君の鼠は唄をうたう(6)はなおとめ
「おい、なんか聴こえないか?」
昼休みの気だるい沈黙の中で、坑夫のひとりが呟いた。
「なんだよ」
隣でウトウトしていたもう一人の抗夫が面倒くさそうに応える。
「……唄…誰かうたってるよ、ほら」
抗夫は耳に手をあてて言った。
「そんなの聴こえやしないよ。この工区にいるのは俺たちだけだぜ」
「こっちだ」
薄く漏れ伝わってくる声に誘われるように立ち上がると、抗夫たちは使われなくなったトンネルのほうに歩いていく。
「鼠男!」
換気口を開けた抗夫たちは顔を見合わせる。
たくさんの鼠が一匹の鼠とスーツを着た鼠男の唄に合わせて踊ったり、うっとりとした表情で肩を揺らしているのだ。
「なんてこった」
「まったく」
抗夫たちは鼠に気づかれないように、そっと換気口から離れる。
「どうする?」
「なにをだよ」
「鼠のことは報告しなくちゃならない決まりだったよな」
「知ってるさ」
「あの鼠男は、まさかここで暮らしてるんじゃないのか?」
訝っていた抗夫は、何かを思いつめたような表情で同僚の坑夫に告げる。
「俺は、あいつに会ってくる」
「なんだよ、お前おかしくなっちまったんじゃねえか」
「まともさ。ヤツは自分の運命を知らないんだ」
「おいおい、鼠を消すのは上の方針だぜ」
……つづく
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これまでのお話
◎君の鼠は唄をうたう (1) (2) (3) (4) (5)
◎熊にバター
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