「ドーナツを届けるだけのはずだった」-沼の話
【一人目】
Eさん(26歳)
沼との出会い:地元の幼なじみ 沼期間:2年
「よかったらドーナツいる?」
沼っていたのは、大学四年生の終わり頃から社会人2年目の冬まで、約2年間です。
沼は地元の幼馴染でした。小中一緒で、仲の良い友達グループのひとり。お互い地元から大学に通っていたので、たまに電車で見かけたり、成人式で再会したりして、あの子も地元いるんだー、くらい。そもそも私には大学一年から続いていた彼氏がいたし、沼にも彼女がいることは聞いていて、特別意識したことはなかったです。
当時私はドーナツ屋さんでバイトしていて、その日はドーナツが余ったんです。たまたまLINEしていた流れで「よかったらドーナツいる?」って届けたのがはじまりでした。
バイト終わりの11時すぎ、コンビニの駐車場に車を停めて、夜中までおしゃべりしました。それまでは、友達グループで集まることが多かったので、二人でちゃんと喋ったことはなかったんです。はじめてちゃんとお互いの恋人の話や、深い話をしました。
はじめはただの好奇心だった
どちらからともなく「自分の恋人以外とするのってどうなんだろうね」って話になったんです。
私の彼氏はとにかくリードしたい!タイプの、いわゆる「攻め」が好きな人で、私からは何もさせてくれませんでした。「してあげたい」って気持ちが私の中でずっと眠っていたんだと思います。一方で沼は彼女相手に、彼氏だからしっかりしなきゃって、リードしなきゃ、って頑張っていたみたいです。
はじめはただの性的な好奇心でした。お互い、してみたいこととされてみたいことが一致していたので、してみよっかって。そこから何回かセックスしたけど、はじめのうちはいろいろ新しいことが試せて楽しくて、スポーツみたいでした。割り切ってうまくやっていけるはずでした。
彼女の名前で呼ばれて
なんとなく、キスはしないようにしていました。情が移るなぁと思って。でもある日なんとなく「してみる?」って流れでキスしてしまって。その時は、帰りの電車の時間を気にしていたのもあって、「彼氏以外の人とするキスってこんな感じかぁ」くらいだったんですけど、キスするようになってから、だんだん情緒が芽生えてきてしまいました。
決定打になったのは、している最中に彼女の名前で呼ばれたことです。ちょっとしたS心で「誰と間違えてるのかな?」って煽りつつ、どこかモヤモヤしている自分がいたんです。沼が、「間違えちゃった!」って笑って流してくれれば「こらー」って怒って終われたのに、「ほんとにごめん」って必死に謝られてなぜか逆に傷つきました。
彼女のSNSを見てしまう
彼女のツイッターを見つけたのもおかしくなったきっかけの一つです。沼はもともと友達だったのでフォローしていて。ツイッター、アップデートされてからフォロワーがいいねしたツイートもタイムラインに流れてくるようになったじゃないですか。それで、彼女の「〇〇日記念日♡」ってツイートに彼がいいねしているのを見つけてしまったんです。私と沼が一緒に選んだプレゼントの写真を嬉しそうにあげてるのも見ました。
質問箱って流行ってましたよね。彼女が、「彼氏が浮気してたらどう思いますか?」って質問されてて、それも怖いもの見たさで見ました。「私の迷惑のかからないところで勝手にやっててほしい」って答えてたんですよね。「迷惑かけてないよね?浮気していいって!彼女のお墨付きだよ〜」って沼に見せてあげました。すごい渋い顔してましたね、沼。
就職して遠距離になっても関係は続いた
私は地元で就職して、沼は関東に行ったので遠距離になりました。沼はしょっちゅう帰省してきたので、月一くらいで会っていましたね。LINEは毎日していました。沼は彼女とも遠距離になったのに、彼女に会わずに帰省してきて私と会う、みたいなことも結構ありました。
私は彼氏と別れました。でもそれは沼とは関係ないです。彼氏はモラハラだったし、誕生日も祝ってくれない、成人式では予想通り浮気してたし、いろいろ終わってた。ギリギリ耐えていたところで、就職して半年足らずで彼が仕事を辞めて無職になったので、あ、もう無理って限界がきて別れました。彼の誕生日が9月1日で、無職になったのも9月1日。最後に会いに行って、「別れましょう」と伝えて、ご飯を奢ってあげて帰りました。
なんで私じゃいけないんだろう
本心では、沼と付き合えないのはずっとわかっていました。
沼は、私と会ってる時は、彼女のことを悪くいうんです。なのに絶対に別れない。何で私じゃいけないんだろう、どこを直したら付き合ってくれるんだろう、何をどう努力したらいいんだろうって考え始めたらキリがなくて。教えてもくれない。それで、おかしくなりました。
ダメなところなんてね、なかったのにね。たぶん向こうは理由なんてなかった。「付き合いたい」と言ったこともあります。「俺も付き合いたいとは思ってるけど、両方同時は無理だし……」って。彼女と付き合い続けたい、というよりは、「別れられない」と言っていましたね。
口では「彼女よりも好きだよ」って言ってくるし、彼女に会わずに遠くから私に毎月会いにきてくれる。でも、一向に彼女と別れる気がないしツイッターをひらけば彼女の「◯ヶ月記念日♡」ってツイートが流れてくる。何を信じたらいいんだろうってぐるぐる。
名前のある関係性が欲しくなった
まだメンタルが元気だった頃は、名前がない関係性だけど、こうやって仲良くやってるし、名前なんてなくていいんじゃないかなって思っていました。でもやっぱり関係性の名前って大事ですよ。
彼は私のことを「セフレ」とは言わなかったんです。「俺たちセフレだよ」って開き直ってくれたら割り切ったままでいられたかもしれません。でも沼は、そんなんじゃない、って。でもじゃあ私って誰なの?誰にも紹介されない、彼女にもなれない、セフレでもない、もう前みたいな友だちじゃない。
毎日LINEして、定期的に会ってセックスして、「好きだ」と言われるのに、沼のことは誰にも話せない。周りの友達から「はやく彼氏作りなよ」とか「いい人いないの?」と言われるうちに、「ひなたを歩きたいな」と思い始めました。誰かに話せる人がいいな、と思ったんです。
沼のことは、当時誰にも話せませんでした。話せる相手がいれば、自分を客観視できて、沼にハマるのも片足で終わっていたかもしれないですね。誰にも話せなくて、一人で抱えて沈んでいく一方でした。
執着が諦めに変わる
「彼女と別れる」って言ってもやっぱり口だけ。どうせ別れないんだろうなっていうのが分かってきて。いつまでもこれでいけるはずがないし、どうせ終わるなら早めに終わらせなきゃって、執着が諦めに変わっていきました。それが社会人2年目の冬です。沼と会うようになってからも2年が経っていました。
ちょうどその頃、地元の同級生とたまたま再会して話すようになって、そこから月1でデートするようになったんです。年末に沼と会って、また一月末に会おうね、と約束していたら、会う予定の3日前に同級生の彼から「付き合おう」って言われて、「はい」と返事をしました。
これはもう沼を終わらせないとだめだ、と思って。最後に会って、「もうやめる」と伝えたら、沼はすごく泣きました。抱きしめてきたり、キスしてこようとしたけど、「もう無理です」とだけ伝えてきっぱり終わりにしました。
「お前と付き合っておけばよかったな」
地元が一緒だから、私の新しい彼氏のことも沼は知っていたんです。彼氏は私が初めての彼女だったし童貞だったから、「取られた」とは思っていなかったんだと思います。「へー、あいつと付き合うんだ、いいじゃん」くらい。余裕があったというか、上から目線でした。どうせお前は俺のこと好きだろ感がずっとありましたね。
でも、一度関係を切ったら、私の沼への気持ちはだんだん薄れていきました。私に彼氏ができてからも、「彼女に潮吹かせられた」とか「やっぱりお前と付き合っとけばよかったな」とかよくわからない連絡が頻繁に来たんですよ。私が彼氏とうまくいっていることに嫉妬してきたり。でもわたしはとっくに彼氏の方が大事になっていたから、沼から連絡がきてもなんとも思わなくて。今更になってグズグズしはじめたんだ、ざまぁみろ、これがお前が選ばなかった幸せだぞって。
選ばなかったのは私
関係が終わってから、沼の彼女を初めて生で見ました。地元のお祭りに運営側で参加していたら、沼が彼女を連れてきたんです。実際見るとくるものがありました。なんというか……地雷系の子だったんです。フリルとリボンがついたブラウスに黒のミニスカート。病みメイクの女の子で。すっごくかわいいとか、いい子そうだったら違うダメージを受け方をしたかもしれないですけど。もともと愚痴ばかりツイートしていた子だったし、なんでこんな女にひっかかってるんだろうこの人、私はこれに負けてたんか!!ってショックでした。
地元が同じなので、どうしても関係を切った後も顔を見る機会はあるんですよね。切ってからちょうど一年後、沼も含めて地元の友だちで集まる機会があって。私の家で飲んだんですけど、沼がこたつの中で足を絡めて来ようとしてきて。未だにそんなことするくらいなら私と付き合えばよかったのに、もう遅いけど。ってさらに冷めました。
沼っていた当時は、抜けられると思っていませんでした。本当に終わりが見えなくて、一生沼っていくのかな、って思ってた。抜け出したら大した沼じゃなかったような気がします。でも、2年か。長かったですね。
地元の友人の結婚式に元沼も行くと聞いて、強い気持ちで今の彼氏との婚約指輪をつけていきました。見せつけたいわけじゃなくて、晴れの場で沼の顔を見たら「私は選んでもらえない」って悩んでいた頃の自分に引き戻されるんじゃないかって心が負けそうだったから。でも、もう大丈夫だった。選ばれなかったんじゃなくて、私が選ばなかった。今はそう思えるようになりました。
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