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古賀史健

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古賀史健の note、2018年以降のぜんぶです。それ以前のものは、まとめ損ねました。
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2018年6月の記事一覧

自分の判断に迷うとき。

自分の判断に迷うとき。

これについてあのひとは、どんなふうに思ったのだろう。

たとえば好きな監督の新作映画を観たとき、誰かの新刊を読んだとき、たのしみにしていた新譜を聴いたとき、そんなふうに考えることがある。理由は簡単だ。「素直によいと思えなかったから」である。その作家やアーティストのことが大好きで、新作をたのしみにしていたにもかかわらず、心からよいとは思えなかった。けれども駄作と断ずるほどの確信もなく、どうにも判断に

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遠いロシアのあおい空。

遠いロシアのあおい空。

もしもこれが自分の国だったなら、自分はどうなっていただろう。

きのうのサッカーW杯ロシア大会、ドイツ vs. 韓国の結果を受けて、いろいろ考えている。韓国の人たちに思いをめぐらすことは、たぶん簡単だ。グループリーグ敗退は残念でならないものの、不甲斐なさから石でもぶつけてやろうと手ぐすね引いて選手・監督らの帰国を待ちわびていたものの、最終決戦の場でドイツに勝ったのは、とんでもなくめでたい。不甲斐な

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人が変わるということは。

人が変わるということは。

戦前に活躍した、ロバート・ジョンソンというブルースマンがいる。

彼の手による楽曲で、おそらくいちばん有名なのはクリームがカヴァーした "Crossroads" だろう。その他、ローリング・ストーンズの "Love In Vain" や "Stop Breakin' Down"、意外なところではレッド・ホット・チリ・ペッパーズの "They're Red Hot" なども彼のカヴァーだ。

そうし

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そういう選択肢、としての本。

そういう選択肢、としての本。

気がつくと最近、そういうものばかりを読んでいる。

ツイッターやインスタグラムでこつこつと連載された、さらっとしたマンガばかりを読んでいる。もともと熱心なマンガ読みではないぼくだけれど、気合いの入った長編マンガからは足が遠のき、SNS発の短いマンガを好んで読んでいる。手にしたそれが短かろうと薄かろうと、あるいはすでに読んだものばかりであろうと、なんの不満もない。なぜってこちらは「そういうもの」がほ

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あこがれのサッカーファン。

あこがれのサッカーファン。

「正直、勝つのはむずかしいと思いますが、がんばってほしいです」

ワールドカップの試合前。もしも試合予想を問われ、そんなふうに答える解説者がいたら、けっこうな嫌われ者になるだろう。抗議の電話やメールが殺到することも考えられるし、場合によっては次から呼んでもらえないかもしれない。別に彼は、間違ったことを言っているわけではない。ただ「縁起でもないこと」を言っているだけだ。試合を前にしたファンは、そして

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あの人はいま、どう思っているんだろう。

あの人はいま、どう思っているんだろう。

最近ずっと、ハリルホジッチさんのことを考えている。

なんだかもはや「なかったこと」のようになっている彼のことを、しつこく考えている。もともとぼくは、ハリルホジッチ支持者ではまるでなかった。彼のやろうとしているサッカーの半分も理解できなかったし、ある意味では素直な、そして尊大な態度も好きではなかった。最終予選のどこかで解任されていたら、「まあ、そうだよね」と受け入れていたと思う。違和感が拭えないの

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きのう、手相を観てもらった話。

きのう、手相を観てもらった話。

きのう、ひょんな偶然から手相を観ていただくことになった。

こういう話をするときには、「お前は手相や占いを信じる人間なのか、それほどにも非科学的で情緒的な人間なのか」との声があがってくるものだ。その予防線として、ぼく自身の占い観めいたものを先に書いておこう。

長年たくさんのひとをインタビューしてきたぼくは、自分のことをすぐれたインタビュアーだとは思わないけれど、ひとつだけ明らかに長けた能力がある

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もうひとつのジャイアントキリング。

もうひとつのジャイアントキリング。

ジャイアントキリング、ということばがある。

のちにイスラエル王となる若き日のダビデが投石器を用いて巨人ゴリアテを倒した逸話にもたとえられる、大番狂わせの慣用句だ。他のスポーツ界では「アップセット」の語が好まれるのに対し、サッカー界では「ジャイアントキリング」の語を耳にする機会が多い。きのうのW杯ロシア大会における日本 vs. コロンビアは、まさにジャイアントキリングといえる試合だろう。

試合の

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明日はサッカーの話を書きます。

明日はサッカーの話を書きます。

たぶんあれは、1999年だったんだと思う。

調べて書けば正確なところがわかるんだけれど、そうするとつまんなくなる話なので記憶のままに書く。たしかその年の夏ごろ、文芸誌『新潮』で唐突に村上春樹さんの連載がはじまった。そこには〈地震のあとで〉という副題がつけられていた。のちに書き下ろしの『蜂蜜パイ』を加え、『神の子どもたちはみな踊る』と改題されることになった短編連作だ。書き下ろし小説のイメージが強か

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元サッカー少年の考えるコンテンツ論。

元サッカー少年の考えるコンテンツ論。

例年、W杯イヤーは激務の只中だった。

4年前、ブラジル大会のときには編集の柿内芳文氏から「古賀さん、世間ではワールドカップがどうしたこうした言ってますが、あれは幻ですから! ぼくらの現実は目の前にある原稿、それだけですから!」との脅迫を受けながら原稿を書いていた。8年前も、12年前も、16年前もずっと激務をかいくぐるようにして深夜の中継映像を観ていた。

その意味でいうと今回のW杯は、目の前に差

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誰が言うかでも、なにを言うかでもなく。

誰が言うかでも、なにを言うかでもなく。

梶原一騎原作の『夕焼け番長』というマンガがある。

正確には、ある「のだそうだ」。読んだことはない。テレビアニメ化された人気作でもあったようだが、さすがに生まれる前の放送で、見ていない。また、今後見たり読んだりするつもりもない。

そんなマンガの存在を知ったのは、前田日明という格闘家・プロレスラーのおかげである。UWFという団体を率いていた前田日明は80年代、新日本プロレス時代の先輩にあたる長州力

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あなたとわたしの尻熱パラドックス。

あなたとわたしの尻熱パラドックス。

尻熱パラドックス、ということばをご存知だろうか。

知るはずもなかろう、たったいまぼくが思いついた造語なのだから。しかしこれ、この雑文を読む方々の多くが、この数日のうちに一度は経験しているはずの不思議であり、パラドックスなのである。

たとえば電車で、タクシーで、パブリックなスペースのソファで。先ほどまで誰かが座っていたところに腰を下ろす。するとなんとも気色の悪い尻の熱が、その体温と湿気めいたもの

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こういう仕事もおもしろいんじゃないか。

こういう仕事もおもしろいんじゃないか。

急に、綾戸智恵さんのことを思い出した。

もう10年近く前に取材させていただいた綾戸さんは、CDデビューにいたるいきさつを、こんなふうに語っていた。

" さあ、今度はクラブでホステスさんのアルバイト。なるほど外国人のお客さんも多いし、今度も楽しい職場です。
 でも、わたしは化粧っ気もないし、色っぽくもない。だからなんとかお客さんを喜ばせようと思って、ピアノを弾いたの。当時はカラオケがない時代だっ

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隣で過ごした、ぜいたくな5日間。

隣で過ごした、ぜいたくな5日間。

「ええい、ままよ!」

あれは『三国志』だったのか『はだしのゲン』だったのか、あるいは違うマンガだったのか忘れてしまったけれど、小学校の図書室で読んだマンガに、そんなセリフがあった。たぶん屈強な男が、武器や拳を振り上げて叫ぶセリフだ。「まま」を幼児舶来語の「ママ」と読み、終助詞の「よ」を女性語の「よ」と読んだぼくは、大笑いしながら何度も何度もそのセリフを声に出した。「ええい、ままよ!」。意味のわか

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