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倒錯する大根の見る夢は

もし、いろんな「問い」が並んでるスーパーマーケットがあったら迷わず僕は入る。

もちろん、商品も陳列されているんだけど、そのスーパーでは商品の横に「問い」が一緒に並んでいるのだ。

『人生にチョコレートが必要な理由』だとか『倒錯する大根の見る夢はモノクロームである』『ダンテと鰻』とか。

これはPOPのようなものと言えるのかもしれないけど、商品の売り文句は何も書かれていない。ある種のテーゼというか「問い」だ。

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僕は売り場をうろうろしながら、思考の棚を歩く。

チョコレートの包み紙が銀色ではなく赤だとどうなるのか。

隣りの畑のニンジンと恋に落ちてしまった大根はどんな夢を見るのだろうか。

鰻屋に入ったらお客が全員、ダンテの神曲を読んでいて、驚いて厨房を振り返ったら店の主人も同じようにダンテの神曲を読んでいたら僕はあきらめて店を出るべきなのか。

そんなことを考えながら、僕は今日もスーパーマーケットを歩く。消費の門をくぐり、消費の谷へ下りながら。

ただ思索しながらスーパーを歩き回ってるだけでは不審者なので、一応、何かを買う。鰻とチョコレートとか。

レジの前に来ると、並んでいるお客が、みんな買い物かごに大根だけ一本ずつ入れているのに気づく。他に何も買っていない。

偶然なのかもしれないし、今日は大根をみんな買いたくなる日なのかもしれない。


どのお客も当たり前のような顔をしていて、レジの店員さんも当たり前のように大根が一本だけ入った買い物かごを受け取ってバーコードを読み取っていく。

僕の買い物カゴの中身だけ、わりと変な組み合わせになっていて、レジで後ろに並んだ女子高生とその母親の不思議そうな視線を感じる。

だけど、それくらいは許してほしいと思っている。初夢なんだし。