マガジンのカバー画像

ふむもくエッセイ

109
ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
運営しているクリエイター

#文章

099 生まれたての一年を歩く

気持ちの問題なのかもしれないけれど、一月一日はやはり特別な気がします。 朝、目が覚めたときに「あ、新しい」と感じます。 見えるのは、いつもと同じ天井、窓、デスクの上の本、本、本。 どれひとつとして前の日と変わらないはずなのに、やっぱり思ってしまいます。 「あ、新しい」 何年か前から、私は新年最初の日の朝、家族に挨拶をする前に散歩をするようになりました。 単純に早く起きすぎてしまうということもありますが、この生まれたての年に自分をなじませたい気持ちも強いようです。 お化粧

022 花畑の思い出*ふむもくエッセイ*

古い椅子を見ていると、すこしかなしくなります。 なぜだろう、と考えてみました。 考えてもわからなかったので、次の日も考えました。 それでもわからなかったので、考えるのをやめてしまいました。 -------------------- 実家の近くには、小さな花畑があります。 広さは、うまく言えませんが(なぜなら入ったことはありません)、庭にしてはずいぶん広く、花畑にしては小さいくらいで、形は長方形。周囲はぐるりと背の低い格子状の柵が巡らせてあり、簡単な扉が付いています。扉は鍵

015 「星降る夜」がくれたもの*ふむもくエッセイ*

けっこう前の話です。 -------------------- 風があまりない夜に、川沿いを歩きながらなんとなく歩いていると、小さな星がたくさん見えてきて、自分のこころにそっくりだと気がつきました。地味で、ありふれていて、意味がなくて、ただぽつんと存在している。 こんな風に落ち込むのは良くないことです。仕事をしていれば失敗はつきものだし、人と話せば余計なことを言ってしまうし、あわてると大切なこともすこんと忘れてしまうものです。暮らしていればこういうことは不可避で、信号の

009 手紙のあたたかさ*ふむもくエッセイ*

私の家の洋服をしまっているところに、ひっそりと箱を置いています。 箱は二つあって、ひとつはワイングラスが入っていた薄黄色の箱、もうひとつは何が入っていたのかわからないのですが、昔母にもらったダークグリーンの箱。 この箱の中には、ひみつの宝物を入れているのです。 これまでもらった手紙たち。友人や先生からの大切な言葉たちです。 私がよく開けるのは、薄黄色の箱の方です。 薄黄色の箱は、大学のころから現在までにもらった手紙が入っています。 例えばこんな手紙。 高校生のころ特に仲