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ふみのわ

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文芸部「ふみのわ」の文芸集です。 顧問のわたし、文(ふみ)先生が定期的に課題 "ぶんげぇむ" を出しますので、部員の皆さんはしっかりと課題に取り組んでくださいね! もちろん部員で…
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#短編

第7回文芸課題"ぶんげぇむ"まとめ

みなさんお久しぶりです!文(ふみ)先生です。 相変わらずスローな更新でごめんなさい・・・!部員のみなさんはいかがお過ごしでしょうか? 今回もかなり時間があいてしまったのですが、遅ればせながら文芸部『ふみのわ』による文芸課題、"ぶんげぇむ"、第7回をまとめさせていただきます🌿 ▼前回、第6回目のまとめはこちらから さっそく第7回文芸課題“ぶんげぇむ”についてまとめていきます! 第7回文芸課題“ぶんげぇむ”お題についてまずはお題について振り返っていきましょう。 ◆お題

【小説】置かれた場所で咲きなさい ~勇者一行の日常

「全部無駄だったな」  思わずこぼれた俺のつぶやきに対し、傍らを歩く賢者が、 「人生に無駄なことなんか一つもありませんよ、勇者殿。失敗も遠回りも、すべてはあなたを成長させ、いつか輝かせるための、貴重な礎……。『あの日、あんな経験をしてよかった』と思える日が、きっと来ます」 と、さわやかに答えた。  もし両手が空いていたら、俺はいら立ちのあまり髪をかきむしっていたことだろう。 「なんか良い感じにまとめようとしてんじゃねーよ。何日も準備してドラゴンに挑んだのに一瞬で負けた

【短編小説】 いないと困ります

辞令を言い渡されたとき、ふと片倉さんのことを思い出した。 昨年の3月に退職した先輩。いつ、どんなときに声をかけても必ず手を止め、相手の顔を見て「どうしたんですか?」と言ってくれた片倉さん。誰に対しても敬語で、仕事を一生懸命こなし、常に笑顔で優しい人だった。私と4歳しか離れていなかったけれど、今時こんな人もいるんだと驚いたっけ。図書館の司書か保健室の先生として働いていそうな雰囲気だった。 上司からも部下からも、取引先からも愛されていて、「この人はきっと長く勤める人なんだろう

【短編小説】 せんせい、あのね

せんせいあのね。 きょうはあさからとてもいいことがありました。 まいにち見ているテレビのうらないでおとめざが1位だったこと。 体いくのてつぼうでさか上がりができたこと。 かん字のテストで100点がとれたこと。 きゅうしょくであまったあげパンジャンケンでかったこと。 いっぱいいいことがありました。 だからお母さんにほめてもらえるかなあと思ってワクワクしていました。 さいきんお母さんは、かなしそうなかおをしていることが多いです。 だからお母さんが元気になるかなあ

【短編小説】 夜の敵

時計の針が1秒ずつ進むたび、私の寂しさも募る。 「チッチッチッチッ」という、昼間なら何も感じない音が夜だとなぜこんなにも大きく聞こえるのだろう。ソファに投げっぱなしにしていた鞄の中からスマホを取り出してLINEを開く。友だち一覧をざざっとスクロールしながら、今日、この気持ちをなかったことにしてくれる誰かを探す。 * 「夜にかけちゃう電話って、大抵後悔するよねえ」 白ワインをぐいっと飲みながら亜希は言う。 「かけるときはなんとも思わないの。でもかけたあと必ず後悔しちゃ

【短編小説】 染まる

私の視線に気がつき、イナモトさんは手を止めた。でもすぐに理由が分かったのか「ああ」と声に出す。 「カラー剤で染みちゃって。職業柄どうしても色がついてしまうんですよね。ネイルしているみたいってよく言われるんですよ」 自身の爪を見ながら「あはは」と笑う。 しまった。いつもはこっそりと見ていたのに、今日は気づかれてしまった。とっさに「へえ。そうなんですね。美容師さんも大変ですね」と知らないふりを装ったけれど、黒っぽく染まっているイナモトさんの爪を、私はずっと前から知っている。