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ロング・バケーション【雑記】

今年の1月末に会社を辞めて、丸2ヶ月が経った。

30半ばで結婚してから、同じタイミングで長く勤めた会社をやめた。それからまた別の会社へ就職をしたが、20代の時のような働き方はできず、かといって子供もいないまま30代後半の自分が地方の中小企業で、今後のキャリアのことを考えるのも現実的だと思えなくなった。急に、これまでみたいにがむしゃらに働くことが現実から遠のいていき、かと言って、もっと軽い仕事がしたいかといえば、それもどこかピンとこない。フリーで時々受ける仕事を、とりあえず続けようかとも考えたが、一旦それも全て断ることにした。

この時世も相まって、自分の生き方を唐突に見直したくなったのだ。


こんなに「何もしない」時期は大学時代の長期休み以来ではないだろうか。いや、あの時はアルバイトはしていたし、外国へ行ったり、外に飲みに出かけたりと好き勝手に遊んでいた。

私には夫はいるが子供はいない。夫は自立しているので別に私がなにか「世話する」ようなこともない。前よりすこし手の込んだ食事を作ったり、前よりも丁寧に部屋を掃除したり、日の当たる時間に洗濯をして、日が暮れる前に洗濯物を取り込むぐらいだ。
「ぐらい」と書いたけれど、このほんの少しの違いが日常の暮らしの質をかなり上げてくれるらしいことをこの数ヶ月をもって身に染みている。
それに、フルタイムで仕事をしながら、憧れの雑誌が最近よく発する「自分をご機嫌にする暮らし」なんて、私には到底難しかったことを思い知った。不機嫌にはなりたくないが、別に毎日ご機嫌でなくたっていいんじゃないかな、と今は思う。


人生に滅多に来ないであろうこんな空白だらけの時間で、私は長年読めていなかった小説を読み、Amazon primeと NetflixとU-NEXTを何往復もする日々を過ごしている。

最近の私の気分はイギリスにあるらしい。
イギリス女王エリザベス2世の治世を描くドラマNetflixの「ザ・クラウン」、Amazonプライム・ビデオで配信中のドラマ「ピュア」、 U-NEXTの「キリング・イヴ」にハマっている。どれもイギリス・ロンドンが主の舞台だが、全然毛色の違う3作。

そういえば、Netflixオリジナル映画「時の面影」も素晴らしかった。この映画のキャリー・マリガン演じる主人公の表情には決して人生がご機嫌続きであったとは思えない独特の悲哀がありとても素敵だ。できれば毎日を笑顔で過ごしたいものではあるが、この彼女を観てからは少しだけ考え方が変わった。



U-NEXTといえば、つい昨日素晴らしい発表をしていた。ちょうど「SATC」を観直したいと思っていたところだったし、HBOMaxのドラマも楽しみだ。

最近はよく昼を過ぎた頃にカフェに行き、読書をしたりヘッドフォンで音楽やPodcastを聴いたりする時間が気に入っている。

今日も、スターバックスでアールグレイとアーモンドミルクの紅茶ケーキというものをいただきながらこの日記を書いている。

ケーキの中で1番カロリーが低かったので食べてみたのだが、思ったより甘くてふわふわしていて美味しい。これが本当に160kcalなのだろうか。きっと何かの間違いだろう。昔から午後は、出来るだけコーヒーを飲まないようにしている。なんとなく健康(睡眠の質)のために。紅茶は、断然アールグレイが好きだ。爽やかなベルガモットの柑橘の香りに癒されるし、少し優雅な気分になれるから。

ふと、周囲を見渡すと、お揃いのチェックのシャツを着た腰の曲がったおじいさんとおばあさん、それに孫と思わしき小学生ぐらいの少女が3人で仲良く丸テーブルに座ってフラペチーノを飲んでいる。3人とも無表情で淡々と、まるで工場のライン工かのようにその飲み物に向き合っているが、なんだかとても幸せそうに映る。別の席では白髪のご婦人が、一人でチョコレートケーキを2つにスコーンを1つ、それにアイスラテらしきものを食している。よく観察すると、肌ツヤが良くて体もスリムだ。糖質制限がブームだが、甘いものはやっぱり人を幸せにするのかもしれない。
私の祖父母は一度もスターバックスを飲まずに亡くなっていった。一度ぐらい、連れてきてあげれば良かったなと思う。おじいちゃんは、アボカドが好きだったし、おばあちゃんはピザが大好物だった。きっとスターバックスも気に入っただろう。

私は洋服が好きで「これだけは仕事を辞めてもきっとやめられないだろう」と思っていたが、実際は全く逆で、不思議と服飾品への欲求がなくなっている。
これまでケチらずに良い服を買っていたおかげだ。たとえ無職になっても過去に購入したお気に入りの服を着ることで惨めな気持ちにならないで済んでいる。これからも余裕のある時こそ、きちんとした、良い服飾品を買い、未来へ投資しておこうと思う。
そういえば祖母は生前、「駄物を買ってはダメよ」と良く言っていた。
今改めて、その通りだと思っている。

反対に、貴重な時間を得たことで、以前よりも本と映画には惜しみなく使うようにしている。

「自分の書斎はたとえどんなに財力を持っても1日や2日では手に入らないから」という夫の言葉が私はとても好きだ。

私たちの家の書斎には二人がそれぞれの人生で何年もかけて買い揃えてきた本がぎっしりと並んでいる。

小説や映画や音楽は私を癒してくれ、生きる方法を教えてくれ、勇気づけてくれ、私の人生に欠かせないものだ。時間と心の余裕ができ、昨年から外出ができなくなったことにより、改めてそのことに気がつかされている。

だが同時に「事実は小説より奇なり」の言葉通り、何があるかわからない面白さが、現実の世界にはある。

朝、息を切らし髪を振り乱しながら会社に行く支度をしたり、会議で上司からの指摘に冷や汗をかいたり、隣の誰かが自分よりも成果を出していることに焦りを感じたり、以前よりもできることが増えてくると心から嬉しかったり、夜に疲れて化粧したまま寝落ちしてしまって次の日に後悔する日々などは、どんな物語よりも人間らしくもある気がしている。体の中の全細胞が動いている感覚、というのだろうか。
これだけは、小説や映画の世界だけに浸っていても得られることではない。
今の空白期間がなければ、こんなことは絶対に思わなかっただろうから、時々立ち止まるのは人生にとって必要な期間なのだと気が付かされている。

以前は「週5日間、適度に働き、適度に休むことを長期間に渡ってできる人」でありたいと思っていた。これを大学を卒業して以来、10数年間試みてきたが(社会人生活にはその能力が絶対的に必要だと思っている)、最近は、もっと自分らしいペースや形があってもいいのかなと感じている。それに私たちの社会も、少しずつだけれど、変容してきてもいるはずだ。

とにかく今は、HBOのドラマを楽しみにしながら目の前の紅茶を美味しくいただこうと思う。


2021.3.31 の日記



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