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あこがれのサッカーファン。

「正直、勝つのはむずかしいと思いますが、がんばってほしいです」

ワールドカップの試合前。もしも試合予想を問われ、そんなふうに答える解説者がいたら、けっこうな嫌われ者になるだろう。抗議の電話やメールが殺到することも考えられるし、場合によっては次から呼んでもらえないかもしれない。別に彼は、間違ったことを言っているわけではない。ただ「縁起でもないこと」を言っているだけだ。試合を前にしたファンは、そして視聴者は、「縁起でもないこと」など聞きたくないのだ。

「縁起でもないこと」を忌避する言説によって、おおきな試合を前にしたメディア(一部専門誌は除く)には奇妙な楽観論が蔓延する。楽観論がはばかられるほどに危うい状態のときには、「意地」だの「魂」だの「爪痕」だのといった精神論が語られる。あるいは希望的な文脈で「4年後」への道程が語られたりする。現実的な議論は、ほぼ聞かれない。

バッシングが巻き起こるのは敗退が決まったあとのことで、それは客観的な総括というよりもむしろ、感情的な戦犯さがしに近い。

戦前には「縁起でもないこと」を忌避し、敗退後には戦犯さがしに明け暮れる。よくも悪くも、メディアはきわめてエモーショナルな態度でスポーツを報じ、われわれファンもそれを受け入れている。いや、求めていると言ってもいいだろう。

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セネガルこそ最強。

いつのまにか、そういうことになっていた。開幕前には、かろうじて一矢報いることのできるかもしれない相手として挙げられていたセネガルなのに、気がつけばグループHで最強のチームに格上げされていた。対ポーランドのわずか1試合で、そんなことになってしまった。それほどまでに、ポーランド戦のセネガルは強かった。

しかし、である。

きのうの日本代表は、グループ最強であるはずのセネガルに、ぜんぜん負けていなかった。結果は引き分けだったし、押し込まれる時間帯も多かったけど、どちらが自分たちのゲームプランを遂行できたかといえば、あきらかに日本だ。グループ最強だったはずのコロンビアを破り、真の最強として急浮上したセネガルをも破った日本代表はいま、はたしてどのくらい強いのか。どのくらい勢いに乗っているのか。傷心のポーランドと、どんな試合をしてしまうのか。

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こういう話、どこまでもエモーショナルに、調子に乗りまくって語りたいよねえ。最近のサッカー評論は、微分積分にばかり走りすぎてちょっとつまんないんだよなあ。引用元の指摘に終始する系の映画評論に似ていて。

せめて大会期間中は、川平慈英的な態度で「クゥゥ〜!」と盛り上がるのがいちばんいいと思っているサッカーファンです。彼のありかたって、けっこうあこがれなんですよね。