見出し画像

ライティングについてのショートエッセイ +作品の一例をちょっとだけご紹介させていただきます。

広告媒体を中心としたライティングの仕事を長年していると、クライアントによって様々な依頼や進行の仕方を経験する。そんな中で特にこの仕事ならではのスリルと醍醐味を感じる瞬間がある。それは、伝えるべきコアな内容と大まかな方向性は定まっていつつ、「とりあえず自由に書いてみてください」と仕事をつながれた時だ。

大抵は打ち合わせでなるべく細かく意思をすり合わせて、事前に構成・骨子を確認して...と、お互いがゴールが見えた上で、クライアントの意向を形にするように書きすすめるので、調べものもある程度の範囲に限られるし、文章も詰将棋のように上がりに向かって「あそび」なしで書き進める。

それが通常運転なので、たまに「とりあえず自由に書いてみてください」と依頼されると、いわゆる作家ではなくあくまでもライターである私は、「えぇ…!?」とおののく。

忠誠心の高い「犬」としてやってきたのに、突然「猫として生きよ」とでも言われたかのような戸惑い。

しかし実際に仕事を始めると、枠や制限を気にせず筆を進めるという、通常運転とはまた違うライティングの醍醐味を感じる。何せ「自由に」なので考える範囲が無尽に広がり、深い海に潜水していくような、広い空に飛び立つような開放感がある。それとともに心もとない気分にもなるが、なーに、この孤独感も書くという仕事においては力になるのである。

何を肝にするかということや全体の構成を決めたら、あとは実際に書きながら言葉が立ち上げる世界を感じつつ、1つ1つの言い回しを見直し調整していく作業。「飛び出す絵本」をつくっているような感覚で、立体的な人物や風景を創造するつもりで文章を書いている。そして心眼に映るその立体的な世界を傍から見るというよりは、自分もそこに没入してしまうのだ。没入と言うと客観性を失っているようで聞こえが悪いが、客観・公平・中立のニュース原稿とは違い、案外コピーライティングでは主観を深く掘り下げる必要があると思う。もちろん主観といっても日記やオピニオン記事とは異なるが。

さて。少し前にも、あまり細かい指定がなく、割と自由な条件下で、どっぷり言葉の織り成す世界に浸って制作した仕事があったのでちょっとだけご紹介したい。

とある幼稚園の入園案内のための冊子だった。園の幼児に対する向き合い方や保育の方針が魅力的で、ぜひお役に立てればと思った。
テレビやネットを見ていると、「海外で実績のある〇〇教育法を採用」「早期から〇〇の技能を子どもたちに」「有名デザイナーがデザインした園舎」…などの華やかな文言を見聞きするが、この幼稚園は……おっと、ここから先を制作に携わった人間が具体的に語ると身内贔屓にしかならないおそれがあるため、ここでは控えておこう。

また、この案件に限らないが、広告に携わるライターが、ある商品やサービスがイイ、ダメと仕事上の立場で言うことは難しく、そういった個人的レビューはライターとしてではなく、文字通り仕事を外れた場で言うようにしている。

ということで、その幼稚園がどう素晴らしいか具体的なことはさておき、先方からいただいた要望だけは書いておくと、「子どもが主役となりのびのびと過ごせる園の様子を伝えながら、絵本のような仕上がりにしたい」ということだった。

親御さんが読むものなので、決して本当の絵本ではないが、それこそお子さんにも読んであげたくなるような、やわらかい語りを目指した。又、なるべく説明は控えつつも、園での子どもたちの様子がイキイキと描かれるように、という意識で書き上げた。

子どもの頃のみならず今も絵本は好きで時々読むが、人の心を掴むオノマトペや繰り返し表現、リズム、話の展開の仕方など、ライターとして学ぶことがある。今回の幼稚園の仕事ではその学びがダイレクトに活きたと思う。

画像1


上記の冊子を作っていて、私はだんだんこの園になら自分の子どもを預けてもいいという気になっていった。子どももいないのに…。いやそれどころか、自分がもう一度子どもとなってこの園に通いたいという気にさえなった!(どんな願望やねん)

これまでも広告文を書いているうちにその商品が欲しくなり実際に購入した経験が何度かあるくらいなので、自己暗示にかかりやすい、言葉に感化されやすいのかもしれないが(笑)、そこまで(実際の購入まで)はいかなくとも、文章が仕上がった時に「この商品いいじゃん」と商品やサービスに対して自然に好感を持てるかどうかは、ライティングの出来・不出来の自己基準のひとつだ。まずは自分の文章で自分を説得できないと、他人も説得できないだろう。

もちろん最終的には、商品が売れたかどうか、集客に貢献できたかどうかという観点からそのツール・コンテンツ制作の成果が測られるわけだが、大前提としてそこに掲載されている文章は、商品そのものと同様、人間的で魅力的である必要がある。(余談になるが、果たしてAIコピーライターがその部分で人間に追いつくだろうか?はなはだ疑問である。)

100%仕上がりに納得できた仕事など、これまでの15年以上やってきて一度もないが、それはそもそも、言葉というものが完成という性質を持たない存在であるからかもしれず、だからこそ私は飽きることなく書き続けてこられたという気がしている。

画像2


お仕事(YAMADAYA)のホームページはこちら▼

https://shan-tian-wu-yamadaya.jimdosite.com/

各種販促ツールの制作でコピーが必要な際はお気軽にご相談くださいませ!