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2021年4月の記事一覧
病院で見た風景、思い出したことば。
「心臓が、苦しい感じですか?」
受付の看護師さんが、ていねいに問いかける。「違うんです」。ぼくよりも5歳か10歳くらい年長と思しき長身の男性が、かぶりを振る。「そうじゃなくて、きゅっ」。胸のあたりを押さえ、訴える。「喉がつっかえる感じですか?」。看護師さんの問いかけに対して男性は、ふたたびかぶりを振って、両手を握りしめながら言う。「きゅっ。ここのところが、きゅっ」。困り顔の看護師さん、「なるほど
連休前に、ぼくがやること。
『取材・執筆・推敲』の刊行から、3週間が経った。
重版分が刷り上がり、Amazonをはじめとするオンライン書店の在庫もようやく復活し、さあここからだ、というタイミングでの緊急事態宣言。最終的に東京都ではその対象から除外されたものの、大阪では大型書店も休業要請の対象となっている。そして大型商業施設に入っている書店は(施設自体の休業にともない)自動的に休業せざるをえず、全国で300店規模の書店が休業
動物病院の待合室で。
おそらく、10年以上前の話だ。
イギリスだったか、ドイツだったか、とにかくヨーロッパのTVレポーターが日本の街を歩きまわり、そこで見つけた「ヘン」なものを紹介する、みたいな番組があった。彼女(レポーター)は軒先の風鈴をおもしろがったり、エスカレーターの片側整列に感心したり、交番の警察官に声をかけたりと、まあいかにも欧米人がよろこびそうな「ジャパン」の姿を見つけては、それぞれレポートしていた。
口内炎の話をするつもりだったのに。
口内炎ができている。
ものを食べるとき、とくに酸っぱいものを食べるとき、患部がとても痛む。観察することがかなわないので感覚の話になるのだけど、酸っぱいものや塩分に触れた患部は——ちょうど外敵に触れたイソギンチャクや貝類がそうであるように——収縮しているような気がする。もう少しいやなたとえを出すなら、塩を振られたナメクジのような悶絶を、患部はちいさく経験する。
うちのおばあちゃんは口内炎に、はち
知りあう場所から遠く離れて。
ひさしぶり、あの本の話を。
『嫌われる勇気』の中国(大陸)版が、100万部を突破したとの連絡が入ってきた。これで日本、韓国に続いて3カ国目のミリオンセラーということになる。現地では100万部突破を祝うオンラインでのイベントが盛大におこなわれ、10万人を超える方々が視聴した、とのご報告をいただいた。
もちろん、うれしい。とてもとても、ありがたい。けれども先方から送っていただいた写真を見て思うのは
その企画を「事業」と言い換えよう。
若いころ、求人情報誌の仕事をしていた時期がある。
巻頭グラビアページで、経営者や人事担当者にインタビューするのが当時の主な仕事だった。会社勤めの経験もロクにない金髪フリーライターが、よくあんな仕事をやっていたものだと、いまでは思う。インタビューは好きだったし、原稿もそれぞれ好評だったから、いちおうあれでよかったのだろう。
いまの若い方々はそういう雑誌の存在も知らないかもしれないが、求人情報誌と
お金について考える。
習慣の力とは、おそろしいものである。
毎月21日になると、その日付を確認すると、ちょっと胸躍る自分がいまだにいる。地方公務員だった父親の給料日が、21日だったからだ。つまり、その子どもである自分にとっての21日は、小遣い日だった。毎月のこの日、うやうやしく両手で小遣いを受けとっていた時代の記憶が、この歳になっても身体に染みついている。
新卒入社したメガネ店は、5日が給料日だった。「給料日といえ
パンは粉もんにあらず。
粉もん、ということばがある。
お好み焼き、たこ焼き、うどん、焼きそばなど、小麦粉を使用した食べものの総称で、主に関西でのそれを指して使われることの多いことばだ。本日のぼくは、昼ごはんに焼きそばを食べ、夜ごはんにたこ焼きを食べ、完全無欠の粉もんデーだった。
しかし、考えてみると欧州・米州の人たちあたりは、パンやパスタばかりで炭水化物を摂っているはずで、小麦粉由来という意味でいえばこれらも立派な粉
鼻のぐずぐず、ことばのあれこれ。
点鼻薬、という薬がある。
風邪やアレルギー性鼻炎、花粉症などで詰まりきった鼻腔にノズルを挿入し、ブシュッと薬を吹きかけると鼻水がだらだら滴り落ち、一気に鼻が通るという薬である。きっと花粉がいつも以上に飛んでいるのだろう、にっちもさっちもいかなくなった鼻に、ぼくは先ほどその薬を噴霧した。
といったことを書こうとして迷ったのが、「噴霧した」の部分である。塗り薬ではないのだから「塗布した」のとは違う
正月のもち、経験の罠。
いつかのお正月くらいに、書いた話かもしれない。
毎年、年が明けてしばらくすると「もちを喉に詰まらせて搬送された人」のニュースが報じられる。その大半は高齢者で、ぼくの印象だとおじいちゃんが多い。ちなみにぼくはこれまで、もちを積極的に嫌っている人と出会ったおぼえがあまりなく、「そりゃみんな好きだよねえ。おれも大好きだもん」と思っている。もちは危険な食べものだから禁止すべきだ、なんてことは、まったく思
膨れあがるガム欲と、お行儀の話。
そうじゃなくて「味」がほしいんだよ、おれは。
会社近くのコンビニエンスストア、ほんの少し苛立ちながらぼくは思った。きょうは終日慣れないタイプの原稿を書いていて、当然のようにその原稿は早々に行き詰まってしまって、積み重なるイライラを解消しようと(自分にしてはめずらしく)コンビニまで出かけたのだった。こういうときにはガムを噛むのがいい。顎が疲れるくらいにたくさんガムを噛んで、イライラの種をぐにゅぐに
雨の日に、雨乞いするように。
今日の東京は、雨降りだ。
犬と暮らすようになってから、雨に対する認識はおおきく変わった。そんなふうに育ったのだから仕方がない。うちの犬は、毎日散歩に行けると思っている。大雨の日も、台風の日も、大雪の日も、部屋のなかにいる彼に天候のことはあまりわからない。とにかく毎日、散歩に行けると思っている。彼を迎えてから4年半あまり、散歩に行かなかった日はたぶん、まだない。ぼくもフジロック民が着るような防水ポ
こんなプランを立てていた。
糸井重里さんとの対談連載が、本日終了した。
このタイトルについて、編集を担当してくださった「ほぼ日」の永田泰大さんは、『古賀史健の腹筋』とどちらにするか最後まで悩んだと、冗談交じりに教えてくれた。いずれにしても「ほぼ日」さんでしかありえない、個人的にも学びの多い対談になり、コンテンツにしていただいた。
いまだから白状すると、『取材・執筆・推敲』という本には当初、本文とは別に糸井重里さんへのイン
本が本になるまでの時間。
きのう、本屋さんに行った。
そりゃ行くだろう、毎日でも行くのがお前の仕事だろう、とご指摘を受ける前に申し上げる。違うのだ。定点観察するように訪ねたのではなく、自分の本が並んでいる姿を見るために、しかもそれが日曜日のいちばん混雑する時間帯にどう並び、場合によっては立ち読まれているかを見るために、都内の大型店まで出かけて行ったのだ。
ありがたいことに本は、新刊コーナーのいちばん目立つ場所と、ビジネ