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ふむもくエッセイ

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ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
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2019年10月の記事一覧

081 光を感じる青

自分の見たものや感じたことを絵にできたらどんなに素敵でしょう。 これは、私が常々思っていることです。 「写真」ではなく「絵」なので、完璧なリアルさがなくても、部分部分(例えば咲いている花の大きさなど)が現物と違っていても良くて、「絵」だからできる何か伝わるものが描けたらいいなと思います。 特に風景は常に変わり続けるものなので、心に残るものがあればそれを記憶のまま描けたらいいな、と思います。 -------------------- 以前、ポーラ美術館に足を運んだときに

080 はちみつを落として

ときどき、頭に浮かぶ言葉があります。 それはひとつではなくて、そのときそのときで色々な言葉が浮かびます。 ほとんどが本の中や映画、テレビ、誰かとの会話の中で出会ったもので、そういった言葉たちがひょいと、それはもう自然に顔を出します。 そして一度顔を出したらしばらく漂っています。 -------------------- 朝早くごみ出しをしたら、さむくて震えました。 でも、そのさむさが心地良くて、部屋に戻って窓を開けました。 外と変わらない、つめたい空気がすいすいと入ってき

079 時間について

つくづく思うのですが、どうも私が過ごす時間は、周囲のひとよりもゆったりと流れているようです。わるく言えばのろま、ということになるのだけれど、一日は二十四時間だし、一時間が六十分という時間の決まりは同じはずなのに、なんだか不思議なことです。 たとえば、会社で意見を求められたときに、ふむ…と考えていると「あ、いいよ」と言われてしまうことがあります。「あれれ、いいの?」と思っているうちに、その人はひらりとどこかへ行ってしまいます。しかし、一度考え始めたら答えを出さなければ気になっ

078 紅茶党、ハーブに浮気する

朝。 水道から出る水のつめたさにおどろき、いつもよりきりっと冴えた紅茶のいろにうれしくなって、確実に冬に向かっていることを知りました。気がついたら部屋着も七分袖です。 大好きなあたたかい飲みものがさらにおいしく感じる季節。 実家の方が茶葉の種類が豊富なので、紅茶を飲みに帰ることにしました。 普段はひと月からふた月に一度の実家帰りも、紅茶目当てに帰る回数が増えます。 私が「きょう、紅茶を飲みに帰ってもいい?」と母にメールしたら「もちろん(きらきらの絵文字)(落ち葉の絵文字)

075 イタリアのコーヒー

肌寒くなってきて、長袖たちの出番が増えてきました。 いつものように、てくてくと川沿いの道を歩いていると、空のぬけるような青とかわいた空気が心地よくて、ふと思い出したことがあります。 以前、「047 でも、コーヒーが飲めない 」という記事で、コーヒーの香りは大好きなのに味が苦手で飲めないのよね、といったことを書きました。 しかし、すっぽりと忘れてしまっていたのですが、私は一度だけコーヒーを飲みほしたことがありました。それは、イタリアで飲んだコーヒーです。 からっと晴れてま

073 朝の図書館

仕事がお休みで、しばらくできていなかった読書がしたい、と思い図書館に行きました。 家にも買ったまま手をつけていない本が八〜九冊は本棚の横に積み上げられていましたが、「図書館」で読みたい!という思いがありましたので、図書館に行きました。 私の気に入っている図書館は木に囲まれたところにあって、とても静かです。 (図書館はたいてい静かなのですが、その図書館は周辺から静かです) 森というほど木だらけではありませんが、図書館の周りをぐるりと木たちが囲んでいて、どこかひんやりとした空気

072 ハウスヒストリー

日に日に涼しさが増して、お日さまもやさしくなっていきます。 この季節に歩くのがとてもすきで、お休みの日も仕事の日もたくさん歩きます。 外に出たときにすっとした冷たい空気が体に染み渡るのは、心地良いものです。 両親は実家を改修工事するそうです。 雨もり修繕と洗面所のやりかえをするそうです。 (庭の柵は叔父さんがペンキを塗ってくれるそうです) 「もう築三十年以上だもの」 母がそう言っていました。 三十年以上前。 私が生まれる前です。「私」という命すら誕生していません。 -

068 もっともきれいな水

雲は多いけれどなんとか晴れた日曜日。 空をお腹いっぱい見たくて、港に行ってみました。 その日に行った港は近くに公園があって、いくつかの家族がいました。 鬼ごっこ?をしていたり、バドミントンをしていたり、カメラで写真を撮っていたり。 のんびりと和やかな午後です。 芝生はくすんだ緑色の中に少し茶色いものがまざっていて、秋らしくなっていました。 私はぺたんと座って足を伸ばし、両手を体の後ろについて思いっきり上を見ました。 空には雲がいくつか浮かんでいます。 おっきいのや小さいのや

066 星くずの香り

秋が進むとともに空はぐんぐん澄んでゆきます。 「天高し」や「爽やか」といった言葉がぴったりな日々。 空気がさっぱりと涼しくて、肌も汗ばむことなく心地よい秋は、五感が研ぎすまされるような気がします。 そろそろアロマオイルを買わなくちゃ、と思ってお店に行きました。 お目当てのブレンドオイルを手にレジへ向かおうとしたら、はっと呼び止められたような気がして振り向きました。どこからか、なつかしい香りがしました。 香りのする方を見ると、金木犀のアロマオイルが置いてありました。 金木犀

064 水の聖域

それは、だれでも持っているもので、普段は隠れていますが、ふとした瞬間に感じることのあるものです。目には見えませんが、私も持っているし、あなたもきっと持っているはずのものです。 -------------------- その男の子は、とにかく無口な高校生でした。 なにか質問をしても、うなずくか首を振るか、単語で答えるかで、たとえば「最近どう?」といったオープンクエスチョンには、首をかしげるだけで答えません。 私に対してだけでなく、他の職場の人にも家族にも友だちにも(と言って

063 虫のうた

灰色が混ざったような青色の空気の中、私は川に沿って歩いていました。 お日さまはすでに帰ってしまったようです。 10月にしてはぬるい気温で、風の気配はするのにちっとも吹きません。 私は歩いている自分の足をみて、上を見上げて(そこには木の葉が広がっています)、また自分の足を見ました。 私は歩いてゐる自分の足の小さすぎるのに気がついた 電車位の大きさがなければ醜いのであつた 尾形亀之助さんの詩の一節です。 私は、その通りだな、と思いました。 ひとりでいる時間はとても大切です