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「僕たち絶対相性いいよね?」(中編)ー沼の話

【3人目】

Hさん(26)
沼との出会い:マッチングアプリ 沼期間:8ヶ月

前編はこちら

「しばらく会えない」

はやく沼に会いたくて、今度いつ会おうかって話をしてたら「ちょっと待ってね」って返事が来て以降急にLINEが返ってこなくなった。

アプリをチェックしてもログインしてないみたいだし、だんだん心配になってきた。ああいう性格だから、携帯無くしちゃったのかな?とか考えちゃってさ。

数日待ってたら、「お父さんが危篤だ」って急に連絡がきたんだよ。会った時あれだけ深い話をしたし、さすがに嘘ではないだろうと思った。沼のお父さんは事業をやってる人で、もしかしたら沼が継ぐことになるかもしれないからバタバタしてる、しばらく会えないから落ち着いたタイミングでまた連絡させてほしいって言われた。

もちろんまたすぐ会いたかったけど、もう沼のことが好きになってたから「そういう時は家族との時間を大事にしてほしい。自分を追い込みすぎないでね、きつい時はいつでも話聞くから」って送った。「一回しか会ってないのにそんなこと言ってくれてありがとう」って言われて、そこからまた連絡は途絶えた。

ベストな自分で会いたくて

数週間くらい待ったかな、急に「元気?だいぶ落ち着いたからまた飲もうよ」ってLINEがきた。すぐに会う予定が決まった。俺は沼と付き合いたいわけじゃなかったけど、ちゃんと好意が生まれてたから、ベストな自分で会いたかった。急いで美容院を予約したし、会う前はエステも行ったよ。

ちょうどコロナがまた流行りだしてた頃だったから、俺料理するからうち来なよって誘った。半休とって、午後からずっと料理の仕込みして、沼を迎えに駅まで行ったんだ。沼は、初めて会った時はメガネしてたんだけどその日はコンタクトしてて、ファッションも前と雰囲気が違って素敵だった。

前回会った時は小柄に見えたんだけど、久しぶりに会ったら前より大きく見えた。心理学的にさ、尊敬している相手は大きく見えるんだよね。自分の中で気持ちの変化が生まれてるんだなって噛み締めながら、一緒に家に向かった。

特製の手料理で宅飲み

「どんな料理作るかわかんなかったから、魚にも肉にも合うシャンパンもってきた」ってお土産に伊勢丹で買ったシャンパンをくれた。それから高級キットカット。沼は甘いもの苦手だったんだけど、Hくん甘いの好きでしょ?って。そんないろいろ考えてお土産選んでくれたんだ!ってうれしかったよ。 

料理はね、レンコンの肉みそ和え、しゃけの竜田揚げといぶりがっこのタルタルソース、ピーマンのおひたし、きのこの炊き込みご飯を作った。少食だって聞いてたから、全部量は少なめにした。沼はすごく感動してくれたよ。

普段お米は食べないって言ってたから、沼には米は出さなかったんだけど、きのこが大好きだったらしくて。俺が炊き込みご飯食べてるの見たら欲しがってきたからちょっと食べさせてあげた。

シャンパンあけて、またプロジェクターで映画観た。なんの映画みたかは覚えてないなぁ。シャンパンのあとは相変わらずハイボール。お互い仕事が楽しい時期で、仕事の話とか最近の近況とかで盛り上がって楽しく話した。

「Hくんは僕なんかよりいい人がいるよ」

終電の時間になって、俺は泊まってってほしいと思っちゃってたから「ベッドの上で映画観ようよ」って誘った。そしたら沼が「違うことはじめちゃうじゃん」って。「いやなの?」って聞いたら沼が黙り込んだ。それから、「Hくんは僕なんかよりいい人がいるよ」って言い出した。

俺はそんな先のこと考えてなかったから、えっどういう意味?って聞いて。「このまま進んでもいっても、僕は恋愛うまく行かないし、Hくんに申し訳ない」って。そこから、自分は恋愛不適合者で、恋愛に対してすごい自分勝手になってしまう、相手の予定も尊重できなくなっちゃう、って話してくれて。

俺と旅行行こうよって話とかもしてたんだけど、恋愛ってなっただけでそれが億劫になっちゃうって。Hくんは僕のこと好いてくれてるし、いい人だなって想うからこそ迷惑をかけたくないって言うんだ。俺は、二人で一緒にどうにかしていけないのかなって思ったんだけど。

「やっぱり僕たち相性良さそうだよね」

ベッドに並んで座って話してたんだけど、沼の身体的には全く拒否をしてこなかった。くっついて座っててさ。でもそんなこと言われたら、もう俺からキスできなかった。くっついた腕越しに沼の体温だけ感じて、どうしたらいいんだろうって。

そしたら急に沼がキスしてきた。それで、またあのセリフを言ったんだよ。「やっぱり僕たち相性良さそうだよね?」って。あんな話してからキスしてくるなんで、もうどうしたらいいかわからなくて、自分が抑えられなくなって「ずるいよ」って言っちゃった。そしたら沼が軽々しく「やっちゃう?」って言ってきて。「でもやるんだったらシャワー浴びさせてね」って。

もしかしたらこれが最後になるかも

唐突にことが運びすぎてもう俺はなにがなんだか。でもまぁ俺も人間だから、そのままキスしたよ。すごい鮮明に覚えてる。相手の口からお酒の味がしてさ、あー、すごい飲んでたもんな、普段だったらお酒の味って嫌なはずなのになんでこんなに心地いいんだろう、好きだからかな、なんて思った。

そのまま沼の服を脱がせようとしたら、唐突に沼が「気持ち悪くなっちゃった、ごめんちょっともう今日は帰る」って言い出して。それで本当に帰った。

「また会お?」って言われたけど、もしかしたら本当にこれが最後になるかもしれないと思って、最後にキスだけしよって言ったら今回はいいよって言われたからキスした。着替えてる時もキスして、短い廊下なのにまたキスして、ドアを開ける前にまた会おうねってキス。それが沼に会った最後。

「ここで帰るか……!」って思ったけど、好きだったから平気な顔して送り出して、沼の体温が残ったベットでひとりで寝た。

(後編に続く)


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