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薬の王国

「毎日毎日、精が出るねぇ」

「よぉ、久しぶり。お前の出番ってことは、この人、よほど調子が悪いんだなぁ」

薬たちの会話で、人間の体内は賑やかだ。

それもそのはず。二日酔いで毎朝の頭痛薬は欠かせない。働けど働けど仕事は終わらず、かすみ目で目薬の世話になる。上司のパワハラでキリキリ胃が痛むから胃腸薬。そんなこんなで血圧は上がりっぱなし、夜は降圧剤。ストレスだらけの一日、酒でも飲まなきゃ眠れない。酒は百薬の長と言われるが……。

血流のジェットコースター、胃袋のお化け屋敷、脳のプラネタリウム。人間の体内は、どんなテーマパークよりも複雑怪奇、興味が尽きないらしい。居心地が良くなった薬たちは溶けてしまう前、ちょっとだけワルさをするようになった。また、この場所に帰って来られるように。

そうやって人は薬を手放せなくなる。

薬が人をのみ込んでゆく。

#短編小説 #ショートショート #詩 #エッセイ #薬 #酒は百薬の長 #400文字のショートストーリー


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