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欧文(英語)の筆記体が絶滅寸前
※本記事は2009年に私のブログで公開していた記事を加筆修正して転載したものです。
10年以上前、欧文(アルファベット・ラテン文字)の筆記体がレアになっている、という以下のコラムが話題になったことがあります。
元記事が残っていたことにも驚きですが(笑)、2020年現在、もう学校では教えていないものらしいですね。
今は欧米でも常用してる人は少ないようです。欧米人と付き合いのある方々は解ると思いますが、彼らの書く文字は学校でいうところのブロック体を独自に崩したもので、はっきり言って日本人には判読不能なものが多いです(笑)。私は Doyald Young さん(2011年逝去)というアメリカのデザイナーの方から直接著書を購入したことがありますが、その荷物のラベルに書かれていた文字が異様に角ばってくっきりしていたのを覚えています。日本企業と仕事をすることが多かった Young さんは、自分が日常的に書く文字が日本人には読みづらい、ということを知っていたのかもしれません。
▲Young 氏の著書の販売サイト。
欧文書体好きは買って損なし
筆記体の起源
そもそも筆記体は、今でいうカッパープレート Copperplate という書体が元になっています。17~18世紀に英国を中心に隆盛を誇った書体で(ためにそのままイングリッシュ English という呼び名もあり、英語圏以外ではこちらの呼び名が主流です)、名前の通り銅板(copper+plate)に鏡像で彫って版画として使っていたもので、この書体は「書く」というよりは絵のように「描く」ものでした。
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![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37756039/picture_pc_9a1feeaef304eacf02f440482ed13d4b.jpg?width=1200)
▲18世紀英国のカリグラファー
George Bickham の作品集。
カッパープレートの作例が多数掲載されている
このカッパープレートを元に、アメリカの Platt Rogers Spencer(1800~64)という人がのちにスペンサリアン Spencerian と呼ばれる書体を考案し、これが全米の学校で教えられるようになり、タイプライターが普及するまではアメリカでビジネス文書の事実上の標準書体となっていました。これがおそらく日本の教育現場でも取り入れられたかと思います。
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/38034718/picture_pc_3bf9efedca2118b0d2d91a7152025812.jpg?width=1200)
▲スペンサリアン練習帳
筆記体の字形の疑問
私は筆記体を習っている時、大変に疑問に思っていることがありました。字によっては、ブロック体とあまりに形が違いすぎるということです。
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/38035980/picture_pc_e48402f1b7c3b95893715c1a14f21a07.png?width=1200)
タイポグラフィやカリグラフィーに詳しくなった現在では上図のように理解できますが、どうにも疑問なのは r(小文字のアール)です。なんでギリシャ文字の π みたいな形になっているのか、これが理解できませんでした。
これはどうも half r(半 r)と呼ばれる字体で、小文字の r のバリエーションのひとつのようです。本来はゴシック(ブラックレター)で用いられる字体で、 b, o, p などの右側が丸い字の次に r が来る場合にのみ使用できたものですが、スペンサリアンになった時にこの字形が採用されたようで、筆記体ではこう書くのが当たり前になったようです。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/38033769/picture_pc_f15958698f4ea4fe4bff186903c1e596.png?width=1200)
Shelly Script など half r を採用していないフォントもたくさんありますが、日本人の中にはこの half r のみが正しい筆記体の r だと勘違いしている人がいて、私が以前に以下のようなロゴを作った際、「r がおかしい」とクレームをつけられたことがありました(笑)。これこれこういうことですよと説明して納得はしてもらえましたが…。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37829009/picture_pc_b06a0ac90c7e4c78b4dfa0b885cab578.png?width=1200)
今は学校でも教えてないせいで、書くことはおろか読むこともできない人が増えているようです。こんなロゴもいつかは「みんな読めないからダメ」っつって滅んでしまうのではないかと老婆心ながら危惧しております。復権を切に望みます(笑)。ダイバーシティ万歳。
オマケ:カッパープレートは手書きできる
ちなみにカッパープレートは銅版画だけではなく、ペンで書くことも可能です。写真のようなオブリークホルダーと呼ばれる特殊なペンホルダーに、柔らかめのペン先を付けて書きます。このペン先は特殊なものではなく、欧米で昔から用いられている、インクをつけて書く「つけペン」用のペン先です。現代日本では漫画家が使用してますね。このペン先は先が割れており、紙に押し付けると広がって太い線が書けるようになるので、それによって線の強弱がつくようになっています。
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/38035157/picture_pc_075f081f9ea2f32112ea49008cf20565.jpg)
この書体はカリグラフィーの中でも難しい部類に入り、上級者向けとなっています。そのためか、近年同じペンを使ったゆるゆるの字形の「モダンスクリプト」という簡単に書ける書体が生まれています。これについてはおいおい note に書きたいと思います。
※書きました▼
カフェラテおごってください。