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066 星くずの香り

秋が進むとともに空はぐんぐん澄んでゆきます。
「天高し」や「爽やか」といった言葉がぴったりな日々。
空気がさっぱりと涼しくて、肌も汗ばむことなく心地よい秋は、五感が研ぎすまされるような気がします。

そろそろアロマオイルを買わなくちゃ、と思ってお店に行きました。
お目当てのブレンドオイルを手にレジへ向かおうとしたら、はっと呼び止められたような気がして振り向きました。どこからか、なつかしい香りがしました。

香りのする方を見ると、金木犀のアロマオイルが置いてありました。
金木犀。

秋になると出会える素敵な花です。

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金木犀は、沈丁花・くちなしとともに「三大香木」と言われる香りが特徴的な植物です。
そのためか、花言葉も香りにまつわるものが多いようです。
例えば「謙虚」。香りは強いけれど、見た目が控えめなのでつけられた花言葉です。
また「初恋」。いつまでも記憶に残る、という意味で香りと記憶を連想させてつけられたそうです。


香りが印象的な金木犀ですが、見た目も大変かわいらしい花です。
オレンジ色のちいさな花が密集していて、風が吹けばはらはらと舞います。
それは夜に見ると星くずのようで、強い香りとともに幻想的な景色を広げています。

古代中国の伝説では、このようなお話があります。
月の女神である嫦娥は、月宮殿の窓辺で下界を見ていました。月の名所と言われる杭州のあたりで西湖が(月あかりで)金色になった水面がさざ波を立てているのを見ました。それがとても美しかったので、嫦娥は喜んで舞い、花ざかりだった桂花の幹を叩いて拍子をとりました。すると、桂花から花や実が金の雫のように落ち、これを地上の人にも分けようと地上に落としました。

このお話を読むと、金木犀が夜に似合う理由がわかる気がします。
透明感のある夜空に広がる月と花。美しさをおすそ分けする嫦娥のやさしさ。
金木犀を好きにならずにはいられないお話です。


文学というと、金子みすゞさんの詩にも「もくせい」という金木犀をうたった詩があります。こちらに掲載ができないので、ぜひ検索して読んでみてください。

庭を良い香りで満たすもくせい。そこに仲間入りしようかどうか迷う風の詩です。
その風がきっと素敵な香りをほかの場所にも運んでくれることでしょう。

香りと風。
どちらも目に見えないものですが、見えなくてもたしかに存在するものたちの大切さを感じます。とても短い詩なのですが、つい微笑んでしまうような愛おしい言葉たちです。

金木犀。
香りの花。星のような花。
月を見上げたとき、もう月でも金木犀が咲いているのかな。
香りを感じたとき、風が金木犀と出会ったのかな。
そんな風に想像すると、秋がうんと楽しくなる気がします。

今年も金木犀と出会えるのが楽しみです。
金木犀のアロマオイルは購入せずに、足どり軽く澄んだ空気の中に帰っていきました。


今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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おまけ

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