【短編小説】 いないと困ります
辞令を言い渡されたとき、ふと片倉さんのことを思い出した。
昨年の3月に退職した先輩。いつ、どんなときに声をかけても必ず手を止め、相手の顔を見て「どうしたんですか?」と言ってくれた片倉さん。誰に対しても敬語で、仕事を一生懸命こなし、常に笑顔で優しい人だった。私と4歳しか離れていなかったけれど、今時こんな人もいるんだと驚いたっけ。図書館の司書か保健室の先生として働いていそうな雰囲気だった。
上司からも部下からも、取引先からも愛されていて、「この人はきっと長く勤める人なんだろう