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生物的に強くなりたいアラサー女がボクシングを習いに行く【完】

↑の続き。

コーチのサービス精神が裏目に出て、
意気消沈ぎみでミット打ちが終わる。
 
次は大きな鏡の前へ案内された。
どうやら今いる会員さんがいろいろメニューをこなせるように、
各練習スペースを時間で区切ってローテーションで回しているようだった。

私が少し前まで使っていたサンドバッグは、
今は目つきの鋭い男性が黙々と叩いている。


コーチ「次はシャドーです。
鏡でフォームを確認しながら、はいワンツー」

私「シュッシュ!」


コーチ「ストレート、からのワンツー、
たまにアッパー入れても良いですよ。
あ、いいですね。」


鏡に向かってシャドー、言わば素振り。


う〜〜ん、これはまぁ、なんだ。
率直につまらん。
(ボクシングガチ勢の人すみません)


サンドバッグやミット打ちなら、当たった時の音とかで
「今のは良かった」「上手くなってきた」がわかりやすかったが

フォームとかよくわからんし
え〜…シャドーってこれ、どうなったらオッケーなやつなん?


ここへきて急に目標を見失ってしまった。
そしてさらに追い打ちをかける出来事が。


「よし、じゃああと5分ほどシャドーしててください」

そう言い残し、いきなりコーチがいなくなった。


えっ?!
ちょっ、えっ、
いなくならないで!

ここにいて!
そばでワンツーとか言っといて…!


5分アドリブはきつすぎる…よォ……


願い虚しく、自分の「シュッシュ」だけが寂しく響く。


シュッシュ


シュッシュ


シュッシュ、ぅんシュ、


シュ………



シャドー、恥っず〜〜〜〜〜////////////


シャドーって、あれでしょ?
範馬刃牙が100キロのイマジナリーカマキリ召喚してたやつでしょ?

イマジナリーな敵を想定して、「こう来たらこうよけて、こう」的なやつなんでしょ?


こんなガチ勢が通うようなジムの片隅で
猫パンチの私は一体、誰と闘えばいいん?
誰をイマジナリーすればいいん?
シュッシュ言いながら????

ともかく恥っずい!


2分ともたず、腕が止まった。


恥ずかしすぎたのか
実はそれからしばらくの記憶が
あまり、ない。


気づけば私は着替えを畳み
「帰ります」と言っていた。

コーチ、びっくりしてた。


コーチ「え、これからやっと汗が吹き出してくる頃ですけど…」

ダイエット目的と思われている私。
足はパンパンで疲労感いっぱいだが
まだ大汗はかいていなかった。

私「いやっ……大丈夫です。帰ります。」

 
言えやしない。
「本当は物理的に強くなるために来たけど、
シャドーが恥ずかしくて出来ないから帰るッッッ!」なんて…


コーチにお礼を言い、出口へ向かう途中
最初に使った縄跳びが棚に置かれているのが目に入る。

『ほう…ボクサー跳び。
ロープ無しなら家でもできるな、毎日やろう』
とかなってた自分、マジ、バカ!!!!!




 
3月の夜。
自転車に乗ると一瞬で体が冷えた。


コンビニに寄る。

ふと、雑誌コーナーに目をやると
「なりたい自分になる」みたいなことが書かれた表紙の上で
冨永愛が不敵に笑っている。


「私はなれなかったよ、スーパーモデル…」


心の中でそう呟いて、大人しく自宅に帰った。
 
 
ー完ー

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