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ふみのわ

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文芸部「ふみのわ」の文芸集です。 顧問のわたし、文(ふみ)先生が定期的に課題 "ぶんげぇむ" を出しますので、部員の皆さんはしっかりと課題に取り組んでくださいね! もちろん部員で…
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#短編小説

第7回文芸課題"ぶんげぇむ"まとめ

みなさんお久しぶりです!文(ふみ)先生です。 相変わらずスローな更新でごめんなさい・・・!部員のみなさんはいかがお過ごしでしょうか? 今回もかなり時間があいてしまったのですが、遅ればせながら文芸部『ふみのわ』による文芸課題、"ぶんげぇむ"、第7回をまとめさせていただきます🌿 ▼前回、第6回目のまとめはこちらから さっそく第7回文芸課題“ぶんげぇむ”についてまとめていきます! 第7回文芸課題“ぶんげぇむ”お題についてまずはお題について振り返っていきましょう。 ◆お題

【小説】Stay Youth Forever

「全部無駄だったな」 最後の歌詞は確かそうだった。高校時代の友人たちに連れられて来たライブハウスでその歌詞を歌っていたのは、また別の高校時代の友人であるアイツだった。 ライブの事はよく覚えていない。興味がないと言うより、見ていられなかった。音響だけはキッチリと整えられたその空間で鳴り響いていた音楽は、アイツを含めた今も変わらないメンバーが、高校時代に文化祭で演奏していた音楽と何ら変わりはなかったからだ。 楽器よりも声の通らないボーカルのアイツをはじめ、演奏に一生懸命で下

【小説】Oxymoron(オクシモロン)

梅雨。薄暗い体育館に幽閉されていたからか、雨上がりの夕暮れはこの世のものとは思えないほど美しく見えた。 僕は今日のホームルームを終えた後、一人で図書室へ向かう階段を登った。 一つ階が増える度に人の気配がなくなり、遂に誰もいなくなった五階に図書室があった。ドアを開けると、中には誰もいなかった。そして、窓から見える夕暮れの美しさにつられるように窓際の席に座った。 一人の時間が好きだった僕は、毎日ここで呼吸をすることができた。 参考書を開いて勉強をするフリをして、それを手元

ミモザ

 図書室へ向かう制服の列。  私の足取りは重くて、心は落ち着かなかった。  「シーッ。静かに。」  先生は、制服たちを絨毯の上に座らせると、大きなテーブルにもたれかかった。先生の背から朝の光が差していた。  「今月のアクティヴィティの時間は、みなさんに図書室で研究をしてもらいます。自分で決めたテーマについて、ここにある本を自由に使って調べてください。」  制服は仲良しグループでかたまりながら、本棚が立ち並ぶほうへと歩いていった。  私は一人、何について調べてよいかわからない

【短編小説】 いないと困ります

辞令を言い渡されたとき、ふと片倉さんのことを思い出した。 昨年の3月に退職した先輩。いつ、どんなときに声をかけても必ず手を止め、相手の顔を見て「どうしたんですか?」と言ってくれた片倉さん。誰に対しても敬語で、仕事を一生懸命こなし、常に笑顔で優しい人だった。私と4歳しか離れていなかったけれど、今時こんな人もいるんだと驚いたっけ。図書館の司書か保健室の先生として働いていそうな雰囲気だった。 上司からも部下からも、取引先からも愛されていて、「この人はきっと長く勤める人なんだろう

【短編小説】 せんせい、あのね

せんせいあのね。 きょうはあさからとてもいいことがありました。 まいにち見ているテレビのうらないでおとめざが1位だったこと。 体いくのてつぼうでさか上がりができたこと。 かん字のテストで100点がとれたこと。 きゅうしょくであまったあげパンジャンケンでかったこと。 いっぱいいいことがありました。 だからお母さんにほめてもらえるかなあと思ってワクワクしていました。 さいきんお母さんは、かなしそうなかおをしていることが多いです。 だからお母さんが元気になるかなあ

【短編小説】 夜の敵

時計の針が1秒ずつ進むたび、私の寂しさも募る。 「チッチッチッチッ」という、昼間なら何も感じない音が夜だとなぜこんなにも大きく聞こえるのだろう。ソファに投げっぱなしにしていた鞄の中からスマホを取り出してLINEを開く。友だち一覧をざざっとスクロールしながら、今日、この気持ちをなかったことにしてくれる誰かを探す。 * 「夜にかけちゃう電話って、大抵後悔するよねえ」 白ワインをぐいっと飲みながら亜希は言う。 「かけるときはなんとも思わないの。でもかけたあと必ず後悔しちゃ

【短編小説】 染まる

私の視線に気がつき、イナモトさんは手を止めた。でもすぐに理由が分かったのか「ああ」と声に出す。 「カラー剤で染みちゃって。職業柄どうしても色がついてしまうんですよね。ネイルしているみたいってよく言われるんですよ」 自身の爪を見ながら「あはは」と笑う。 しまった。いつもはこっそりと見ていたのに、今日は気づかれてしまった。とっさに「へえ。そうなんですね。美容師さんも大変ですね」と知らないふりを装ったけれど、黒っぽく染まっているイナモトさんの爪を、私はずっと前から知っている。