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第4話 「僕と介護との出会い」

父と母の命に別状がなかったことを確認でき、僕はほっと胸をなでおろしていた。

またしばらく待合室で待つように看護師から言われた。
医師が診察をした後で、これからのことについて説明をしてくれるという。

おそらく2人ともしばらく入院することになるだろうと僕は考えていた。

・・・

1時間ほど待っただろうか。
僕は看護師から呼ばれ、医者が待つ診察室に入った。

「お2人とも点滴をして一旦は落ち着きました。
お母さんは意識もはっきりしてきて、トイレにもご自身で行けています。」

実家で見た母はほとんど自分で動けないように見えたが、点滴をして自力で動けるようになったということだろうか。

「しかし、お父さんはまだ意識がもうろうとしていますね。
自分で立って歩くことはしばらく難しそうです。」

医者の話によると、母よりも父の方が状態が悪いようだ。

「お父さんはこのまま入院させて、しばらく様子を見ましょう。
お母さんは自分で立って歩けますし、帰宅して問題ないでしょう。」

「え・・・」と僕は思った。

母がこの状態で家に帰って、どうやって生活をしていけばいいんだ?

自分でトイレに行けると医者は言ったが、それはこの快適な病院の環境だからこその話だ。
ベットから降りて、手すりにつかまりながらであれば歩いてトイレに行くことができたとしても、ゴミだらけの実家で立ち上がってトイレに行くことが母にできるとは思えなかった。

僕は「先生、この状況で母が家で生活できるとは思えません。
なんとか入院させてもらえませんか?」と頼んでみた。
しかし、医者は「申し訳ないのですが、うちは救急病院で他にも重症の方がたくさんいます。
お母さん程度の症状の方を入院させるわけにはいかないのです。
ご理解ください。」と言う。

僕はこのときはじめて、これまで意識することがなかった「介護」というものが、自分の身に迫ってきていることに気づいた。

自分には「介護」は無縁だと思っていた。

改めて振り返ると、あの状況で介護が無縁だと思っていたことがおかしいのだが、とにかくそのときの僕は、自分が介護をするのはもう少し先のことだと思い込んでいた。

しかし、母が入院できず家に帰されると知らされた瞬間、「介護」が一気に自分事となった。

それが僕と「介護」の出会いだった。

(続く)


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