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懲役ダイアリー 2017年2月4日土曜日 『三食、トイレ、トラブル付き』

「誰だよ!俺のロッカーにマーガリン置いたやつ!!!」

始業前、ロッカーで着替えていたらロッカールームに大きな声が轟いた。約55人くらいの受刑者をかき分けながら担当のオヤジが声のした方向の受刑者の元に走る。様子を見ていると、大きな声を上げたのは・・・



初日に私に声をかけてくれ、仲良くなったタカだった。



タカはまだ21歳の若者で、万引きをして捕まりこの刑務所にやってきた。背も小さく童顔でメガネをかけた優しそうな若者だ。



「お前がここに持ってきたんじゃないのか?」


オヤジがタカに問いかける。



「俺じゃないです。ここにあったんです。誰かがきっと置いたんです。」



マーガリンなどの食事の際に支給されるものは、食事の時間に全て食べ終わらなければならず、その時間を過ぎ部屋にテイクアウトすると違反(物品不正所持)となり調査、懲罰の対象となる。

着替えを終え、工場へ出役。朝礼でオヤジがこう言い放った。



「誰だか知らないが、この中に物品不正所持で、上げようと(調査に)しているやつがいるな。目的はなんだ?○○(タカ)が座り作業から立ち作業になったのがうらやましいのか?調査になっていなくなって、代わりに自分が立ち作業になれるとでも思ったのか。卑怯な手使ってのし上がろうとしてそれでいいのかっ?」


一瞬、昔の自分がフラッシュバックした。



私は逮捕前、卑怯な手でお金を掴もうとした。人様に迷惑をかけ自分本位で物事を考えて他人のことなどどうでもいいと思っていた。オヤジのこの言葉を聞いて、二度と卑怯な手でのし上がることはしないと誓った。


にしても・・・オヤジ。怖い。完全にブチギレていた。


座り作業はB食、立ち作業はA食でご飯の量、パンの大きさが全く違う。出来るだけたくさん食べたい受刑者や、4類5類といったお菓子を買えない受刑者はA食を食べている受刑者、お菓子が買える2類、3類の受刑者を羨む。そういう人がトラブルを引き起こす。

結局犯人は見つからなかったが、誰が犯人かはなんとなく察しはついていた。



刑務所は三食、トイレがついていて快適?ではないが・・・トラブルももれなく付いてくる。一番いらないものを大サービスで受け取れる。


トラブルは日常茶飯事。ちょっとしたことで受刑者は怒る。


「昨日さ、勝手にテーブル使ってたよね?なんの許可もなしにさ、あれ、マナー違反なんだよね。他にテーブルに座っている人の許可をとってから使わないと、他の人にも変な目で見られるんだよね。気をつけてくれない?」

ちょっと何言ってるかわからない・・・。

ユニット内にある多目的ホールには、テーブルと椅子が並んでいて、そこで食事をしたり、余暇時間に他の受刑者と交談をするのだが、テーブルはだいたいどのグループがここを使うみたいなものが暗黙の了解で分けられていて、そのテーブルを仕切ってる卓長みたいなものがいることがある。

これは勝手に受刑者が決めたルールで刑務所のオフィシャルではない。

どこに誰が座ろうが自由のはずなのに、こういう変なルールを作るからトラブルが起こりやすくなる。



「満期上等だよ!コラ!俺はバツ(懲罰)なんて怖くねぇんだよ!」

またまたどこからともなく・・・罵声が聞こえる。



平気で仲間に嘘を言い裏切る奴もいる、



怒り、やるせなさ、悲しみ、憐れみ、様々な感情が交錯し心が折れそうになる。


でも・・・


一つ一つの積み重ねが大切。心が折れて感情任せの自暴自棄になったら今までやってきたことが全て無駄になる


自分を律して、流されず自分の正しいと思うことをやっていくしかない。それから、受刑者同士のトラブルにならないように、なるべく人とは関わらない。これが刑務所で過ごす最強の処世術のように感じた。




ここで刑務所川柳



「もみあげを 伸ばすとすぐに 怒られる」



「写真見る 子供の成長 早すぎる」



「靴洗い 髪も洗って 懲罰に」



「裏切られ 怒りこみ上げ 愛想尽く」





もうトラブルはごめんだが・・・またかよ・・・。



住めば都ではない、住んだら地獄だ。




全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。



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