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ふむもくエッセイ

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ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
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2020年5月の記事一覧

120 ブルーベリー・ボーイ

今年の五月はいつも以上にやさしい気がします。気のせいかしら。 日差しはやわらかくたっぷりと降り注ぎ、それでいて暑すぎないさわやかな気候です。 七分袖がちょうどいい気温。なんだか足どりも軽くなります。 小鳥たちも同じ気持ちなのか、この初夏はよくベランダに遊びにきてくれます。 姿はめったに見られないのですが、歌声で来訪を知らせてくれます。 ちゅんちゅんとかわいらしい声は窓を開けていなくても聞こえます。 その声を聞いていると、私もなんだかご機嫌。楽しい気持ちになります。 ---

119 足おとに耳をすまして

どこかほかの記事でも書きましたが、私が暮らしている家はとても古いマンションです。 レンガっぽい赤茶色の古いマンション。6階に住んでいます。 インターホンが故障しているので、家に訪れる方は、たいていドアノッカーで来訪を知らせます。 とは言え、実は今の季節に限って、ドアノッカーを使わなくても私には来訪者がわかっているのです。 ふふふ。これは、私のちょっとした秘密です。 誰かが来たとわかりながら、いざドアノッカーの音がしたら、はじめて来訪に気づいたかのように玄関へ出るのです。

118 水を見たくなるとき

「ときどき、水を見たくなります。川の水。川は大きくても小さくてもかまいません。」 そう私が言うと、K先生は静かに頷きながらこう言いました。 「わかる、わかるよ。僕の場合は海だけれど、水を見たくなる気持ちはわかる」 よく晴れた仕事終わりの夕方。去っていく太陽はゆっくりと空の色を曖昧にします。 研究室の静かさは、空気をしんと濃くしていました。 K先生とは、何年か前、仕事の関係で出会いました。 循環器内科の医師であり、大学で教官も務めていらっしゃいます。 私と年齢は離れていますが

117 ひとはり、ひとはり進む

よく晴れた初夏の日。風が心地よいので、窓を全開にしています。 ちくたくちくたく 部屋にある置き時計が、静かな空間の時を刻みます。 この置き時計は、九年前に母からプレゼントされたものです。 木でできた、家具屋さん手作りの時計。針の音に合わせてキツツキが動きます。 実はこのキツツキ、ときどき休んでいます。 ふと見たときに止まっているのです。 私があからさまにキツツキを見つめると、また動き出すから不思議。 気がついたら10分ほど遅れていることもあって、その時はひやりとしまし