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プリンターの卵

最近、プリンターを新しくした。問題は、プリンターの性別をよく確かめなかったことだ。

浅生鴨さん曰くプリンターにも「雄と雌」があるらしい。

前は兄弟印のプリンターを使っていたけれど、性別は気にしてなかった。というより性別があることも知らなかった。

新しいのは絵布尊のだけど、マニュアルを見ると工場から出荷されて間もないあいだは雄雌の判別が難しいらしい。

どっちなんだろう。すごく気になる。僕は妻に「プリンターって雄と雌があるの知ってた?」とたずねる。


「え、知ってて買ったんだじゃないの?」

いまさら何言ってんのという感じで妻が言う。
「前のだって雌だったじゃん。わかってて選んだんだと思ってた」

そう言われると何も返す言葉がない。そうなのだ。このプリンターにしようよと決めたのは僕だ。妻も新しいプリンターにはとくに不満もなくて、やっぱり最新のは静かだし写真もきれいに出るしという感じだったのに、僕が肝心の雄と雌をちゃんとわかってなかったのだ。

どうでもいいことはわりとちゃんと見てるのに、こういう大事なところがちゃんとできない。自分でもポンコツだなと思う。

そう言われれば、前の兄弟印プリンターは、買って数か月ぐらいしてから朝になるとだいたいいつも卵の画を一枚出力していた。最初は「なんで?」と思ったけど、テスト印刷を勝手にやってくれて、そういう仕様なんだと思っていつしか気にしなくなった。

まさか雌のプリンターだけの特徴だとは思わなかった。まあ、たしかに雄のプリンターが卵の画を出力してくれることはないのだけど。

        ***

「ねえ、もし新しいやつさ、雄のプリンターだったらどうするの?」

妻が僕にたずねる。

雄のプリンターはもちろん卵の画を出力しないし、その代わりなのか、他のプリンターとかモニターとかが近づくと、縄張りを刺激されたと思うのかすごい音(パソコンのビープ音みたいだ)で威嚇する。

雄のプリンターはメーカーの機種によっては幼いあいだは結構、気性が難しいのもあるのだ。

そういえば、すごい昔に買ったプリンター(どこのメーカーかは忘れた)が、突然、興奮して近くに置いてあったチェキを突き回したことがあった。チェキがびっくりして逃げようとしたとき、机の上から落ちてまあまあのケガというか傷を負ったことがある。

今から思えば、きっとあのプリンターは雄で、チェキはおもちゃみたいなカメラなのにちゃんといい感じの写真が出力されるのを縄張りが荒らされたみたいに感じたのかもしれない。

いまのところ、新しい絵布尊のプリンターはおとなしい。最新のプリンターだからなのか雌だからなのかはわからない。


「どっちなんだろうね」
僕は、どっちでもかまわないと思いながら妻に言う。

「女心わかってないね」
妻がプリンターを撫でながら言った。

そうかもしれない。僕は女心もプリンター心もわかってないのだ。