっぷりと脂肪のついた身体を重力に引かれながら。

 そんなときにあなたの子供らは宇宙に飛び立つための練習
をおもちゃのトランポリンでしてるんだ。夕食の食卓であなたはそんな話を否定して地に引きずり落とすんだ。そんなので地上の生活に適応出来るならあなたの子供は優秀ってことさ、そんな嘘を見分けられるヤツらは宇宙を目指すのさ。地球上では呼吸がとても苦しいから。

 ふいにチャンネルが合ったんだ、派手に光る交通事故みたいにね。火が燃え上がってすぐに爆発したんだ。それまでとても孤独だったけど、もうそんなのはどうでもいいや、随分、ずっとひとりでかなりかなり淋しかったけど、こんな空間があるなら全部いらないや、まだ知らない世界も仲間もたくさんいるしね。たぶんこれはロックンロールミュージックって呼ぶものなのかしら? 魔法にかかったみたいな気分なんだ、ずっとひとりでいても不思議な気持ちのまま、飽きることがないだろう。いつか飽きちゃった日には積み上げたものがガラクタに見えんだろう、そのときには絶望の果ての果ての絶望の向こう側のどうしようもない崖の辿り着くんだろうね。僕は飛び降りるのか、引き返すのか、わからないよ。想像もつかないよ、いつかそんなときが来るまで。

 ガリガリに絶望で痩せた身体で彼はキラキラしたラメの化粧をして歌ってる、首を絞められたみたいな呼吸もしにくいような声でね。それも不安定な雲の上であぐらをかいてギターを弾いてね。新しい説法みたいだった。『ほっといとくれよ?俺は行き先が決まってるんだ』と言ってるみたいな、ついでに『ヤツらには見えないんだけどね、いくら説明したってわからないところへ』言葉にして伝えようとするのが無駄さ、僕らは感覚でしか、その場所がわかりっこないんだから。

 煙草は地に足をつけるために、もしくは空を泳ぐために。どちらにしても時間に火をつけて吸い込むのさ。そこには過去も未来もここも混じり合う。時間なんてものは最初から無いのさ。変化もするし形を変える。流動的でナンセンスなんだ、進化も成長もナンセンスなように捕まえることも追いかけることも出来ないんだ。ただ振り返ったときにそこにある額に入った静止画でしかない。

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