「さしすせそ」の営業された
うちみたいな里山オフィスで仕事していると、都心みたいに突然「営業」がやって来るって、まあない。平和だ。
なのだけど、ほんと年に1、2回ぐらいは営業っぽい人が来ることがある。
あるときは、すごくくたびれたおじさんがやって来た。大変失礼な言い方だけど、そうとしか言いようがないぐらい全体的にくたびれていた。
地味なスーツを着て、一応、ネームホルダーっぽいものを首から下げてるので、ああ営業の人なんだなというのはわかる。でも、それを上回るくたびれ感に圧倒されて、いったいなぜこの人はこんなことになってるんだろうか? と、頭の中に疑問が渦巻き、まったくおじさんの話が入ってこなかった。
ほんとに、何の営業をされたのか覚えてないのだ。そんなことってある? 自分の記憶力があかんことになってるんじゃないかと心配にもなる。
いちばん最新の突然営業は、謎のおじさんとは異世界なぐらいの転生して人間界で営業してみたら無双だった新卒女子だ。(適当なラノベ設定)。
なぜ新卒とわかったかというと、彼女が自分で名刺(当然社名は伏せるけど、ニッチな業界ながら知ってる人は知ってる出版社)を差し出し、新人の研修の一環でこの地域を回らせてもらってます! と元気よく言ってくれたからだ。
だけど、なんでピンポイントにうちに? その出版社の定期刊行物は、職業的に必要とする人としない人がパキッと分かれる。なので無差別に訪問してもまったく意味がなくて、うちにはほぼ必要がない。
たずねてみると、うちの知り合いのAさんに教えてもらったらしい。ライターやってる人がいるから会ってみたら? と言われて素直にやって来たのだ。Aさんはもちろん悪気(?)はなくて、そのあたりはゆるい。
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いまどきの若手の子らしく、ちゃんと相手の目を見ながら目を輝かせていろいろグイグイ聞いてくる。
あの、一応、いま原稿書いてて仕事中なんだけどなと思いながらも、知り合いの紹介だし、自分だって新人時代、こうやってお客さんのところでいろいろ教えてもらったんだよなと若かりし頃の記憶もあるのでそっけなくしたくもなく、聞かれたことに答えてた。
ただ、どことなく違和感がある。なんだろうな、この違和感と思って彼女のリアクションを見てたら、ああそうかと思った。見事なまでに返しが「さしすせそ」なのだ。
さすがですね!
しりませんでした!
すごいですね!(もっとも多用)
センスいいですね!
そうなんですかー!
ほぼ、それしか言ってない。すごいな。きっと研修で教わったのか、あるいは就活のときからそうやってきたのかもしれない。それを完璧にマスターしてる。ある意味、優秀。
なので、今回も彼女が何を聞いてきたのかほとんど覚えてなくて「さしすせそ」しか記憶にない。
それでもちゃんと、自社の出版物の定期購読を推してきたので、本当に優秀なのかもしれないけど。