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映画「アンカット・ダイヤモンド」宝石と金と愛と

むき出しの欲望や強すぎるエゴイズムは、滑稽で不快だが、なぜか度を超えてくると感動になるのかもしれない。
そんなことを感じ、なぜか心を揺さぶられた。

私は、ずっとこういう映画を観たかったのかもしれない。

アンカット・ダイヤモンド

2019年 アメリカ
監督: ジョシュア・サフディ、 ベニー・サフディ
音楽: ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
主演:アダム・サンドラー 
(Netflixオリジナル作品)



アダム・サンドラー演じる主人公の男はNYの宝石商だ。はっきり言って、通常では考えられないほどにダメな男である。

ギャンブルにギャンブルを重ね、借金はふくらむ一方で、毎日取り立てに追われているにもかかわず、少しでも金が入ればまたそれを元手に賭け事を繰り返すありさま。別れた妻には完全に愛想をつかされている。浮気のあげく離婚したと思われるが、その恋人に少しでも不満を感じると、元妻に、「もう一度やり直したい」と都合の良いことを悪気なく言える無神経さの持ち主。宝石商としての彼は商売相手にも「約束する」という言葉を何度も発するが、その約束が、果たされることはおそらくない。
言葉通り、「口先だけで」生きている男だ。



主人公の男が終始まくしたてるようにしゃべり続け、それに最初は不快感を感じて視聴を何度かやめようかと思った。だがこれが最後にはなぜか爽快感に変わり、なぜかわからないが感動している自分がいる。

妻には愛想をつかされてはいるが、若くて美しい恋人や、まだ幼い彼の子供たちは、彼のことを心底愛しているように描かれている。

こういう男を描く際には酒やたばこなどが必ず隣にあると思うが、そういう演出はないことも印象的だ。
そんなものをやっている暇もないと言わんばかりに、ただひたすら金、その1点に執着し、翻弄されている男の末路を、目を見張るように観てしまった。

良い悪いに関わらず何かに「突出した」人間しかもつことのない、特有の人間的魅力というものに時々出会うことがあるが、この映画はおそらくそれに近い。

主人公の男は、借金取りに追われながら、その合間に一攫千金を狙い、さらにその隙間の家族サービスは欠かさないのがすごいところだ。
一筋縄では語れない人間の感情の複雑さ、なのだろうか。

自分だってそうだ。いい人の面もあるだろうが、人には言えない、彼のような強欲さもある。

そして、たとえ堕落的だったとしても、人生を虚無的にあるいは投げやりに生きるよりもずっと、「生のエネルギーに満ち溢れた人間」というのを私は観ていたいのかもしれない。

気持ちや感情の置き場に時々どうしようもなくなるようなこんな時代だからこそ、このような映画にある種、救われるような気もする。

アーティストのThe Weekendや元NBA選手のKG(ケビン・ガーネット)が本人として出演しているところも見ものだ。こういう感じがNY、っぽくていい。

「A24」制作ということもあり、映像や音楽は言わずもがなだが、やはり今回もこの独特な世界観にやられた。出来れば劇場で観たかったな。

これほどまでに密度の高い2時間を過ごしたのはいつぶりだろうか。

好みはかなり分かれる作品だろうが、私はこういう映画が好きだと声を大にして言いたい気分だ。

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