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元気をもらえる、おじいちゃん小説

「政と源」(三浦しをん)

「どんな老後を過ごしたい?」
そう聞かれたら何て答えるだろう。
夫婦で悠々自適な生活?生涯現役で仕事に励む?はたまた高級老人ホームで暮らす?

この小説に出てくる“政”と“源”は幼馴染の70代おじいちゃん。
二人は正反対の性格で、政は元銀行員の堅物。妻は政の家を出て娘の家に居候しており、娘家族も政に会いたがらない。
もう一人の源はつまみ簪の職人。妻には随分前に先立たれ、今は若い弟子と賑やかな生活を送っている。残り少ない髪の毛をド派手な色に染めたりと、若い頃から変わらぬ奔放な性格だ。
そんな二人は家が近く、今でもしょっちゅう会っている。性格の違いゆえに喧嘩も多いが、寂しさややるせなさを抱える政は、源とその弟子の明るい日常に助けられていく。

このお話の舞台は墨田区Y町で、下町情緒あふれる描写も素敵。山口恵以子さんの「食堂のおばちゃん」シリーズもそうだけど、「下町」「老齢の主人公たち」「日常」というキーワードは何だか癒しと元気を与えてくれる!

「政と源」での主人公たちは、お互いに失ってしまったものと持っているものが違う。
年老いるまでに、自分が持っていたい・残しておきたいものはなんだろう。
家族・恋人・友人・仕事…色々あるけど、どれか一つでも持っていたら幸せなのではないか。そんなことを考えさせてくれる作品だった。

そして印象的だったのが、生きている時間、つまり死ぬまでの日々こそが”永遠”だという言葉。それぞれがその永遠を生き、次の世代へと繋がっていく。それが荒川と隅田川の水路にたとえて表現されているのがとても良かった。

さらに、途中に回想される政と源の若い頃のエピソードや、弟子の徹平とその彼女マミちゃんの恋の行方も楽しい。いつの時代も、まっすぐな愛は無敵!笑。読んでいて気持ちの良い作品でした*

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